●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部
ホーム・オフィスが進めるすべての滞在許可証(ビザ)のデジタル化。
eVisaと呼ばれるこのビザへの切り替えに関するさらなる情報をケース・スタディをまじえてお届けすることにしよう。
締め切りが守れなかったら?
移民局を管轄するホーム・オフィス(内務省)が、すべての滞在許可証(ビザ)のデジタル化=オンラインでの管理の実現を目指していることは先週号(7月11日号)でお知らせした通りだ。デジタル化されたビザは「eVisa」と呼ばれること、そして2024年12月31日までに取得するように求める文言を含む通達がなされた。締め切りが守れなかったらどうなるのか? また、申請に失敗したら滞在資格を失うのか? と大きな不安を抱いた人も少なくない。
で掲載しきれなかった情報をお伝えする前に、改めて次の3点を記しておきたい。
- ●2024年中にeVisaへの切り替えが完了しなくても、不法滞在者扱いとはならない。しかし、英国への再入国時に問題となる可能性が高いため、早めの切り替えを推奨する。
- ●eVisaへの切り替えに際して、現在保持しているビザ(永住権など)の内容に変更が生じることはない。
- ●eVisaへの切り替えの申請自体は無料。ただし、切り替え手続きの中で、本人であることを示す顔写真撮影・指紋採取などを含む「面接」をホーム・オフィスから委託されたビザセンターで受ける必要があり、この費用として0ポンド~299ポンドかかる。
先ほど「永住権」と書いたが、ご承知の通り、これは正確には「無期限滞在許可証(Indefinite Leave to Remain=ILR)」。このILRから一足飛びにeVisaを申請することはできない。まずは、ILRのデジタル版といえる、No Time Limit (NTL) Biometric Residence Permit(BRP)に切り替える必要がある。NTL BRPは、「タイムリミットのない、生体認証情報を含む滞在許可証(バイオメトリック・レジデンス・パーミット)」を意味する。
このNTL BRPの取得後、さらなる申請を行って獲得するeVisaについて、その提示が必要になる主な状況として以下のようなものが挙げられる。
- ①英国内で転職する場合…雇用主は、合法的に働けるビザの保持者しか雇用してはならない取り決め。違反すると罰金が科される。
- ②英国内で賃貸物件に住む場合…賃貸物件の大家が、テナントとして住まわせることができるのは合法的に滞在している者のみ。
- ③英国でペンション・クレジットのほか、各種ベネフィットを申請する場合…受給資格の審査時に提示が必要。
- ④ホリデーや日本への一時帰国などで英国外に出た後、英国に再入国する場合…今まで、滞在資格を示すために旧いパスポートに貼られたステッカーや、旧いパスポート上のスタンプなどを提示してきた永住権保持者にとって、もっとも大きな不安のタネとなると考えられるのがこの状況だろう。しかし、例えばヒースロー空港で、eGateで入国する際にはeVisaの提示は不要。ただ、2025年1月1日以降、eGateが稼働していなかったり、eGateでエラーが出て移民局の担当係官が対応するカウンターに並ばされた場合はeVisaの提示を求められる見込み。なお、たとえeVisaが獲得できても、2024年中は、今まで再入国時に提示していた旧いパスポートは携行すること。
「面接」まで完了しているものの、年内にNTL BRPが獲得できておらず、eVisa申請に至っていない場合、NTL BRPの申請は完了している旨(「面接」を済ませたことを示すため、後述する「Proof of attendance」の発行サービスを活用するのも一案)を説明すれば、おそらく大きなトラブルにはならないと考えられる。また、極端な話だが、今後、英国外にでることはない、あるいは出ても英国に再入国することはない、と断言できるケースではeVisa申請の必要はないと理解できる。
では次で、NTL BRP申請に必須の「面接」に関する追加情報と、ケース・スタディをご紹介しよう。
※第3回の記事については掲載時期が決まり次第、お知らせします。
eVisa 申請に挑戦!
ビザセンターでの「面接(appointment)」について ―追加情報―
永住権を保持しているものの過去に Biometric Residence Permit (BRP)を申請したことがない場合、eVisa申請に際し、最初のステップとしてNo Time Limit (NTL)のBRPを入手する必要がある。オンラインでの入力作業→「面接」→ホーム・オフィスによるNTL BRPの審査→NTL BRPが得られたら、eVisa申請(オンラインでの作業)へと進む仕組み。
ここがポイント
\顔写真の撮影にとにかく時間がかかる!/
● 「面接」と本稿では便宜上呼んでいるが、ホーム・オフィスの審査官との面談があるわけではない。ホーム・オフィスから委託されて業務を請け負っているビザセンター(正確には「サービス・ポイント」)で、顔写真の撮影、指紋採取、現在有効なパスポートの顔写真が貼られているページのスキャンが行われる。
「面接(appointment)」申請手順
❶ UKVIのパートナー、UKVCASのサイトにアクセス!
https://www.ukvcas.co.uk/home-internal
オンラインでの入力作業開始時に登録したEmailアドレスとパスワードが必要。
● UKVIとは…「UK Visas & Immigration」の略。ホーム・オフィス内で移民に関する業務を執り行う。本稿でいう「移民局」はこのUKVIのこと。
● UKVCASとは…「UK Visa and Citizenship Application Services」の略。ホーム・オフィスと提携し、「面接」業務を行う。
● 最も一般的なスタンダード・サービスを選ぶと仮定して話を進める。まずは「Book appointment」をクリックして、「面接」の場所と日時を予約するため、❷へ進む。
● 現住所を証明する書類などの「mandatory documents」に加え、永住権取得後に発行された全パスポートの顔写真が貼ってあるページと英国滞在が許可されていることを示すスタンプが押されているページや、永住権取得後、英国に継続して居住していることを示す書類など、合法的に英国に滞在してきたことを証明するための「supporting documents」のアップロード作業を自分で行う場合、「面接」の予約完了後に対応ページに進めば良い。
❷ 「面接」予約のため、ビザセンター(サービス・ポイント)の場所と日時を選択。
ポストコードを入力するともっとも最寄りのビザセンターから順に表示される。自分に一番便利な場所、およびそれ以外の複数の場所について「面接」の日時、空き時間と料金を比較することをお薦めする。
● 各ビザセンターごとに、「面接」可能な日時と料金が提示される。英国内のどのビザセンターを選んでも良い。4週間後の予約が可能で空き情報は毎日更新される。
● 料金は場所と日時・時間で異なり、£0~£299。「面接」を30分以内に完了させるエクスプレス・アポイントメントは追加で£85。例えば、最も一般的な£143の予約スロット(時間枠)でエクスプレス・アポイントメントを選ぶと£228となるが、£0のスロットなら£85のみで済む。
● ロンドン中心部から一番近いビザセンターは、シティの「London Mark Lane. Service Point」。ただ、同じ住所でも、ラウンジ形式(料金は割高)の「London Mark Lane Premium Lounge」、「面接」を30分以内に完了させるエクスプレス・サービスを提供する「Mark Lane AVS Centre Service Point」があるので、希望にそった場所での空き時間と料金を確認すること。どのビザセンターでも、4週間後の平日・日中であれば無料のスロットを予約できる確率があがる。
❸ 「面接」の場所と日時を決めた後、受けたい「サービス」を選択。
2ポンドのサービスは対象外だが、2つ以上のサービスを選択すると20%の割引きが適用される(商売っ気が感じられる!)。
● 主なサービスは次の通りだが、ビザセンターによっては受けられないものもある。❷で場所と日時を選ぶ際、各ビザセンターの説明部分に利用可能なサービスが記してあるので、この時点で必要なら❷に戻り、場所と日時を選び直すこと。「Interpretation」「Document checking」「Proof of attendance」などのサービスを含むパッケージ(£79)もあるほか、担当官が出向いてすべての「面接」作業を行ってくれる「Bespoke VIP service」(ひとりめ£2925。追加の1名ごとに£650)や、12名以上対象の「Business appointment service」などもあり。
【Document scanning】1名につき £56
「supporting documents」の数は、滞在期間が長いほど多くなる。例えば40年前に来英、在英4年で永住権を取得したとすると36年分、つまり少なくとも36枚の書類、およびその間に発行されたパスポートの関連ページをスキャン(PDF形式が望ましいがJPG、PNGでも可)して、自分でアップロードするか、このスキャニング・サービス(「面接」当日、その場で担当スタッフが対応してくれる)を選ぶことになる。スキャナーつきのプリンターがない、携帯ですべての書類を撮影しアップロードする作業に自信がない、という場合に便利なサービス。
【Document checking】1名につき £49
現在有効であるパスポートの顔写真が貼ってあるページ、 英国の現住所が証明できる書類(銀行からの書類、光熱費関係の請求書など)を含む「mandatory documents」(必須書類)と「supporting documents」を自分でアップロードすることを選んだ場合(アップロード作業は「面接」予約完了後に行えば良い)、書類が正しくアップロードされているかを確認してくれるサービス。「面接」の2日前(2ワーキング・デイズ前)にはアップロード作業を完了しておくこと。
【Interpretation】グループにつき £59
通訳サービス。日本語も含む約40言語に対応。
【Proof of attendance】「面接」1件につき £2
「面接」を受けたことを証明する書類の発行サービス。氏名のほか、ビザサービスの場所、時間などが記されるので、雇用主に提出したり、また、NTL BRPの審査待ちであると説明したりするのに役立つ。
❹ 支払い→予約完了。この直後にQRコード付きの予約完了レターがメールで送られてくる。
「面接」当日はこのレターを必ず持参すること。
※当日、予約の時間より早く来すぎないようにとの注意書きあり。
ここがポイント
● 支払い→予約完了後も、予約の変更、サービスの追加は可能。
● インターネットも使えない、代わりに申請してくれる家族や知人もいない、という場合は、専門家の力を借りるのも一案。日本語で対応してもらえる弁護士事務所の例を挙げておく。
TFC Legal (TFC総合法律事務所)
代表:藤岡輝行氏
このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
80 Coleman St, London EC2R 5BJ
Tel: 020 7614 5830 (office)
Immigration UK
担当:水上よしえ氏
このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
First Floor, 3-5 St John Street, London EC1M 4AA
Tel: 020 3384 0196
【ケース・スタディ1】
永住権を証明する公的書類がまったくなかったAさんの場合
● この60年近く、日本に里帰りしたり、国外に出かけたりした後、英国に再入国する際、ヒースロー空港などで移民局の担当官にビザの種類について質問されることはあったが、「英国にご在住ですか」と聞かれて「英国人と結婚して1966年から住んでいます」と答えればそれで問題なかったという。1度だけ、「どなたか家族の人と話して確認したい」と言われ、その場で息子さんに電話することになったことがあったが、息子さんが口頭で説明してくれ、それで納得してもらえた。
● まず、Aさんの滞在資格を確かめるため、息子さんがホーム・オフィスに電話。
↓
● 後日、専門の担当官とAさんの「電話面接」が行われた。息子さんが通訳としてAさんの隣に座り、Aさんのかわりに電話で対応することを了承してもらった。
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● ひととおり説明を受けたホーム・オフィスの担当官は「お話を総合して、永住権保持者と判断します」と回答。「ウィンドラッシュ・スキーム」を使ってBRPを申請するよう息子さんに伝えた。
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● 結婚証明書、子どもたちの出生証明書などに加え、今まで英国に滞在していたことを示す、英国の住所がはいった書類集めを開始。幸い、長年利用しているGPからレターを出してもらえた。このほか、NHSからのレターなど、できるだけ集めて提出。
↓
● 無事にBRPが発行され、ペンション・クレジットの申請手続きを行うことができた。eVisa移行への案内メールはまだ届いていないができるだけ早くeVisaに切り替えたいと考えている。
ウィンドラッシュ・スキーム Wyndrush Scheme
1948年、西インド諸島からの移民第一号となる人々が「ウィンドラッシュ号the Empire Windrush」=写真=で英国に到着。しかしその当時は入国後に永住権を示す公的なレターが発行されたり、あるいはパスポートにスタンプが押されたりという対応がなされていなかった。滞在資格を証明することができずに、不法滞在者として扱われ、身柄を拘束されたり国外退去になったりしたほか、失職、賃貸物件から追い出されたり、病院でのケアや福祉手当・年金の受給を拒否されたりするケースが頻発していたことが発覚。2018年に「ウィンドラッシュ・スキャンダル」として厳しい批判が寄せられ、ホーム・オフィスは対応を迫られた。1973年以前に主としてコモンウェルスから英国に移住したものの永住権を与えられていなかった人々などを対象に、「ウィンドラッシュ・スキーム」が発足。
【ケース・スタディ2】
過去の書類を保存・管理するのがニガテだったBさんの場合
● 住永権取得後、英国に継続して居住していることを示す「supporting documents」(1年につき1通でOK)にしても、パスポートにしても、手元にあるものをできるだけ提出するしかない。
● 「supporting documents」は、 カウンシル・タックスの請求書/銀行からの書類/ 光熱費関係の請求書/ NHSからのレター/GPからの署名入りレター/ 雇用主からのレターなど。Bさんの場合、会社登記に関する業務を行う「カンパニー・ハウス」に提出・公開されていた、会計監査の書類に氏名と英国内の住所が入っていることを会計士から教わり、20年分近くをこの書類でカバー。なんとか申請を完了した。
BRP保持者だが、この後どうすればいいか分からない場合
●BRP保持者にはeVisaへの切り替えを促す案内メール(invitation Email)が順次送られているという。このメールを受け取った人はeVisaにすみやかに切り替えることが推奨される。
● BRP保持者だが案内メールは受け取っていない人向けに、「夏以降」(夏らしい夏がない英国だけに、いつのことを指すのかあいまい過ぎる!)、案内メールなしにeVisaへの切り替え作業ができるサイトのページに関する情報が公表される予定。詳細が明らかになり次第、本誌上でお知らせする。
今後、起こり得ること
イングランド&ウェ-ルズでは、2022年時点で約1000万人が英国外で誕生した居住者だったという統計がある。移民として英国に在住する人は数百万人、そのうちBRPを持たない人は数十万人単位に上るとしてもおかしくない。その審査にどれほどの時間がかかるか―。気が遠くなりそうだ。今後、ホーム・オフィスが準備内容や手順を簡略化することは大いに考えられる。そうした変更がある場合、すみやかに本誌上でご報告していきたい。
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週刊ジャーニー No.1351(2024年7月18日)掲載