鎮魂と陰謀が渦巻くチャーターハウスを征く
エリザベス1世やジェームズ1世が滞在中に議会を開いた大広間

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

■ 地下鉄バービカン駅の裏側、シティとの境界に建つチャーターハウス。この周辺一帯は、1348年に大流行したペストの犠牲者を埋葬する「集団墓地」だったが、その鎮魂と供養のために1371年に建てられた修道院が起源となっている。今回は、有名な陰謀事件の発覚現場ともなった同所を紹介したい。

ロンドンでも有数の「幽霊出没スポット」として知られる、チャーターハウス・スクエア。亡くなった大勢のペスト感染者が、折り重なるようにして無造作に放り込まれた場所…という印象を持っていたが、実は犠牲者たちは一体ずつ並べて寝かされ、土をかぶせた後、また一体ずつ並べられ…とミルフィーユ状に丁寧に埋葬されていたことが、ファリンドン駅からのびるエリザベス線の開通工事の際に判明した。

 

そうした指示を出したのは、フランス出身の元軍人マニー男爵だ。敬虔なカトリック教徒であった彼は、ペスト犠牲者のために墓地として同所を購入し、小さな礼拝堂を建設。遺体は礼拝堂に頭を向けるようにして埋葬されたのだった。この礼拝堂があった場所に建てられたのが、カトリック系カルトジオ会の修道院「チャーターハウス(Charterhouse)」で、その名はフランスにある同会の本拠地(グランド・シャルトルーズ修道院/Grande Chartreuse)を英語表記にしたものである。

 

16世紀にヘンリー8世による宗教改革で修道院解散令が発布されると、信心深かったカトリック修道士らは激しく抵抗した。悪名高いニューゲート監獄で多くの修道士が餓死し、修道院長はタイバーンで公開処刑、さらに見せしめに頭部はロンドン・ブリッジ、身体の一部はチャーターハウスのゲートに晒された。

 

王家に没収されたチャーターハウスはやがて様々な貴族の手に渡り、大規模な増改築によって邸宅に姿を変えたが、その所有者の中でもっとも有名なのが第4代ノーフォーク公爵トマス・ハワードだろう。王妃を幾人も輩出してきたカトリック系の名門一族で、ヘンリー8世の2番目の妻アン・ブリン(エリザベス1世の母)の母親と、5番目の妻キャサリン・ハワードの父親は、どちらも同公爵家の出身である。こうした繋がりから、エリザベス1世は戴冠式が行われるまでの約2ヵ月をこの屋敷で過ごし、枢密院の会議もここの大広間で開いている。

 

野心家であったノーフォーク公爵は、カトリック教徒であるスコットランド女王メアリー・ステュアートとの秘密裏の結婚を目論むも、エリザベス1世に知られてロンドン塔に投獄。まもなく釈放されると、チャーターハウスに「謹慎」という名目で閉じこもり、今度は王位簒奪を企んだ。邸宅からテニスコートまで続く回廊をわざわざ整備し、その工事業者に紛れて共犯者との密会や手紙のやりとりをした。だが、またしてもあっけなく企みは発覚。1571年9月7日、突如行われた「ガサ入れ」の結果、床のタイルの下に隠してあった密書が見つかり、公爵はその場で逮捕、翌年に処刑されている(リドルフィ陰謀事件)。

 

血なまぐさい歴史が紡がれてきた同所だが、最後の所有者だったイングランド北部リンカンシャー出身の石炭で財を築いたトマス・サットンが残した遺言で、1611年にチャーターハウスは学校や病院、養老院へと変身することになった。この学校が名門パブリック・スクール「チャーターハウス校」の前身であり、現在はイングランド南部サリーに移転。チャーターハウスは、年金受給者のみが入居可能な養老院として、今も運営を続けている。

 

チャペルと博物館は入場無料。第二次世界大戦中の空襲により、建物の大部分が損壊してしまったものの、現存するグレートホールや大広間などはガイドツアーでのみ見学できる。

 

10月から一般公開が始まった英国最古のセント・バーソロミュー病院の北棟( 10月23日号掲載)まで、徒歩で10分もかからない。ぜひ双方合わせて訪れてみてはいかがだろうか。

現在は養老院入居者の食堂として使われているグレートホール
© The Charterhouse 2024
チャーターハウスの中庭
© The Charterhouse 2024
第4代ノーフォーク公爵トマス・ハワードが陰謀のために整備した回廊「The Norfolk Cloister」
© The Charterhouse 2024
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早稲田アカデミー
サカイ引越センター
JOBAロンドン校
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今もノーフォーク公爵家が暮らす アランデル城

© MrsEllacott
 

起源は11世紀にまでさかのぼる、ウェスト・サセックスの小さな町アランデルを見下ろす高台に建つアランデル城。英国の公爵位の中でも最古参とされる、屈指のカトリック系名門ノーフォーク公爵の居城で、現在も一家が暮らし、4月~10月には一般公開もされている。

 

トマス・ハワード
スコットランド女王メアリー・ステュアートとの結婚と王位簒奪を目論んだことが発覚し、処刑された第4代公爵トマス・ハワードの処刑を命じたエリザベス1世の親書などが、図書室(The Library)に展示されている。

 

ロンドン・ヴィクトリア駅から電車で1時間半、アランデル駅から徒歩15分ほど。来年、ぜひ足を運んでみては?

図書室(The Library)

英国の名門パブリック・スクール9校 ザ・ナイン(The Nine)

© Mertbiol
 

裕福な家庭の優秀な子息が通う「私立」のエリート寄宿学校「パブリック・スクール」の中でも、「ザ・ナイン(The Nine)」と呼ばれる代表的な9つの名門校がある。ヘンリー6世の勅命により開校し、ウィリアム&ハリー両王子が通学したことでも知られるイートン校(ウィンザー)も9校のひとつだ。

 

ザ・ナインに含まれるのは、イートン校、ハロウ校(ロンドン)、ウェストミンスター校(ロンドン)、セント・ポールズ校(ロンドン)、マーチャント・テイラーズ校(ハートフォードシャー)、チャーターハウス校(サリー)、ウィンチェスター校(ウィンチェスター)、ラグビー校(ウォリックシャー)、シュールズベリー校(シュロップシャー)。ちなみにシュールズベリー校は、今は男女共学となっている。

 

チャーターハウスの敷地内に1611年に開校したチャーターハウス校は、1872年にサリーのゴルダミングに移転(写真)。しかし同校の起源から、現在も生徒はカルトゥジアン(The Carthusians/カルトジオ会修道士)と呼ばれている。


Travel Information 2025年11月4日現在

The Charterhouse

Charterhouse Square, London EC1M 6AN
https://thecharterhouse.org

【開館日】 火~土曜 10:30~16:30
【入場料】 チャペル・博物館は無料
※グレートホールや大広間、回廊などはガイドツアーでのみ入場可能(要予約)
【ガイドツアー各種】
Charterhouse Tour(60分):£15
Brother's Charterhouse Tour(90分):£20
Charterhouse by Candlelight(60分):£30/10月~3月の夜間


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週刊ジャーニー No.1418(2025年11月6日)掲載