
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部
■ ロンドン中心部とその近郊には、120を超える墓地が点在している。その中には、散歩道が整備され、公園のような趣を持つ霊園も少なくない。これらの多くが誕生したのは、19世紀のヴィクトリア朝時代のこと。産業革命による急激な人口増加で、埋葬場所の不足が深刻な社会問題となったからだ。今号では、ロンドンで最初に誕生した公共墓地「ケンザル・グリーン・セメタリー」を征く。
ヘンリー8世の治世以降、死者(英国国教徒)は暮らしていた教区の教会墓地(チャーチヤード)やプライベート墓地に埋葬されるのが一般的だった。非国教徒(英国国教会に属しないプロテスタント、クエーカー教、ユダヤ教など)も、それぞれの宗教・宗派専用の教会墓地などで眠りについた。
ところが、17世紀中頃、宗教に対する締め付けがやや緩和されると、非国教徒の存在も暗黙のうちに認められるようになり、絶対数の少なかった専用の教会墓地以外での埋葬が少しずつ進みはじめる。やがて産業革命によって人口が爆発的に増え、さらに世界各地で猛威を振るっていたコレラがロンドンにも上陸したことで、宗教や宗派の垣根を越えた広大な「共同墓地」の新設が急務となった。
そうして1832年、ロンドン郊外に最初に誕生した共同墓地が「ケンザル・グリーン・セメタリー」である。以降、10年のうちに、ウェスト・ノーウッド(1836年)、ハイゲート(1839年)、アブニー・パーク(1840年)、ナンヘッド(1840年)、ブロンプトン(1840年)、タワー・ハムレッツ(1841年)が次々と完成。これら7つは、「Magnificent Seven」と呼ばれている。
「庭園墓地(ガーデン・セメタリー)」の呼び声が高く、オープン当初から観光客やピクニック客で賑わっていたハイゲート・セメタリーに比べると、ケンザル・グリーン・セメタリーの造りは比較的シンプル。鬱蒼とした森林地帯もなく、際立って著名な人物や王侯貴族が多数埋葬されているわけでもない。訪れている人は親類や友人の墓参り…といった風情で、200年近い歴史を誇る墓地でありながら「墓所としての現役感」が漂う。実際に、現在でも同所の墓を購入することは可能だ。
日曜に催行されているボランティアによるガイドツアーにも参加したが、熱心なボランティア・ガイドと歴史に興味津々な参加者らが集ったせいか、予定の2時間(それでも長いが…)を悠々と超える2時間半のロングツアーとなった。こうした点も、若干「商業的」なハイゲート・セメタリーのガイドツアーとは異なる印象を受けた(ただし、緩く楽しみたい人には苦行かもしれない)。

ケンザル・グリーン・セメタリーに埋葬されている故人で最も地位が高いのは、国王ジョージ3世の息子オーガスタス・フレデリック殿下(サセックス公爵)=写真=と、同じく娘のソフィア王女。彼らが率先して埋葬地に選ぶことで、貴族・富裕層の間で広がっていた「共同墓地なんて…」という忌避感を払拭させたという。そして同所で最も有名な人物の墓といえば、ロンドンとブリストルを繋ぐグレート・ウェスタン鉄道、大西洋を横断する大型蒸気船の建造などに携わった技師、イザムバード・キングダム・ブルネルのものだろう。「質実剛健」といった雰囲気の墓石=写真=には、彼の両親、妻、子どもたちも共に眠っていることが記されており、最近では2009年に孫娘が埋葬されていた。やはり現役の墓所なのだ。

ケンザル・グリーン・セメタリー(イーストゲート)は、メインゲートから西側が英国国教徒、東側のわずかな敷地が非英国国教徒の埋葬地となっており、「共同」と言いつつも永眠場所は分かれている。ガイドツアーでは、東端に建つ「非英国国教徒の礼拝堂(Dissenters' Chapel)」にも入場でき、地下墓所(カタコンベ)の見学もできる。興味のある人は、訪れてみてはいかがだろうか。


園内見どころマップ ケンザル・グリーン・セメタリー MAP
ウェストゲート近くに建つ、現役の火葬場。同墓地に埋葬されてはいないものの、ロンドンで死去した女優イングリッド・バーグマン、ロックバンド「Queen」のボーカルであるフレディ・マーキュリー、近年では俳優アラン・リックマンがここで火葬された。
墓地の中央に建つ、英国国教徒用の礼拝堂。地下にはカタコンベがあるが、大戦で空爆を受けるなど老朽化が進み、立ち入り禁止となっている。
非英国国教徒用の礼拝堂は、ガイドツアーでのみ見学可能。破壊や落書きといったヴァンダリズム被害に遭い、地下のカタコンベには棺などはほとんど残されていない。
- ❶ ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの墓
1849〜1917年/画家「シャロットの乙女」 - ❷ ウィルキー・コリンズの墓
1824〜89年/作家「白衣の女」 - ❸ オーガスタス・フレデリック殿下の墓
1773〜1843年/国王ジョージ3世の6男 - ❹ イザムバード・キングダム・ブルネルの墓
1806〜59年/技師 - ❺ ウィリアム・サッカレーの墓
1811〜63年/作家「虚栄の市」
Travel Information ※2026年8月4日現在
Kensal Green Cemetery
ケンザル・グリーン・セメタリー

Harrow Road, London W10 4RA
www.kensalgreencemetery.com
【最寄り駅】
ケンザル・グリーン駅(Kensal Green Station)から徒歩5分
【オープン時間】 ※ウェストゲート
・夏季/月〜土曜 9:00〜18:00、日曜 10:00〜18:00、祝日 10:00〜13:30
・冬季/月〜土曜 9:00〜17:00、日曜 10:00〜17:00、祝日 10:00〜13:30
【ガイドツアー】
・料金:1人 £12(入場自体は無料)
・開催日:3〜10月の日曜、11〜2月の第1・第3日曜
・時間:14:00〜16:00(約2時間)
・集合場所:墓地の中央に建つアングリカン・チャペル
※オンラインでの事前予約要(詳細は www.kensalgreen.co.uk/tours.php を参照)
週刊ジャーニー No.1456(2026年8月6日)掲載



















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