●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部
■ ヴィクトリア朝を代表する人気雑誌「パンチ(Punch)」の挿絵を手掛けていたリンリー・サンボーンが暮らしていた自宅が、ケンジントンの住宅街の一角にある。今回は、この知る人ぞ知る観光スポットでもある「サンボーンハウス」をご紹介したい。
1841年に創刊された「パンチ」は、時事や政治などのニュースをユーモアたっぷり、ときには皮肉たっぷりに伝えていた週刊誌だ。政治家や国家、果ては王族までもを批判することをためらわず、その矛盾や欠点をわざと誇張して描いた風刺イラストが特徴で、ヴィクトリア朝時代に爆発的な人気を誇った(1992年に廃刊/のちに復刊したが2002年に再廃刊)。同誌には数人の「お抱え挿絵画家」がいたが、リンリー・サンボーンもそのひとりである。
1844年、ロンドンで毛皮輸入業を営む家に生まれたサンボーンは、幼い頃から絵の才能を認められていた少年だった。周囲の勧めにしたがって美術学校に進学するも、肌に合わずに3ヵ月で退学。グリニッジの船舶会社で働きはじめると、絵の腕を買われて製図室勤務となった。絵を描くことが好きだったサンボーンは、製図作業の合間に同僚たちの似顔絵などを描いて楽しむ日々を送っていたが、その同僚を介してパンチ誌の編集長の手にスケッチが渡り、なんと同社に臨時雇用されることが決まった。
とはいえ、最初は文章の冒頭にある大きな頭文字を装飾する「下っ端アルバイト」からのスタート。メインのイラストを任される前に辞めていく人も多い中、サンボーンは地道に実績を積んでいき、4年後に正社員として契約。7年後には風刺イラストの担当を任され、最終的に主席挿絵画家の地位にまでのぼり詰め、40年以上にわたって雑誌を支えた。
ケンジントン・ハイストリートから一歩入った住宅街にあるサンボーンハウスは、1875年、サンボーンが31歳のときに夫妻で引っ越してきた家である。入居時は新築で、いわゆる普通のタウンハウスだったが、窓にステンドグラスをはめ込み、室内を大好きなウィリアム・モリスの壁紙で覆い、当時流行していた中国や日本の東洋陶磁器やイラストを所狭しと飾るなどして改装。お金には困っていなかったものの、ものすごく裕福とも言えない典型的なアッパーミドルクラスだったサンボーンは、仕事柄、著名人や財界人を家に招くことも多かったため、彼らの目に適いながらも、パンチ誌の主席画家らしくどこかいびつで過剰、世紀末的な雰囲気の漂う「見せるための家」をつくりあげたのだった。
サンボーン夫妻が亡くなった後、子どもたちは室内をそのまま残すことを望んだという。彼の死後から115年が経つが(1910年死去)、今も彼が暮らした当時のままの様子を見ることができる。
現代の我々から見ると、「ちょっとやりすぎじゃない?」と思うくらいの装飾過多なインテリアは、典型的なヴィクトリア朝後期の様式でもある。もし余裕があれば、同所から10分程で行ける「レイトンハウス」もあわせて訪れてみてはいかがだろうか。
© Royal Borough of Kensington and Chelsea
© Royal Borough of Kensington and Chelsea
ハイストリート・ケンジントン ART WALK
地下鉄ハイストリート・ケンジントン駅から徒歩圏内には、アートスポットが数多く点在()。駅を出て左手へ進めば、サンボーンハウス、デザイン・ミュージアム、レイトンハウスにたどり着き、逆に駅から右手へ歩くと、ケンジントン宮殿に行くことができる。どちらにもホランドパーク、ケンジントン・ガーデンズというのんびり散策できる公園もあるので、休日に1日じっくりアートウォークを楽しんでみては?
優雅に休憩したい人は、ケンジントン・ガーデンズの向かいに建つ、旧男爵邸を改築した5つ星ホテル「ザ・マイルストーン・ホテル&レジデンス」でのアフタヌーンティー(£85)もおすすめだ。
エキゾチックな画家の邸宅 レイトンハウス

ヴィクトリア朝を代表する画家、フレデリック・レイトンの自宅。数々の作品をヴィクトリア女王へ売却して得た資産を惜しみなくつぎ込み、中東から買い集めたタイルを使って豪華なアラブホールを建造するなど、30年の歳月をかけて増改築を重ねている。
12 Holland Park Road,London W14 8LZ
水~月曜 10:00~17:30
www.rbkc.gov.uk/museums
ヴィクトリア女王が生まれた ケンジントン宮殿

17世紀ステュアート朝時代、18世紀ジョージ王朝時代の王宮であり、ヴィクトリア女王が生まれ育った場所でもあるケンジントン宮殿。ダイアナ元妃が離婚後に暮らしたのもここ。サンケン・ガーデンには、2021年に公開された「ダイアナ像」が建っている。
Kensington Gardens, London W8 4PX
水~日曜10:00~16:00
www.hrp.org.uk/kensington-palace
近代のデザインや建築を学べる デザイン・ミュージアム
開放感のある吹き抜けの建物が特徴的なデザイン・ミュージアム。製品デザインやグラフィック・デザイン、インテリア、テクノロジーなど幅広い分野のコレクションを通して、英国における現代のデザイン史を学ぶことができる。
224-238 Kensington High Street, London W8 6AG
毎日10:00~17:00(金曜は18:00まで)
https://designmuseum.org
Travel Information 2025年11月11日現在

18 Stafford Terrace, London W8 7BH
www.rbkc.gov.uk/museums/sambourne-house
【開館日】 水~日曜 10:00~17:30
【入場料】 £12
※レイトンハウスとの共通券もあり。
(£22/https://leightonhouse.digitickets.co.uk/tickets)
別々にチケットを購入するよりも£4割引になる。
【最寄り駅】 地下鉄 ハイストリート・ケンジントン駅
週刊ジャーニー No.1419(2025年11月13日)掲載


















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