エキゾチックな画家の邸宅 レイトンハウスを征く
© RBKC. Image Dirk Lindner

■ ケンジントン・ハイストリートの高級住宅街の一角に、ヴィクトリア朝を代表する画家フレデリック・レイトンの私邸がある。その名も「レイトンハウス」と呼ばれ、数々の作品をヴィクトリア女王へ売却して得た資産を惜しみなくつぎ込み、30年の歳月をかけて増改築を重ねたものだ。今回は、昨年秋に新たにカフェスペースがオープンした同館を征くことにしたい。

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

47歳でロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(英王立芸術院)のトップである会長に就任、以後20年近く英美術界の頂点に君臨し、「(ギリシャ神話の)太陽神アポロンの優美さと全知全能の最高神ゼウスの威厳を持つ」と称えられたレイトン(右絵)の生涯は、最初から最後まで華やかなものだった。

レイトンは1830年、ヨークシャーのスカボローにある裕福な家庭に誕生。祖父と父親はともに医者であり、祖父はロシアのサンクト・ペテルブルクでロシア皇帝一家の主治医をつとめるなど、レイトン家はロシア宮廷と深い関係を持つ一族だった。

レイトンが12歳になる頃、一家はフランス、ドイツ、イタリアなどヨーロッパをめぐる長期の旅へ出立、数年ごとに各国を転居する生活を送り、息子に「本場の」恵まれた教育を受けさせた。もともと頭脳明晰だったレイトンは、瞬く間に数ヵ国語を習得。早くから美術の才能も開花させ、父親はレイトンに医者になって欲しいと望んでいたものの、息子が画家を目指していることを知ると、滞在先の各美術学校で絵画も学ばせている。

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1855年、英国のロイヤル・アカデミー展に出品した「フィレンツェの通りを行列によって運ばれるチマーブエの聖母」を気に入ったヴィクトリア女王が、同作を即購入したことで、レイトンの名前はたちまち英美術界に知れ渡ることになる。レイトン25歳のことだった。

その後も順風満帆に「売れっ子画家」としてキャリアを積み、34歳でレイトンハウスの建造に着手し、47歳でロイヤル・アカデミーの会長に選出されるわけだが、富裕な家庭出身で自身も画家として大成功、知的でハンサム、魅力的でエレガント、絵の才能はもちろん語学にも堪能、そして王室にも所縁がある…となれば、さぞかし女性たちにモテたに違いない。しかしながら、彼が世間に見せるのは「芸術家」としての華やかな顔のみで、プライベートな部分を極力見せなかったとされ、画業以外の私生活は謎に包まれている。生涯独身を通し、女性関係のスキャンダルも一切なかったことから、同性愛者説も根強い。

レイトンハウスを訪れたら、飾り気のないシングルベッドがひとつポツンと置かれた、本当に「眠るだけ」のための簡素な寝室に驚くことだろう。音楽家を招いてガーデンに面した大きなスタジオでコンサートを開くなど、同ハウスは上流階級の社交場としても重要な役割を果たしたが、そうしたゲストや、親族や友人らが宿泊するための客室もない。レイトンは1896年に狭心症の発作により、姉妹に看取られながら65歳でこの屋敷にて亡くなったが、小さな寝室がひとつしかない邸宅を買う者は現れず、結局博物館として一般公開されるに至っている。

1878年に准男爵(Sir)、1896年には男爵(Baron)に叙勲され、英美術界で「ロード(Lord)」を名乗ることができる男爵位以上の爵位を与えられたのは、後にも先にも彼ただひとりだ。その一見華麗なる人生が、実際はトップに立つがゆえの孤独に覆われたものだったのか、それとも仕事に没頭し孤高を愛したのか、それを知るすべはない。彼の最期の言葉は「私の愛はロイヤル・アカデミーに」だったと伝えられており、中東から買い集めたお気に入りのタイルを使用して豪華なアラブホールを作り上げるなど、レイトンの美意識を具現化させた邸宅は、「偉大な芸術家」という役割を演じるための舞台だったのかもしれない。

ケンジントンへ行く機会のある人は、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

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The Arab Hall /アラブホール

© RBKC. Image Dirk Lindner

邸宅内で最も壮麗な部屋。シチリアのパレルモにあるラ・ジサ宮殿をもとにしたと言われ、レイトン自身が中東で購入したタイルを使用。ホールに飛び出た2階の格子窓の木枠は、エジプトのカイロから輸入したもの。ホールの中央には小さな噴水がもうけられている。

The Dining Room /ダイニングルーム

© RBKC. Image Dirk Lindner

ダイニング・ルームには、レイトンが収集した中東や地中海地域の貴重な陶器が飾られている。レイトンは、しばしば友人や知人を招待してディナーパーティーを開いており、1869年にはヴィクトリア女王もレイトン邸を訪問している。

The Silk Room /シルクルーム

© RBKC. Image Dirk Lindner

部屋の壁紙としてシルクが用いられているため、シルクルームと呼ばれる。主にレイトンと親交のあった画家たちからの贈呈品が飾られており、中央の絵画はレイトンが贈った彫像への返礼として、ラファエル前派の画家ジョン・エヴァレット・ミレイが描いた「Shelling Peas」。

人気イラストレーターが暮らした家
サンボーンハウス

© RBKC. Image Jaron James
 

レイトンハウスから徒歩10分ほどの距離にあるサンボーンハウスは、ヴィクトリア朝を代表する人気雑誌「パンチ(Punch)」のイラストレーターだった、リンリー・サンボーン(1844~1910)=写真下=の自宅だ。1875年にサンボーン夫妻が引っ越してきた時は普通のタウンハウスだったが、窓にステンドグラスをはめ込み、室内をウィリアム・モリスの壁紙で覆い、中国や日本の陶磁器コレクションを所狭しと飾るなど改装。当時の耽美な世紀末主義様式のインテリアを楽しむことができる。

© Royal Borough of Kensington and Chelsea
© Royal Borough of Kensington and Chelsea

Sambourne House
18 Stafford Terrace, London W8 7BH
www.rbkc.gov.uk/museums
開館時間:水~日曜 10:00~17:30
入場料:£11

欧州ヤマト運輸
Kyo Service
J Moriyama
ジャパンサービス
So restaurant
らいすワインショップ
Atelier Theory
奈美デンタルクリニック
Sakura Dental

Travel Information ※2023年3月27日現在

Leighton House レイトンハウス
12 Holland Park Road,
London W14 8LZ
www.rbkc.gov.uk/museums
開館時間:水~日曜 10:00~17:30
入場料:£11 ※Sambourne Houseとの共通券は£20
最寄り駅:Kensington(Olympia)/ High Street Kensington

▲レイトンハウスで見られる作品の一部。「ヴェネツィアの貴婦人(A Noble Lady of Venice)」(上)、「クリュティエ(Clytie)」(左上)、「オルフェウスとエウリュディケ(Orpheus and Eurydice)」(左下)。

週刊ジャーニー No.1284(2023年3月30日)掲載