■中世の趣を残す街並みに可愛らしい個人商店が軒を連ね、丘の上には荘厳な大聖堂がそびえるリンカーン。丘の麓には活気あるショッピングエリアと大学キャンパスが広がり、『学生街のある古都』として知られ、北イングランドの人々の小旅行先としても人気がある。今回は、古さと新しさが共存するこの街を征くことにしたい。
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/ネイサン弘子・本誌編集部
イングランド東部にあるリンカーンシャーは、土地の約80%が農地で、家畜の飼育や穀物・野菜の栽培に加え、食品加工も盛んな地域だ。その県都リンカーンは、肥沃な大地がそうさせるのか、人々の素朴で温かい気質がそうさせるのか、あるいはリンカーン大学の学生たちがそうさせるのか――訪れた瞬間から心地よい活気を感じさせる街だ。
この街の起源は、約2000年前のローマ時代にさかのぼる。ローマ人がこの地に築いた砦「リンディム・コロニア(Lindum Colonia)」とともに要塞都市として栄え、今も市内にはゲートなどの史跡が複数残る。産業革命期には羊毛貿易で発展し、イングランド有数の商業都市として名を馳せた。その後、鉄道や工業の発達とともに街は拡大し、やがて、第一次世界大戦中には、ある分野で非常に重要な役割を果たすことになる。
中世の趣ある街を訪れて、まさか戦車について調べることになるとは思わなかったが、やはりこの街を紹介するうえで戦車以上に欠かせないのは、街のシンボルであるリンカーン大聖堂だろう。車でリンカーンの街に近づき、まだ少し遠い丘の上にその姿を見にした瞬間、安堵と感動が同時に押し寄せた。1092年の建造以来何世紀にも渡って、今よりも遥かに過酷で長い旅路を歩んできた旅人たちにも、長旅の疲れを忘れさせるほどの感動を与えていたに違いない。
ヴィクトリア時代の批評家ジョン・ラスキンが「英国でもっとも貴重な建築で、他の大聖堂二つ分の価値がある」と称賛したこの大聖堂の周りには今も高い建物がない。古い町並みに囲まれて佇むその姿は、荘厳さとともに街を見守る母のような優しさを感じさせる。
この街の見どころはほかにも多い。リンカーン城では1215年のマグナ・カルタの原本が公開されており、歴史好きにはたまらないスポット。城内にはヴィクトリア時代の刑務所が残されており、城壁の上をぐるりと歩けば、街と田園風景のパノラマが広がる。
大聖堂や城へと続く、イングランドで4番目に急な坂道「スティープ・ヒル」は、この街自慢の『坂』。石畳の両側には個性的なショップやカフェが並び、歩くだけでも楽しい。1160年に建造された「ハイ・ブリッジ」は、国内に現存する最古の橋のひとつであり、イングランドで唯一、橋の上に建物が残る中世の橋でもある。橋の周辺には人気店が集まり、地元の人や観光客で賑わっている。かつて工業地帯だったハーバー「ブレイフォード・ウォーターフロント」は、再開発によって生まれ変わり、水辺の散策コースとして親しまれている。
旅行者にとって嬉しいのは、これらの見どころがすべて徒歩圏内にあること。日帰りでも、数日のんびり過ごすにも最適な街、リンカーン。観光のあとには、名高い農業地帯ならではの地元の新鮮な食材を使った美食もぜひ味わって欲しい。
歩いて回れる! リンカーンの見どころ
Travel Information ※情報は2025年11月17日現在のもの。

車で行く場合
ロンドンからA1経由で約3時間。
公共交通利用の場合
ロンドン(キングズ・クロス駅)からLNER(London North Eastern Railway)の直通列車で約2時間。
❶ゴシック様式の庄厳な大聖堂
Lincoln Cathedral/リンカーン大聖堂

一般的なフロア・ツアー(参加費は入場料に含まれる)の他、建築に興味のある人や高所好きな人に人気のルーフ・ツアー、ステンドグラス・ツアー、床から塔の頂上まで歴史的なグラフィティを紹介するグラフィティ・ツアーなど専門的なツアー(料金別途)が豊富。
▶大人:月~土 £12.50、日のみ£ 10.50/英国の学生及び16歳以下:無料
❷ パノラマビューを楽しみながら歩きたい城壁も見逃せない
Lincon Castle/リンカーン城

リンカーン大聖堂を守るように、そのすぐそばに約1000年前に建てられた城。現存する4つの原本のひとつでる大憲章マグナ・カルタ、ヴィクトリア監獄、城壁の上をぐるっと一周しながら景色を楽しめる城壁ウォークなどの見どころ満載。
▶大人: £12.50/5~16歳、および英国の学生:£9.50/5歳以下:無料
❸ 中世の橋の上には名物カフェ
High Bridge/ハイ・ブリッジ

ウィザム川に架かる1160年建造の橋。橋上に建物がある橋は英国に3つしか現存せず、ここはそのうちのひとつで、最も古い。現在も橋の上に建つ1540年完成の建物はカフェになっており、アフタヌーンティーやリンカーンシャー・ティーが楽しめる(下コラム参照)。
❹ イングランドで4番目に急な坂道
Steep Hill/スティープ・ヒル

❸のハイ・ブリッジからハイロードを丘に向かってまっすぐ歩いていくと、この坂道へと至る。個性的なショップを覗いたり、カフェで一息ついたりしながら、休み休み16.12度の傾斜を歩こう。冬場に凍ったら、慣れない観光客は恐怖で歩けそうにない。
❺ 歴史的建物を利用したショッピング・エリア
Cornhill Quarter/コーンヒル・クォーター

19世紀後半に鉄道駅の開業に伴い、商業の中心地として発展した駅隣のエリア。名前はかつて穀物市場があったことに由来する。2010年代に始まった再生プロジェクトにより、歴史的な建物を保存しつつ、モダンなショッピング・ダイニング地区として生まれ変わった。
❻ 伝統的な暮らしや第一次世界大戦の実戦投入戦車が見られる
Museum of Lincolnshire Life/リンカーンシャー・ライフ博物館

19世紀のロイヤル・ノーサンプトンシャー連隊の兵舎だった建物を利用し、リンカーンシャーの人々の暮らしと産業の歴史を紹介するミュージアム。リンカーンで製造された世界的にも貴重な第一次世界大戦の「Mark IV 戦車」の展示が有名。巨大な鉄の塊は間近で見ると迫力満点! 入場無料。
イングランド屈指の農業地帯で味わう素朴で美味しいローカルフード
Linconshire Plum Bread

● 働く農夫たちのために作られていたレーズン、サルタナ、カランツ(プラムは入っていない)がたっぷり入ったほんのり甘い芳醇なパン。トーストしてバターを塗って食べたり、チーズを添えたりして食べるのが伝統。
● ハイ・ブリッジの上にある「Stokes High Bridge Cafe」では、プラムブレッド、ポーチャーチーズ、上質な紅茶がセットになった「リンカーンシャー・ティー(£11.80)」=写真=が楽しめる。バターが溶けた厚切りのパンの甘みとチーズの塩気が美味! 紅茶にもよく合う。
Lincolnshire Poacher Cheese

● 濃厚でナッツのようなコクがあり、しっかりした食感が楽しめるハードチーズ。1996年ブリティッシュ・チーズ・アワードの最優秀賞、2016/17年世界 チーズアワードのスーパーゴールド賞ほか数々の受賞歴を誇る。リンカーンの街にはチーズ専門店が数件あるので覗いてみよう。写真はスティープ・ヒル近くにある「The Cheese Society」のカウンター。
Lincolnshire Sausage & Haslet

● リンカーンシャー・ソーセージ
英国を代表するソーセージ。大手スーパーでもこの名で独自商品が売られている。粗挽きの食感と、セージなどのハーブ風味が特徴で、リンカーンシャーで作られたもののみその名称を名乗ることができる。
● ハスレット
前述のソーセージ同様に豚肉をハーブで風味付けした加工肉。こちらはオーブンで焼いてテリーヌ状やパテ状に仕上げ、スライスして食したり、ハスレットロール=写真=として食べられたりしている。
Fresh Vegetables

● イングランド屈指の農業地帯ならではの新鮮な野菜や加工食品もリンカーンの街にあるファーム・ショップなどで手に入る。写真はリンカーン城近くにある農産物直売所「Fresh From the Fields」。また、毎月第3木曜日にはリンカーン大聖堂近くの広場でファーマーズ・マーケットが開かれており、地元の人や観光客で賑わう。
週刊ジャーニー No.1420(2025年11月20日)掲載

























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