アランデル城
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■ 英国の公爵位の中でも最古参とされ、長い歴史を誇る名門のノーフォーク公爵家。ヘンリー8世によって行われた英国国教会への改宗に賛同せず、現在もカトリック信仰を守っている一門でもある。今号では、ノーフォーク公爵家の居城である「アランデル城」を征くことにしたい。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

ウェスト・サセックスの小さな町、アランデルを見下ろす高台に建つアランデル城の起源は、11世紀にまでさかのぼる。ノルマンディー公ウィリアムがイングランドを征服し、ウィリアム1世として国王に即位した折に、この地を下賜された臣下が要塞を築いたのが始まりだ。それが現在の城の中央、盛土の上に建造された円形のキープ部分にあたる(写真上)。城主の死去後に城と領地は国王へ返還されたが、1138年に王を亡くした若き元王妃が再婚するのにともない、新たな夫となった人物に「アランデル伯爵」位と同地が与えられた。

「ノーフォーク公爵」位を受爵したのは1483年のことだが、王妃が嫁した1138年から現在に至るまで一族の血は絶やさずに続いており、血筋の断絶などで後継者が途絶え、別の一族により再創設される爵位が多い中、今の第18代当主まで900年近くも同族が受け継いでいる爵位はほとんどない。

長い歴史の中で同家がもっとも権勢を極めたのは、ヘンリー8世から始まる激動の時代だ。ヘンリー8世の2番目の妻アン・ブリン(エリザベス1世の母)の母親と、5番目の妻キャサリン・ハワードの父親は、どちらも第2代ノーフォーク公爵の子どもで姉弟にあたる。ところが、アン・ブリン、キャサリン・ハワードともに姦通罪に問われて斬首。さらに、ヘンリー8世による宗教改革に反発して英国国教への改宗を拒否したことで第2代当主もロンドン塔に投獄されたが、王の死去により処刑を免れた。カトリックを信仰したメアリー1世のもとで復権するものの、次のエリザベス1世の時代には、同じくカトリック教徒であるスコットランド女王メアリー・ステュアートとの結婚と王位簒奪を目論んだことが発覚、第4代当主は処刑されている。

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城を訪れると、今も同家がカトリック信仰を守っていることが随所に感じられるだろう。城内には「礼拝堂」と呼ぶには大きすぎるほどの荘厳な祈りの場が設けられており、各部屋には公爵夫妻とローマ教皇が並んだ親密な写真が飾られている。

歴史と信仰への誇りを持つ同家だが、昨年大きな悲劇が襲った。5月21日(金)午後10時30分、けたたましいアラーム音が城内に鳴り響いた。警備員がダイニングルーム(晩餐室)にすぐさま駆けつけたが、そこで目にしたのはガラスが粉々に割られて空っぽになったキャビネット。盗まれたのは、スコットランド女王メアリーが斬首刑に処される直前まで首から下げていたと伝えられる「金の十字架の鎖」だった。「カトリックの殉教者」としてまつりあげられないように、女王の所持品の多くが破棄されたため、現存しているものは非常に少ない。なかでも、この鎖は女王の侍女を勤めていたアランデル伯爵夫人が、女王の手から受け取ったものだという。組織的な犯行ではなく、コレクターによる個人的なものとみられており、同家は「金銭的な価値だけでなく、歴史的、そして公爵家にとっても所縁ある宝。満足した後でもいいから、必ず返却してほしい」と願っている。

アランデル城はロンドン・ヴィクトリア駅から電車で約1時間半、アランデル駅からも徒歩で15分程と、公共交通機関で出かけやすい。町にはアンティークショップや可愛らしいカフェのほか、アラン川沿いには眺めのいいフットパスもあり、散策も楽しめる。この夏、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

The Chapel/礼拝堂

アランデル城は18~19世紀にかけて、大規模な改修・増築が行われている。カトリック教徒として数々の苦汁を飲まされてきたノーフォーク公爵家だが、一家が安心して祈りを捧げられるプライベートチャペルとして、現在も新生児の洗礼式などはここで行っている。

The Drawing Room/談話室

ダイニングルームでの晩餐を終えた後、男性たちが喫煙したり、おしゃべりに高じたりする部屋。その間、女性たちは絵画が飾られたピクチャーギャラリーで芸術品を鑑賞したり、エクササイズがてらギャラリーをのんびりと往復したりしていた。

The Victoria Rooms/ヴィクトリア女王夫妻の寝室

1846年にヴィクトリア女王夫妻が宿泊した部屋。城内の寝室は現在も一家がゲストを招く際に提供されているが、この部屋だけは宿泊を許していない。写真左下にある深い赤色の足置きは「隠しトイレ」になっており、アルバート公はトイレの近くを嫌がり、ベッドの奥側で寝ていた。

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The Library/図書室

中世の祈祷書など、カトリック信者ならではの貴重な書物が収められている。スコットランド女王メアリーとの婚約騒動を起こした、第4代当主トマス・ハワードの処刑を命じるエリザベス1世の親書も展示されている。幽霊が出る場所としても有名。

現公爵夫人が手がけた
アランデル城のエキゾチック・ガーデン

現在の第18代ノーフォーク公爵夫人が、ここ20年ほどで大きく変えたアランデル城のガーデンは、不思議な魅力に溢れている。とくにバラ園、一族が眠る教会などを通り過ぎると現れる「The 'Collecter' Earl's Garden」は異国情緒が漂い、他のカントリーハウスのガーデンとは一線を画している。ガーデンは10時から入場可能なので(ハウスは12時オープン)、城内を訪れる前にガーデン散策を楽しむのがいいかも。

まるで古代遺跡の神殿ようなカスケード。「コレクター」として有名だった第14代アランデル伯爵のロンドンにある邸宅「アランデル・ハウス」(現存せず)を模している。

奥に見えるのは、町に建つアランデル大聖堂。第15代ノーフォーク公爵が建造したもので、アランデル城に隣接しており、ガーデンの風景の一部となっている。

熱帯地域を彷彿とさせるトロピカル・パッセージ。このほかに、古い朽ちた切り株を随所に配置し、シダやコケなどが覆い茂る「スタンペリーガーデン」などもある。

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Travel Information ※2022年7月12日現在

Arundel Castle & Gardens アランデル城
Arundel, West Sussex BN18 9AB
www.arundelcastle.org
Tel: 01903 882173
開館時間
10月31日まで
ガーデン10:00~17:00/キープ10:00~16:30/ハウス12:00~17:00
入場料
£25
アクセス
アランデル駅から徒歩15分


週刊ジャーニー No.1248(2022年7月14日)掲載