「オペラ座の怪人」上演40周年 稀代の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバー

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

■ 「キャッツ」「エビータ」「オペラ座の怪人」など、誰もが知る世界的な大ヒット作を生み出した作曲家、アンドリュー・ロイド・ウェバー氏(77)。ロンドンのウェストエンドでロングランされ続けているミュージカル「オペラ座の怪人」は、今年初演から40周年を迎える。今号では、この英国が誇る「ミュージカル界の巨匠」の素顔に迫ってみたい。

 

1:音楽の才能は血筋!「現代版モーツァルト」

1948年3月22日にロンドンで生まれたロイド・ウェバー氏。作曲家でオルガニストの父親はロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージック(王立音楽大学)の学長を務め、母親はバイオリニスト兼ピアニスト、祖父も1937年に行われたジョージ 6 世の戴冠式で聖歌隊の1人として歌うなど、紛うことなき音楽一家で育った。3歳でバイオリンとピアノを習い、6歳でフレンチホルンを演奏するとともに作曲にも着手、9歳で6つの組曲をつくりあげている。まさに現代のモーツァルトである。

そこに演劇の要素が加わったのは、舞台女優だったおばの存在が大きい。おばに連れられて数々の舞台を鑑賞し、一緒に人形劇団をつくって公演を開いたりしていたという。やがて音楽と演劇の両方が融合したミュージカルに魅了されたロイド・ウェバー氏は、13歳で初めてミュージカル曲を作曲。オックスフォード大に入学するも、音楽の世界に腰を据えるために1年経たずに退学して、ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックに進学した。

あとはもうトントン拍子で、成功の階段を駆け上がっていくだけであった。23歳で発表した「ジーザス・クライスト・スーパースター」が大ヒット。「ロンドン・ミュージカルの夜明けを告げた」と言われる同作は、当時の最長記録を破る8年のロングランとなった。そして30歳で「エビータ」、33歳で「キャッツ」――と驚異的な快進撃が続いていった。

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2:これまで作曲したミュージカル作品数は…

ロイド・ウェバー氏がこれまで手掛けたミュージカルは21作品。なかでも一番の代表作が、38歳のときに生み出した「オペラ座の怪人」だ。1986年10月9日にヒズ・マジェスティーズ劇場(当時はハー・マジェスティーズ劇場)で開幕して以降、今なお同じ劇場で公演が行われ、今年40周年を迎える。ちなみに、ウェストエンドで最長のロングラン公演はミュージカル「レ・ミゼラブル」(今年41周年)、総興行収入が最も高いのはミュージカル「ライオン・キング」。「オペラ座の怪人」はどちらも2位であるものの、両方でランクインしているのは凄いの一言しかない。

40年にわたって「オペラ座の怪人」が上演されている、ヒズ・マジェスティーズ劇場。

3:世界の各賞を総なめ!戴冠式の式典曲も

とにかく華々しい受賞歴を誇るロイド・ウェバー氏。米トニー賞7回、英ローレンス・オリヴィエ賞7回、米グラミー賞3回のほか、ゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞、エミー賞、ブリット・アワード、そしてアイヴァー・ノヴェロ賞に至っては14回も受賞している。その数45以上で、現在も更新中である。

こうした類まれなる音楽界への貢献により、1992年にナイトの称号「Sir」が授与されたのに続き、97年には貴族位も授けられてロイド・ウェバー男爵(Baron Lloyd-Webber)となった。2023年のチャールズ国王の戴冠式では、国王からの依頼で制作された賛美歌「Make a Joyful Noise」が披露され、翌24年にはイングランドの最高勲章である「ガーター勲章」の騎士団員にも任命されている。もはや栄光しか見えない人生である。

4:作曲に楽器は使わず「すべて頭の中で」

ロイド・ウェバー氏は作曲する際、楽器を一切使わずにすべて頭の中で作業するという。「次の日まで覚えていないような曲は人の心を打たない」というのが持論で、「ミュージカルの成功の鍵は劇の構成が第一で、メロディーはその次。人々の記憶に残る、感情を揺さぶるメロディーがミュージカルを支配するのは当然だが、曲を強引にストーリーの中に押し込むのはダメ」と過去のインタビューで語っている。

それゆえに、奇抜さは追い求めない。国や時代を超越するような、愛や喜び、苦悩、死、喪失といった普遍的な物語と高揚感をもたらす耳に残る音楽を、独自の方法で組み合わせている。

5:ヒットの秘訣は「超優秀なビジネスマン」

ロイド・ウェバー氏の特異性は、クリエイティブな面とビジネス的な面の両方をバランスよくあわせ持っている点だろう。作曲家と演劇に携わるビジネスマンとしての2視点を持ち、観客が何を好み、何を求めているのかを世界を視野に入れた上で理解し、それを自分の手で提供できるのだ。

ロイド・ウェバー氏の元で働くスタッフは、「彼が新作ミュージカルのプレスリリースを却下し、必要なはずの情報を全部削除して、まったく違う視点で書き直すように要求することはよくある」と話している。実際にそれで何度も成功を収めているといい、観客を理解し、物語を熟知しているだけでなく、どうすればチケットを買ってもらえるかまでも知っているのだとか。

アンドリュー・ロイド・ウェバーの主要ミュージカル10作

( )内の数字は初演年

● ジーザス・クライスト・スーパースター
(Jesus Christ Superstar:1971年)
● エビータ
(Evita :1978年)
● キャッツ
(Cats:1981年)=写真下
● スターライト・エクスプレス
(Starlight Express:1984年)
● オペラ座の怪人
(The Phantom of the Opera:1986年)
● サンセット大通り
(Sunset Boulevard:1993年)
● ラブ・ネバー・ダイ ※オペラ座の怪人の10年後を描いた続編
(Love Never Dies:2010年)
● オズの魔法使い
(The Wizard of Oz:2011年)
● スクール・オブ・ロック
(School of Rock:2015年)
● シンデレラ
(Cinderella:2021年)
© Effie

6:結婚は3回!「キャッツで運命の出会い」

2番目の妻サラ・ブライトマンと ロイド・ウェバー氏(1985年)。© EMI Angel

さて、そんな奇才ロイド・ウェバー氏のプライベートはというと、実は3回も結婚している。

最初の婚姻は「ジーザス・クライスト・スーパースター」を発表した1971年、23歳のとき。2人の子どもに恵まれるも、「キャッツ」に出演していた12歳下の新進女優サラ・ブライトマン(65)に心を移して離婚。翌年にサラと再婚し、彼女の魅力を最大限に引き出すために制作したのが「オペラ座の怪人」である。つまり歌姫クリスティーヌは2番目の妻がモデルで、彼女の音域にあわせて曲もつくられた。しかし、ビジネス・パートナーとしては最高だったものの、夫婦としては上手くいかなかったのか、6年で結婚生活に終止符を打っている。

3度目の婚姻は1991年で、馬好きだったことが縁となって元馬術選手の女性と結婚。この婚姻は今も続いており、子どもも3人誕生している。

7:癒しは「犬」酷評で猫がトラウマに

「キャッツ」からもわかるように、ロイド・ウェバー氏は大の猫好き。ところが、この「キャッツ」の映画化(2019年)で大問題が発生。映画「レ・ミゼラブル」(2012年)を手がけたトム・フーパー監督に一任した結果、完成した作品を観て、寝込むほどにショックを受けた。「監督はオリジナルの舞台に関わった人を採用するのを嫌がったから、なぜその音楽がそこで流れるのかということがまったく理解されていなかった」という。しかも、「CG処理された俳優たちの猫のビジュアルが怖いし、不自然」と酷評され、テイラー・スウィフト、ジュディ・デンチ、イアン・マッケランといった有名歌手や俳優が出演したにもかかわらず興行成績は振るわず、最低映画を決める「ラジー賞」でも過去最多の6部門を受賞してしまったのだ。

すっかり猫がトラウマになってしまったロイド・ウェバー氏は、傷ついた心を癒すために、生まれて初めて犬を飼い始めた。新型コロナが蔓延する中で仕事でニューヨークに行くときにも、航空会社に「精神的にダメージを負っているから『セラピー・ドッグ』を連れて行く必要がある」と帯同許可を申請。本当に必要か証明する診断書の提出を求められたため、「ハリウッドが私の『キャッツ』に何をしたか見てください」と返したところ、「医師の診断書は必要ありません」と承認が下りたのだとか。なんとも大御所らしいエピソードだ。

8:ロンドンに6つの劇場を所有!

シアター・ロイヤル・ドゥルリー・レーンに展示された絵画コレクション。

ロイド・ウェバー氏は、「オペラ座の怪人」が上演中のヒズ・マジェスティーズ劇場以外にも、ロンドン・パラディウム、シアター・ロイヤル・ドゥルリー・レーン、ケンブリッジ劇場、アデルフィ劇場、ニュー・ロンドン劇場と、ウェストエンドに6つの劇場を所有している。初演となる新作は、自身の劇場で上演されることが多い。

2019年から1年半かけて行われた、ロンドン最古の劇場シアター・ロイヤル・ドゥルリー・レーンの修復工事にはとくに力を入れ、6000万ポンドもの巨額を投資。歴史的な美しさとモダンな劇場機能を両立させるべく、内装のデザインや配色にもこだわった。また、ヴィクトリア朝絵画のコレクターとしても知られるだけに、所有するラファエル前派の名作があちこちに展示されていることも他所にはない点だ。

今秋に新作ミュージカルの発表を予定しているロイド・ウェバー氏。まもなく78歳を迎えるが、意欲的に作品を生み出し続ける彼からまだまだ目が離せない。


ロンドンで2026年に鑑賞できる
アンドリュー・ロイド・ウェバー作品はコレ!

The Phantom of the Opera
His Majesty’s Theatre ロングラン上演中

https://uk.thephantomoftheopera.com

Starlight Express
Troubadour Wembley Park Theatre 5月3日まで

www.starlightexpresslondon.com

Jesus Christ Superstar
The London Palladium 6月20日~9月5日

https://london.jesuschristsuperstar.com

CATS
Regent’s Park Open Air Theatre 7月25日~9月12日

https://openairtheatre.com/production/cats

10月9日で上演40周年
特別記念公演はあるの?
初演から25周年を迎えた2011年には、ロイヤル・アルバート・ホールで2日間の特別記念公演を開催。世界中の映画館で生中継され、大きな話題を集めた。この公演の模様は、DVDにも収録されている(写真)。

 

その後の30周年と35周年は、ヒズ・マジェスティーズ劇場で特別ガラ公演を行ったが、40周年記念公演についてはまだ詳細が発表されておらず、同劇場のチケットも10月3日分までしか発売されていない。今月10日に来春までのチケットがリリースされるので、気になる人は要チェックだ。

今年6月以降、スペシャルイベントの情報が解禁されるとの噂も流れているが、果たして…?

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週刊ジャーニー No.1434(2026年3月5日)掲載