
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部
ヴィクトリア朝を代表する画家のひとり、ジョージ・フレデリック・ワッツ(1817〜1904年)。ロンドンの喧噪から離れ、穏やかに晩年を過ごす場所として彼が選んだのは、ギルフォード郊外にあるコンプトン村だった。今号では、彼が妻とともに永眠する同所をご紹介したい。

筆者の非常に私的で独断的なイメージなので、もしワッツの「熱狂的なファン」の方がいたら先に深くお詫びしたいのだが、筆者が抱いているワッツの印象のひとつに、「年下の女性がお好み」というものがある。
彼の最初の結婚は1864年で、ワッツ46歳、お相手の舞台女優エレン・テリーは16歳。とくに彼女は、50歳になっても悲劇の乙女オフィーリアを演じられるほど可憐で愛らしい風情だったこともあり、「幼な妻」と社交界でからかわれ、結婚生活は1年に満たずに破綻した。2回目の結婚は1886年で、ワッツ60歳、お相手の陶芸家でデザイナーだったメアリーは35歳。この結婚生活は順調で、メアリーは夫を看取った後、夫の墓の近くに自身のデザインした礼拝堂まで完成させている。
ワッツ・ギャラリーのスタッフに、ワッツの「女性の好み」について冗談半分で尋ねてみると、ひとしきり笑った後、こう教えてくれた。「エレンについては最初、彼女を様々な誘惑から守り、教育を与えたくて養子にしようとしていたの。でも周囲に『成人しているのに養子なんて』と反対され、妻にしたと伝えられているわ。メアリーについては、同じアーティスト・コミュニティにいた2人だから、周囲に勧められたのではないかしら。当時の女性としては、彼女の結婚はかなり遅いしね」。ポイントは何より、メアリーはワッツの才能をとても尊敬しており、彼のそばで活動のサポートをすることを誇りに思っていたという。
メアリーとの再婚後、ギルフォード郊外に広がるサリーの丘陵地帯を気に入ったワッツは、住居兼アトリエとしてテューダー様式の家「リムナーズリース(Limnerslease)」を建設。「リムナーズリース」は造語で、リムナー(Limner)は中世英語で「画家・芸術家」、リース(Lease)は「収穫」を意味し、「(人生の終わりに近づいた)画家が、新たなインスピレーションや未来への希望を拾い集める場所にしたい」という思いが込められている。
夫妻はやがて、家のすぐ近くにあった建物も買い取って「ワッツ・ギャラリー」に改築。ワッツの作品を常時展示するスペースを設けたが、1904年のオープンから間もなくしてワッツはリムナーズリースで息を引き取った。メアリーは夫の死の30年以上後、1938年にやはりリムナーズリースで死去している。
ワッツ・ギャラリーからリムナーズリースまでは徒歩5分、夫妻の墓とメアリーが手がけた礼拝堂が建つセメタリー・チャペルまでは徒歩7分ほど。アート好きな人は、ぜひ訪れていただきたい。





編集部が選んだ ワッツの代表作5選 

『発見された溺死者』Drowned Found
1850年 / ワッツ・ギャラリー所蔵

『パオロとフランチェスカ』Francesca and Paolo
1872年 / ワッツ・ギャラリー他所蔵

『希望』Hope
1886年 / テート・ブリテン、ワッツ・ギャラリー他所蔵

『選択』Choosing
1864年 / ナショナル・ポートレート・ギャラリー所蔵

『フィジカル・エネルギー』Physical Energy
1880年代〜1904年 / ケンジントン・ガーデンズ、ワッツ・ギャラリー他
Travel Information
※2026年8月18日現在
Watts Gallery
Down Lane, Compton, Surrey GU3 1DQ
www.wattsgallery.org.uk
- 【オープン時間】
- 火〜日曜 10:30〜17:00
※Visitor Centre, Shop & Watts Cemetery Chapel は 10:00〜17:00 - 【料金】
- 大人 £17.75、15歳以下は無料
※二酸化炭素排出削減のため、ナショナルレール利用で 2 for 1 Entry (2名で1名分の価格)利用可能
※夏季特別価格(9月1日まで):大人 £15.75 - 【アクセス】
- 電車:ロンドン・ウォータールー駅からギルフォード駅あるいはゴルダミング駅まで行き、そこからバス。所要1時間30分弱。
週刊ジャーニー No.1458()掲載


















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