
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部
■ ロンドン中心部の金融街、シティの北側に広がる巨大な集合住宅地「バービカン・エステート」。その敷地内に建つ複合文化施設「バービカン・センター」には、キューガーデンに次ぐロンドンで2番目の規模を誇る温室「バービカン・コンサバトリー」がある。今回は、まるでジブリの世界に迷い込んだかのようなシークレット・ガーデンを紹介したい。
第二次世界大戦のロンドン大空襲によって、大部分が破壊されたシティとバービカン一帯。被害は甚大で、1951年のバービカン地区の住民登録者数は50人に満たなかった。この廃れてしまったバービカンに、再び人を呼び戻すためにシティ自治体(City of London Corporation)が計画したのが、デザイン性に富んだ新たな巨大住宅地「バービカン・エステート」の建設だった。「集客力」を高めようと、当時は非常に珍しかったタワー型の住居3棟に加え、コの字型や円形型、並列型など様々なテラス式住居を隙間なく組み合わせ、それらを歩行者専用の高架橋「ハイウォーク」で繋ぎ、ひとつの小さな街をつくりあげたのである。
さて、バービカン・エステートと言えば、1950~60年代に流行した「ブルータル(Brutal/粗野な、荒々しい)」を語源とするブルータリズム建築が特徴だ。ブルータリズムとは、建築素材や構造を露出させたままの状態を「美」とする様式で、「建物は何でできているのか、どのように組み立てられているのかを覆い隠すべきではない」という考えを重視している。同所も打ちっぱなしのコンクリートが多用されているため、重厚でどことなく威圧感があり、曇天の多い英国では暗い雰囲気も漂う。だが実は、最初はブルータリズム様式で設計されていたわけではなかった。
建設会社は当初、タワー型住居は研磨されたコンクリートで仕上げ、テラス式住居の壁は白い大理石、バルコニーはモザイクタイルで飾るなど、明るく華やかな住宅街を想定していた。しかし、こうした案はシティ自治体にことごとく却下され、予算と作業時間の削減を優先させた結果、今のような姿になったのである。
学校や教会も建つエステート内に、劇場やコンサートホール、映画館、図書館、レストランなどが入った複合文化施設「バービカン・センター」がオープンしたのは1982年のこと。ところが、劇場の舞台上部に設けられた、照明や緞帳(どんちょう)、舞台装置を稼働させたり収納したりするための高い塔のような建物「フライタワー」について、「あまりにも見栄えが悪い」と隣接するタワー型フラットの住民から不満が続出してしまった。仕方なく、このフライタワーを覆う形でガラス張りの屋根を設置し、同センターの開館から2年後の1984年に急遽誕生したのが、温室植物園「バービカン・コンサバトリー」だった。その問題のフライタワーがページ上の写真にあるコンクリートの建物であり、その下階は劇場の舞台にあたる。
そうした「慌てぶり」を感じさせない、長い年月をかけて成長したかのようなツタや木々、南国の草花が、無機質なコンクリートの壁を覆うようにして生い茂る様子は、通常の植物園とは一線を画している。遠い過去の遺跡を歩いているような、あるいは廃墟になりゆく近未来に立っているような、不思議な世界が広がっている。まるでスタジオ・ジブリの映画「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」の中に迷い込んだかのような錯覚に陥った。約2000種類もの植物が育てられ、橋や階段を渡ったり、池で悠々と泳ぐ大きな鯉を眺めたり、ちょっとした冒険気分も味わえるだろう。
改修工事のため、2028年6月から1年ほど休館することを発表したバービカン・センター。インスタ映えスポットとしても非常に人気なので、チケット(入場無料)はなかなか入手しづらいが、30分ほどあれば十分楽しむことができるだろう。植物が好きな人はもちろん、建築や廃墟ファンは、ぜひ訪れてみていただきたい。




コンクリート・ジャングルを探検しよう!バービカン・エステートの歩き方
■ 戦後の再建プロジェクトとして、1965~76年にかけて建設された集合住宅地「バービカン・エステート」。団地好きにはたまらない、ちょっと変わった同所を見てまわろう!

❶ バービカン駅を出て正面のBeech Streetに進むと、高架下を歩くことに。住宅地へは高架上のハイウォークから渡ろう。

❷ ハイウォークは、駅出口の左側に(ひっそりと?)ある階段を上ればたどり着ける。

❸ 電灯や様々なフラットが建ち並び、広場にはベンチや花壇も。晴天だと気持ちがいい。そのままバービカン・センターまで行けるが、入り組んでいるので迷いやすい。
❹ 色々なタイプの建物が並んでいるので、見て歩くだけでも面白いが、バービカン・センターが主催するウォーキング・ツアー「Architecture Tours」(毎日催行/£18)がおすすめ。

© Tilman2007


Travel Information※2026年1月20日現在



Barbican Conservatory
バービカン・コンサバトリー
Barbican Centre(Level 3)
Silk Street, London EC2Y 8DS
www.barbican.org.uk
※入場無料だが事前予約制(1ヵ月前に発売)なので、公式ウェブサイトでの予約必須。基本的には、金曜の夜間と日曜に開園。
週刊ジャーニー No.1428(2026年1月22日)掲載


















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