900年の歴史を持つ英国最古のセント・バーソロミュー病院を征く
© Matthew Andrews / Courtesy of Barts Health NHS Trust Archives

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

■ 英国最大の肉市場「スミスフィールド・マーケット」の向かいに建つ、セント・バーソロミュー病院(St Bartholomew's Hospital)。設立から900年以上が経った今でも、当初と同じ場所で医療を提供し続ける英国最古の病院だ。今回は10月6日から初めて一般公開されるようになった、同病院の北棟(North Wing)を紹介したい。

通称「バーツ(Barts)」と呼ばれるセント・バーソロミュー病院の起源は1123年。当時の国王ヘンリー1世の寵臣ラヒアが、ローマ巡礼中に重い病に倒れ、明日をも知れぬ命となった。ところが、神への強い祈りが届いたのか奇跡的に回復。すると、夢にイエス・キリストの使徒である聖人バーソロミューが現れ、スミスフィールドに貧民や病人を助けるための修道院(病院)を建設するよう告げたという。

この「お告げ」に従い、ラヒアが創設したのが「セント・バーソロミュー修道院」であり、16世紀にヘンリー8世によって修道院解散令が発布された後も、貧民救済病院として生き残った。修道院としての収入が絶たれたことで一時は経営難に陥ったものの、ヘンリー8世からの支援でなんとか再建、現在に至っている。

設立当初の建物は残念ながら現存していないが、同病院のもっとも古い部分が、長い修復期間を経て今回初公開された北棟にあたる。スミスフィールド側の通りに面した、ヘンリー8世の石像が飾られているゲートをくぐり抜けると、左手に小さな教会(St Bartholomew the Less)がある。そこを通り過ぎた真正面に建つのが、その北棟だ。

1732年に完成した同建物の見どころは、名建築家ジェームズ・ギブスが手がけた壮麗なグレートホールと、画家ウィリアム・ホガースの壁画で有名な吹き抜け階段。グレートホールは病院再建に助力した寄付者たちへの応接間として使用されたもので、最奥には仁王立ち姿でお馴染みのヘンリー8世の肖像画が掲げられ、壁は寄付者の名前と金額が刻まれた木製プレートで埋め尽くされている。ちなみに、このプレートは現在も更新され続けているという。

© Matthew Andrews / Courtesy of Barts Health NHS Trust Archives
右:ヘンリー8世の石像が中央に設置されたゲートハウス
左:「Remember the Poor's Box」と書かれた救貧箱

 

グレートホールにあるヘンリー8世のステンドグラス
また、窓のステンドグラスをよく見ると、ヘンリー8世が同病院の支援を約束する書状をロンドン市長に手渡す様子が表現されており、とても興味深い。その書状は、敷地内の博物館に展示されているので、ぜひ見逃さないでいただきたい。

 

一方、吹き抜け階段ではホガースによる壁画「ベテスダの池」と「善きサマリア人」を見ることができる。2つとも聖書を題材としており、万病を治す聖なる池で病人の傷が癒される場面と、善意で救命行為を行うサマリア人の物語が描かれている。同病院のすぐ近くで生まれ育ったホガースは、幼少期より貧困生活に苦しんだ経験から、画家として成功して上り詰めた後も貧困と差別の撲滅を訴え、世相を痛烈に風刺する連作絵画を制作し続けた。孤児向けの養育院の建設といったチャリティー活動にも惜しみなく尽力し、セント・バーソロミュー病院の理事も務めている。

ペスト、ロンドン大火、ロンドン大空襲といった数々の困難を乗り越え、900年以上もの長きにわたって変わらずに医療を提供し続ける、セント・バーソロミュー病院。今でも放射線医学などで第一線を走ることで知られ、「シャーロック・ホームズ」シリーズに登場するホームズの相棒ワトソン博士が医者をしていた(という設定の)病院でもある。見る箇所は多くないが、歴史好きな人は足を運んでみてはいかがだろうか。その際は、貧民救済病院だった面影が残る「赤い救貧箱」にも目を留めてほしい(博物館の出入口に設置されている)。

開館は毎週月・火曜と各月の第一日曜、入場無料(予約不要)で写真撮影も可能。ただし現地を訪れるときは、北棟以外は現役の病院(NHS)であるため、節度を持って見学することを忘れずに。

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かつては病院の一部だったセント・バーソロミュー・ザ ・グレート教会

皮剥ぎの刑で殉教した聖バーソロミューの右腕には、剥がされた自身の皮膚がぶら下がっている。黄金像の左に見えるのが洗礼盤。教会内には、修道院の創設者ラヒアの墓もある。

ヘンリー8世による宗教改革で、敷地が分断されたセント・バーソロミュー修道院。病院部分だけが存続することになり、放置されてしまった教会部分は、メアリー1世が修道院として復活させ、さらにエリザベス1世が英国国教会の教会(セント・バーソロミュー・ザ ・グレート教会)に変えている。建造当初のノルマン様式の内部は荘厳さに溢れ、画家ホガースの誕生時に使われた洗礼盤(1404年製作)も現存。とくに、現代アート作家のダミアン・ハーストによる聖人バーソロミューの黄金像は必見だ。

処刑場だったスミスフィールド

シティの城壁(ロンドン・ウォール)のすぐ外側にある広大な放牧地だったスミスフィールドは、12世紀頃は馬の販売所として知られ、騎士の決闘などのほか、公開処刑も頻繁に行われていた。とくに有名なのが、スコットランド独立を目指してイングランドと戦ったウィリアム・ウォレスの処刑(1305年)と、農民一揆を起こしたワット・タイラーの刺殺事件(1381年)で、病院の壁には慰霊碑が設置されている。また、メアリー1世による新教徒の火刑もここで行われ、200人以上が亡くなった。


Travel Information 2025年10月21日現在

Barts North Wing

St Bartholomew's Hospital
West Smithfield, London EC1A 7BE
開館日 月・火曜/毎月第1日曜 10:00~16:00
入場料 無料(予約不要)
※グレートホールはイベント等で貸し切りの日があるため、必ず事前にウェブサイトで予定を確認すること。
https://bartsnorthwing.org.uk/visit


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週刊ジャーニー No.1416(2025年10月23日)掲載