ホンネで語る!
ロンドン犯罪事情
後編
空き巣、痴漢、薬物
ちょっとした油断や一瞬の判断ミスが、明暗を大きく分けることもある。ロンドン生活の中で体験した様々な犯罪被害について、日本人女性3名に熱く語ってもらった(全2回)。前編はこちら参加者のプロフィール
/30代、在英6年半。ロンドン北部在住。
/40代、在英12年。ロンドン北部在住。
/30代、在英9年。ロンドン東部在住。
空き巣被害
―― 盗難とは比較にならないほどの大きな被害をもたらす「空き巣」ですが、皆さんご経験はありますか?
- 悲しいことにあります。2年ほど前に、空き巣に入られました。
- えぇっ⁉
- まさか自分の身に降りかかると思っていなかったから、ものすごく衝撃を受けました。しかも自宅にいたので、犯人と鉢合わせしちゃって…。そのときのことは、今でもちょっとトラウマになっています。
―― それは危ない! 怖い体験をされましたね。
- そうですね。実は被害に遭う少し前、近所で車上荒らしが数件起きていたんです。治安が悪い場所ではないので、「最近、何だか物騒だな」と思っていたものの、それほどシリアスに捉えていなくて。事件があった日は夏のホリデー期間中で、家族で数日留守にしていたのですが、用事があったので私だけ一足先に自宅へ戻っていました。我が家はテラスドハウスで、3階部分の屋根裏部屋で作業をしていたところ、閉めていた部屋のドアが突然開いたんですよ。びっくりしてドアの方を見ると、サッと逃げていく人影が目に入り、「もしかして空き巣⁉」と。とりあえず身を守るために、急いでドアの鍵をかけて重い荷物を置き、ドアが開かないようにした上で、何かあったら叫ぼうと窓を開け放ちました。
―― 犯人の顔は見たのですか?
- いえ、一瞬だったので性別も年齢もわからなかったけど、少なくとも2人はいたと思います。警察に連絡しようと思ったけど、階下の状況がわからないし、本当に空き巣だったのか確信もいまいち持てず、まず家族に電話しました。そして少し経ってから、様子を確認しに部屋を出ました。左手にスマホ、右手にクイックルワイパーの棒を持って。
- クイックルワイパーの棒⁉
- 部屋を見渡しても、リーチが長い武器が何もなくて…。今考えると、バドミントンのラケットがあったのに(笑)。でも家族にこの話をしたら、「戦おうとしちゃダメ!」って注意されました。撃退するのではなく、外へ逃げるのが最優先。いざというときは、カビキラーや殺虫剤のような噴射できる強力な液体を相手に噴きかけ、隙をつくってとにかく逃げろって。武器を持つと相手も攻撃してくるから、悲惨なことになると。
- なるほど…。
- 結局、1階も2階も誰もいなかったけど、ワードローブや棚の扉は全開だったので、「やっぱり空き巣に間違いない」と思って警察に通報しました。犯人は庭から入ったみたいで、1階のリビングの窓ガラスが割られていたものの、被害はそれだけ。何も盗まれていなかったんですよ! ラップトップも置いてあったのに…。すごく不思議。
―― さんがいたから、慌てて逃走したのでしょうか?
- 一般的には短時間で終わらせるため、一軒家を狙う場合は1階(グラウンドフロア)だけ、あるいは2階までしか行かないことが多く、屋根裏まで来たのは珍しいとか。実際に、朝起きて2階のベッドルームから下階へ降りたら、1階が荒らされていて、深夜に空き巣が入ったことに気づいた…という話を聞いたことがあります。
- 昔、ベスナルグリーンでフラットシェアしてたんだけど、私の入居前に窓から空き巣に入られたらしく。でも全室鍵つきだから、犯人は入ったその部屋から先には行けなかったみたい。おかげで被害は1部屋だけだったけど、その代わりその部屋はパソコンとか、かなりがっつり盗まれたって聞きました。そこもグラウンドフロアだった。
- 1階は狙われやすいよね。
- 私はイーストに住んでいるのですが、やっぱりエリア的に空き巣被害は多いです。車上荒らしなんて日常茶飯事ですね。道を歩いていると、「あ、この車のガラスも割られてる…」みたいな(苦笑)。まさに車を荒らしているところを家から見たこともあります。バリンッって音がして、外を見たら「やられてる!」って。通報したけど、警察も慣れたもので「何かあったら連絡するよ」であっさり終わっちゃいました。
- 身近で犯行を目撃するのは怖いね。家の中で犯人と鉢合わせするのなんて、本当にトラウマ級の怖さ。しかも警察が「何も盗まなかったのは『下見』だったからかも。また空き巣が入る危険性があるから用心して」とか言うので心配で。熟睡できなくなるし、夜中もずっと電気をつけたままにして、心労から風邪も引きましたよ。
―― その後、防犯対策はどうしていますか?
- 警察からアドバイスされたのは、不在時はもちろん、夜間も完全に消灯はせず、リビングなどの電気をつけておいたり、音楽やラジオを流したりして、人がいる気配をつくるようにと。あと、玄関前や庭には夜間照明をつけなさいとも言われました。クリスマスやイースター、夏のホリデーシーズン、ハーフターム、週末などの家を空けている時期に空き巣被害は増えるらしいです。
空き巣被害に遭ったことがあるBさん。
痴漢(ちかん)被害
痴漢被害を警察にレポートした経験を持つCさん。
- 実は私、痴漢被害で警察にレポートしたことがあるんです。
―― えっ⁉ 大丈夫でしたか?
- はい。その日は雨で、夕方頃に人通りの少ない道を歩いていたら、後ろから来た男性が追い抜きざまに、私のお尻を触ったんです。でも何もなかったかのように私の前を普通に歩いているので「何するのよ!」って叫んだら、走って逃げて行きました。日本にいたときはそういった経験がなかったから、本当に驚いてしまって…。後日、同じエリアで同じような手口で痴漢に遭ったことをソーシャル・メディアでシェアしている人がいたので、私も警察にレポートして、ご近所に情報をシェアしてもらった方がいいかなと思って連絡しました。
- へぇー、素晴らしい!
- 警察に電話したら、「ここにレポートしてください」と入力フォームを伝えられ、被害状況を書いて提出しました。すると、すぐに警察から「話を聞きに行ってもいいですか?」と電話がきて、自宅で事情聴取を受けた後に「起訴しますか?」と聞かれたんです。そこまですると時間もかかるし大変なので、「私の目的としては、同じエリアでシェアしてもらって、そういう被害が起こらないようにしてほしいだけ」と伝えたんですけど。「CCTVとか確認して犯人が見つかったら、教えてください」って言ったけど、結局は見つからず…。でも警察の対応がすごく早かったので、ちょっと意外でした。
―― そういうときは、女性の警官が事情聴取をするんですか?
- いえ、若い男性警官でした(苦笑)。それほど重要な犯罪ではないですしね…。ただ、イーストはやっぱり痴漢は多いって言ってましたよ。
- そうなんだ。日本に比べてイギリスは痴漢って少ない気がしてたけど、それは自分が年取ったからかもしれない(笑)。あと制服とか満員電車とか、日本は痴漢に遭いやすい条件がそろってるし。
- そういう意味で言えばさんの件もそうだけど、私の経験上、イギリスでは「誰もいない場所」が一番危険だと思ってます。これまで何回か「危ない」と感じたことがあるけど、いつも誰もいない所だったんだよね。数年前、終電近くにピカデリーラインに乗っていたときも、私がいた車両には最初誰も乗ってなかったんです。でも気づいたら男性が端の方にいて、自慰行為をしていて。
- えぇぇー! 何それ!
- そういうときは「やばい」と思っても、逆に車両を移動したりすることで、相手に刺激を与えるんじゃないかとか考えちゃうよね? 終電が近いと降りるのもためらうし…。
- そのときは身の危険を感じるほどではなかったので、スマホをじっと見て、ひたすら気づかない振りをしてました。だけど案の定、こっちに近寄ってきて目の前に座り込んで行為を続け出して…。もうとにかく無視。無視し続けて、無事に目的地で降りられました。駅のスタッフに一応そのことを伝えたけど、「あぁそうか」だけだったな(苦笑)。ただその男性、30代前半のすっごく背の高い、白人の金髪イケメンで! そういうことをするタイプに全然見えないのに、めちゃくちゃ残念な人だった…。
「誰もいない場所」の危険性を語るAさん。
身近に潜む薬物
―― ロンドン東部は、薬物関連の事件が多そうな印象がありますが…?
- イーストでも場所によると思いますが、そういった現場は路上でしょっちゅう目にしますよ。「今、(ドラッグを)渡してるんだな」とか。2週間くらい前にも、警察が車のボンネットまで開けさせて、ドラッグ所持の痕跡を調べているのを見かけました。まさに「トップボーイ」(ハックニーを舞台にした薬物売人のドラマ/ネットフリックス)だなって。でも、住んでいると「この辺りはドラッグを使う人たちが集まる所だ」とか、そういうことがわかってくるので、そこには近づかない、関わらない。アメリカのドラマで見るようなジャンキーな常用者というよりも、自分の世界に浸かっている人が比較的多いから、こちらが何もしなければ、危害を加える感じではないです。
- 以前住んでたフラットの上階に、レイブパーティー好きな人が入居してきたことがありました。初めは週末になるとマリファナの匂いが漂ってくる程度だったけど、次第にケミカルな変な匂いをたまに感じるようになって、怪しんでいたら、夜中にバルコニーで「飛ぶ、飛ぶ!」と叫びだして…。彼と一緒にいた友人たちもヘラヘラしてるし、事件に巻き込まれるのは嫌なので、すぐに引っ越しました。
- 怖い!何の匂いだったんだろう?
- 何だったんだろうね…。あと、つい先日の話なんだけど、夜遅い時間にバスに乗ったら、ものすごいスピードで飛ばすドライバーで。たまにそういうドライバーがいるけど、彼はずーっと何かブツブツ言ってる。「人目が少ないからスマホで話しているのかな」と気にしていたら、「ケケケケケッ」って急に奇怪な笑い声をあげながら、運転席の隙間からポイッと車内に何かを捨てたの。それが使用済みのプラスチックチューブ(?)のようなもので…。何かはわからなかったけど、怖いから次のバス停で急いで降りました。
―― 海外生活をする上で、そういった「危機回避能力」は明暗を大きく分けますよね。飲酒する場で身の危険を感じたことなどはありますか?
- 友人がバーで「危機一髪」の状態に直面したことはあります。グラスをカウンターに置いて、横を向いてしゃべっていたんですよ。グラスから意識が逸れて、死角になった瞬間に薬物(?)を混入されそうになりました。たまたま周囲の人が気づいて、未然に防げたんですけど…。スリや置き引きと同じで、一瞬の隙を突かれるんですね。
- 個人的に、青系のカクテルは気をつけた方がいいかなって思ってる。昔は睡眠導入剤も白かったけど、あまりにもそういう目的に使われるから、今は世界的に青とか色がついてたりするらしいんだよね。色をつけることで、飲み物に混入されたときに気づけるように。だから青や濃い色のカクテルを頼むのは、クラブでは避けた方が無難じゃないかなとは感じてます。
- バーやナイトクラブの女子トイレには、「身の危険を感じたら、スタッフに声をかけてください」と書いてある貼り紙があったりするよね?
- 「Ask for Angela」ですよね。店員に「私、アンジェラなんです」って名前を言うと、スタッフが助けてくれる「暗号」みたいなものですね。ただ、それは薬の混入被害じゃなくて、基本はデート系で恐怖を感じて逃げる手助けがほしいときに使うワードですが…。(コラム参照)
- つい最近、チャリング・クロスにある有名なナイトクラブでのセキュリティガードによる性暴力事件が大きく報道されていたし、アルコールが出る場では、とくに油断は禁物だね。
(終)
困ったときの「合言葉」 Ask for Angela
パブやバー、ナイトクラブなどで身の危険を感じたり、不快な出来事があったりして、誰かに助けを求めたいときの合言葉「アンジェラ」。酔った男性にしつこく強引に声をかけられて怖い…、SNSで知り合った男性と初めて対面したらヤバそうな人で逃げたい…等々、手助けがほしいときに店員に「アンジェラ」の名前を告げれば、詳しい話をしなくても助けが必要な状況にあると察して、友人を探してきてくれたり、タクシーを呼んでくれたり、あるいは警察に通報してくれたりと、店員がさりげなくサポートしてくれるというシステムだ。
「アンジェラ」は、2012年に夫からのDVによって殺害されたリンカンシャー在住のアンジェラ・クロンプトンさんの名前に由来しており、また身を守ってくれる「エンジェル」(Angel)という意味も含まれている。2016年にリンカンシャーで初導入され、現在はフランスやイタリアなどヨーロッパ大陸にも広がりを見せている。
「ハロー、私はアンジェラ」「アンジェラを呼んでくれる?」「アンジェラに会いたい」「アンジェラと約束があるんだけど…」など、声のかけ方は何でもOK。ただ、BBCが今月に潜入調査を行ったところ、合言葉が通じたのは25店のうち13店しかなかったことが判明。サディク・カーン市長は「より徹底してこのシステムを広め、定着するよう努める」と声明を発表している。
週刊ジャーニー No.1370(2024年11月28日)掲載
座談会「ロンドン犯罪事情」は終了です。次回の開催をお楽しみに。テーマも募集中です!
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