●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部
■ 今年初演から40周年を迎える、ロングラン・ミュージカル「オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)」。前号でお届けした英国が誇るミュージカル界の巨匠、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバー氏の特集記事に続き、今回は「オペラ座の怪人」の舞台になっているフランス・パリのオペラ座を紹介したい。
1986年10月9日の開幕以降、ウェストエンドのヒズ・マジェスティーズ劇場で上演され続けているミュージカル「オペラ座の怪人」は、フランスの作家ガストン・ルルーが、実際にパリのオペラ座で起きた事故や事件、噂話などをもとにして書き上げた同名小説(1910年刊行)を原作としている。劇場の地下に潜む仮面で顔を隠したファントム(怪人)、同劇場所属の美しい声を持つ若き歌姫クリスティーヌ、彼女の幼なじみの子爵ラウルによる、切ない三角関係が心を揺さぶるゴシック・ラブストーリーだ。
物語の舞台であるパリのオペラ座の正式名称は「ガルニエ宮(パレ・ガルニエ/Palais Garnier)」で、通称「オペラ・ガルニエ」「オペラ座」などと呼ばれる。フランス皇帝ナポレオン3世の命によって1875年に完成し、当時の贅を尽くした「宮殿」のような内装が特徴。悔しいことに、ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスとは比較にならないほどの規模と絢爛豪華さを誇る。建物名の「ガルニエ」は、設計した建築家シャルル・ガルニエからとられている。
オペラ座の地下には深い水脈が通っており、建造工事でこの地下水脈が大きな問題となった。蒸気ポンプを何台も投入して汲み上げても一向に水は枯れず、工事現場は浸水。ガルニエは水路と巨大な貯水池を地下につくることで問題を解決したが、やがて広まった「オペラ座の下には地底湖がある」との噂が、ガストン・ルルーに「地下水路を隠れ家にしているファントム」という着想を与えた。「オペラ座の怪人」でもっとも有名な場面であるシャンデリアの落下も、なんと実際に起こった事故のひとつだ。悪魔と契約し、知識と快楽を追い求めた学者の悲劇をつづったオペラ「ファウスト」の上演中、ガルニエがデザインした重量7トンに及ぶシャンデリアの部品のひとつ(シャンデリア自体ではない)が外れて落下、1名の死者と数人の負傷者が出ている。また、毎晩5番のボックス席を予約する謎の紳士の噂、ステージ上でガス灯の火が衣装に引火して大やけどを負ってしまったバレリーナ、ロープで首を吊った劇場スタッフ――といった実話のほか、あちこちで目撃されている幽霊の存在も、原作小説のインスピレーションとなっている。
オペラ座のバレエやオペラ公演のチケットは高額で人気も高く、なかなか入手しづらい。劇場の本来の素晴らしさを知るにはぜひ舞台を観ていただきたいのだが、公演のない昼間は一般公開されているので、劇場内を見学するだけでも十分に「オペラ座の怪人」の世界を満喫できる。
とくに中央付近に踊り場を備えた立体的な吹き抜けの大階段は、目にした瞬間に「オペラ座の怪人」第2幕の冒頭、「仮面舞踏会」のシーンで大勢の出演者たちが歌って踊る「マスカレ~ド♪」のフレーズが頭の中でリフレインするに違いない。いわくつきのシャンデリアは、観客席から見上げると想像していたよりも小さく感じて意外に思うかもしれないが、実際には幅4メートル、高さ5メートルもあるという。そして絶対に外せないのが、2階5番のボックス席。ファントムが劇場の新支配人に「自分のために常に空けておくように」と指示した指定席で、扉にはちゃんと「LOGE DU FANTÔME DE L'OPERA」とプレートが飾ってある。ちなみに、ファントムは「この命令に背いた場合、諸君の想像を絶する災いが起こるであろう…」と告げているが、予約は可能なので、勇気があればチャレンジしてみるのもいいだろう。
節目を迎える今年、パリを訪れた際には、ぜひオペラ座に足を運んでみてはいかがだろうか。
© Peter Haas
© David Pendery
「オペラ座の怪人」10年後のストーリー「ラブ・ネバー・ダイ(Love Never Dies)」
「オペラ座の怪人」の続編として、2010年に発表されたミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」。フランスの作家ガストン・ルルーの小説をもとにしてつくられた「オペラ座の怪人」に対し、「ラブ・ネバー・ダイ」は作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバー氏の完全オリジナル作品である。
物語は「オペラ座の怪人」の10年後で、舞台はパリからニューヨークへ移る。オペラ座から姿を消したファントムは、ニューヨーク郊外にあるビーチリゾートのコニーアイランドで、人前に現れない仮面を着けた謎多きオーナーとして妖しげな遊園地「ファンタズマ」を運営し、大成功を収めていた。
一方、キャリアのピークが過ぎてオペラ座のトップ歌姫の座を明け渡していたクリスティーヌは、酒とギャンブルに溺れる夫ラウルが抱えた借金に頭を悩ませていた。そんなある日、クリスティーヌのもとに「ファンタズマ」から出演依頼の招待状が届く。オーナーがファントムであることを知らないクリスティーヌは、夫と息子を連れてニューヨークへ向かうが…。
舞台がニューヨークの遊園地(サーカス)になったことで、クラシカルな雰囲気と曲調が特徴だった「オペラ座の怪人」に比べて、バーレスク曲やロック調の曲が取り入れられるなど、かなりイメージが一新されている。だが、「オペラ座の怪人」と同じ旋律も時折流れるので、前作ファンはテンションが上がる。
しかし、ストーリーとしては非常に人間臭いドロドロのメロドラマに仕上がっており、「ミステリアスさが魅力だったファントム、どうしちゃったの?」「好青年だったラウル、なぜそれほど落ちぶれちゃったの?」「メグとの友情はどこに…」「まさかそんな結末⁉」と衝撃を受ける人も多いかも。これが「ハッピーエンドの後も人生は続く」ということなのか…?
2010~2011年にかけてロンドン・アデルフィ劇場で上演された初演の評価は低く、以後ロンドンで再演されていない。ちなみに、この公演時にロイド・ウェバー氏は重要建造物である劇場の壁を黒く塗りつぶしたことで、2万ポンドの罰金を課されている(写真下)。

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Travel Information ※2026年3月10日現在

ガルニエ宮(オペラ・ガルニエ)
Place de l’Opéra
75009 Paris, France
www.operadeparis.fr/en/visits/palais-garnier
【見学料金】
セルフガイド・オーディオツアー :25€
ガイドツアー :35€
閉館後のガイドツアー :42€
【最寄り駅】オペラ駅
週刊ジャーニー No.1434(2026年3月12日)掲載


















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