セントポール大聖堂を征く
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■ 「西の大聖堂(west-minster)」のウェストミンスター寺院に対し、「東の大聖堂(east-minster)」と呼ばれたセントポール大聖堂。前者は聖人に列せられたエドワード懺悔王を祀る「王室の墓所」であるが、後者はキリスト教における重要な聖人のひとり、聖パウロ(英語名はセントポール)に捧げられた「宗教的建築物」である。今号では、シティに建つ代表的なランドマークを改めて紹介する。

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

セントポール大聖堂を征く

セントポール大聖堂の起源はウェストミンスター寺院より古く、1400年以上前にさかのぼる。古代ローマ人が建てたローマ神話に登場する月の女神ダイアナの神殿跡地に、聖パウロを祀る教会を建立。何度も倒壊や焼失に見舞われたため、現在の建物は5代目にあたる。1666年に起きたロンドン大火で4代目が焼失した後、英国随一の建築家クリストファー・レンが35年の歳月をかけて完成させたもので、彼が手掛けた数々の建築物の中でも最高傑作と名高い。

セントポール大聖堂の特徴といえば、ルネサンス様式の美しいドーム。ロンドンには「ビュー・コリドー」(眺望の通路)という景観規制があり、ハムステッド・ヒースやプリムローズ・ヒル、グリニッジ展望台などの8つの小高い丘からドームを眺めることができるように、それらと大聖堂を結ぶ「通路」上に建造される建物には高さの制限が設けられている。金融の中心地であるシティは、第一次・第二次世界大戦ともに激しい空爆を受けたが、そうした中でもこの大聖堂は奇跡的に焼失を免れた。燃え上がる火の手や煙に包まれながらも、瓦礫の中で堂々とそびえるドームの勇姿に、市民は励まされたのだ。終戦後は復興のシンボルともされ、「人々の心の支え」をどこからでも目にすることができるように――と規制が設けられたのである。

同所のもうひとつの特徴は、英国における2人のヒーローの葬儀が行われ、埋葬されている点。その2人とは、トラファルガー海戦を指揮してナポレオンの上陸を退けた「海の英雄」ネルソン提督と、ワーテルローの戦いでナポレオンを破って流刑に追い込んだ「陸の英雄」ウェリントン公爵だ。ほかにも、チャーチル元首相、最近では2013年にサッチャー元首相の葬儀が執り行われ(埋葬はされていない)、40年前にチャールズ皇太子とダイアナ元妃の結婚式が開かれたのもここである。次期君主の多くはウェストミンスター寺院で挙式してきたが、2人は「人々の皇太子・皇太子妃でありたい」と同所を選んだという。

市民から愛され続ける祈りの地、ゆっくりと足を運んでみては?

ナポレオンから英国を守り抜いた、隻腕隻眼の海の英雄
❶ ホレイショ・ネルソン提督

人生の大半を海上で過ごしたネルソンは、激戦の末に片目と片腕を失いながらも退くことなく戦い続けた。1805年のトラファルガー海戦では英国を勝利に導いたが、船上で銃弾を受けて死去した。享年47。

英国を守り抜いた、隻腕隻眼の英雄 ホレイショ・ネルソン

ナポレオンを流刑に追い込んだ、陸の英雄
❷ ウェリントン公爵

1815年のワーテルローの戦い(英名:ウォータールーの戦い)でフランスを破り、ナポレオンを欧州から遠い孤島へ追い払ったウェリントン。46歳で退役し、残りの40年近い人生を政治家として過ごした。享年83。

ナポレオンの宿敵、ウェリントン公の栄誉の館 アプスリーハウスを征く

セントポール大聖堂の設計者
❸ クリストファー・レン

奥の黒い石板がクリストファー・レンの墓、手前の石板は同姓同名の息子の墓。工事終盤には70代になっていたレンは、指揮監督や実務のほとんどを息子に任せたが、91歳で亡くなるまで定期的に大聖堂を訪れ、各所を点検していた。

ロンドン大火から350年 {Part2} よみがえった都 ― 天才クリストファー・レンの挑戦 ―

❹ ジョン・エヴァレット・ミレイ(左)
J.M.W.ターナー(右)

ネルソンとウェリントン以降、同大聖堂は戦争功労者やより良い世の中をつくるのに貢献した者が埋葬されるようになった。風景画家のターナーや「オフィーリア」で知られるミレイほか、多くのヴィクトリア朝時代の画家が眠っている。

下町生まれの激情型 国民画家 ターナー
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One New Change

大聖堂を間近に眺めながらのんびり!
おすすめスポット

2010年にセントポール大聖堂の向かいにオープンした、近代的な外観のショッピング・モール「One New Change」。そこのオープンテラスからは、大聖堂のドームを間近で眺めることができ、絶好の撮影地となっている。ベンチもあるので、のんびりと過ごせる㊙スポットだ。

▲ ルーフテラスからの眺め。レストラン・バー「The Ivy Asia」もあるので、食事を楽しむこともできる。
▲ ガラス張りのショッピング・モールなので、こんなアーティスティックなインスタ映え写真も撮れる!

Travel Information ※2021年8月30日現在

St Paul's Cathedral
St. Paul's Churchyard, London EC4M 8AD
Tel: 0207 246 8350
www.stpauls.co.uk

開館時間: 月~金12:00~17:30(土曜は10:00~)
入場料:£17(音声ガイド/ギャラリーへの入場も含む)
最寄り駅:St Paul's

週刊ジャーニー No.1204(2021年9月2日)掲載