ホンネで語る!
英国人夫との国際離婚

後編

裁判所を通す、英国の離婚

精神的にも体力的にも、結婚以上にエネルギーを要するといわれる離婚。英国人と結婚し、後に離婚にいたった日本人女性たちの生(なま)の声を聞くべく、座談会を決行。それぞれの体験を語っていただいた。前編はこちら
参加者のプロフィール
Aさん(58歳)/子ども2人。結婚生活は10年間(そのうち半分は別居)、2000年頃に離婚。
Bさん(48歳)/子ども1人。結婚生活は12年間、破局&別居開始は2009年、2011年に離婚成立。
Cさん(44歳)/結婚生活は12年間、別居開始が2013年、2015年に離婚成立。

裁判所から元夫へ、強制命令

― 離婚を伝えたとき、ご主人はすぐに納得されたのでしょうか?

A
そうですね。仕方がないというのは彼もわかっていました。
B
うちは私が離婚を切り出して、彼は別れたくなかったのですが、「もうしょうがない」という感じでした。彼が出て行くことになりましたが、物事を自分で進めるタイプの人ではなかったので、私が家を探しました。家を決めるまでの1ヵ月くらいが一番険悪でしたね。ただやっぱり、彼が出て行った日は寂しかった。一緒に過ごした家がガラーンとして、何をしたんだ私はって。

些細なことの積み重ねで夫婦間が険悪になり、離婚を決めたBさん。自ら決めたこととはいえ、相手が出て行った後の家で寂しさを覚えたと語る。
C
私の場合は、離婚の意思を伝えてからが、彼がさらに暴れ者になったんです。彼もある意味メンヘルで、それまでにもつかまれたり引っ張られたりはしましたけど、彼の中では私を傷つけるつもりはなく、そのほうがいいって信じてたと思うんです。だけど、「離婚します」って言った途端に、私は裏切り者=傷つけていい存在になったので、ものすごく怖かった。寝室に鍵をつけてバリケードして自分の身を守ってました。時々ドアをバン! バン! バン! と蹴られることや脅しのテキスト・メッセージが送られることもあったので、裁判所から「この人に一切連絡してはいけません」という強制命令(injunction)を出してもらったんです。
A
何メートル以内に近づいてはいけないみたいな?
C
そうですね。自分で手続きするとなるとすごくお金がかかると聞いたので、カウンシルのDV相談所の専門チームにいる法律アドバイザーを通して裁判にかけてもらったんです。そのときにアドバイスされたのが、「強制命令が出た後、彼が家を出るまでに3週間猶予期間が与えられるので、その間、あなたの身の危険も考えられる。できれば実家、友人宅などに避難したほうがいい」って。
AB
怖い!

― その3週間というのは、元ご主人が出て行くための準備期間ですよね。

C
そうですね。その辺は人権の国だなと思います。だから私はその間、日本に帰ることにして、イギリスに戻ってきたときにはもういませんでした。

離婚成立までの道のり

― 手続きにあたりどんな準備が必要なのでしょう?

B
まず英政府の公式サイト「gov.uk」の離婚ページを熟読。

― 別居から2年経たないと離婚できないと聞いたことがあります。

B
離婚理由にもよります。相手の「浮気」、DVやアル中などの「理不尽な行動」、「失踪」という明白な理由があれば、すぐに手続きが進められますが、それ以外の場合は、2年あるいは5年間別居して手続きができるんです。私の場合は、弁護士を通して、「理不尽な行動」ということで申請しました。この場合は理由をしっかり書く必要があって、相手もそれに同意しなくてはいけない。そこが大変。
C
私も「理不尽な行動」で申請しましたが、彼から全部「ノー」と書かれました。最終的には、記載内容には同意しないけど離婚には同意するという結論になりました。
B
うちも最終的には同意しました。そういうプロセスを経るのが嫌な場合は、2年(あるいは5年)の別居期間を経て申請すると、もうちょっと綺麗に別れられるかな。

― 手続きはどう進むのですか?

B
結婚のときはレジスターオフィスで登録しますが、離婚の場合は、裁判所を通すんです。今はオンラインでも可能ですが、当時は裁判所まで申請書を取りに行き、必要事項を記入した上で裁判所に送りました。自分で手続きをすると面倒なことも多いですが、費用は抑えられ、弁護士(solicitor)を通して手続きをすると、スムーズに進みますがお金はかかります。

― 財産分与や養育については?

B
同時進行で決めないといけません。一番問題になるのはそこだと思います。子どもの養育(child arrangements)に関して言えば、イギリスでは基本前提として親権は父母の両方が持ちます。平日は母親、週末は父親と過ごすケースが多く、母親の方が子どもと過ごす時間が長い分、負担額も増えるので、父親が養育費(child maintenance)を払うことになります。ここで父親側がお金を払いたくない場合、話がこじれることがあるようです。ほかにも、クリスマスなどのホリデーを誰と過ごすのかを決めなきゃいけない。
A
そんなところまで!
B
全部決めた上で、所定のフォーマットに記入して提出する形です。

DVを受けた後に離婚を決めたCさん(左)。さらなる被害が及ばないよう、裁判所から強制命令を出してもらったと話す。

― 話し合いは上手くいくものですか?

B
上手くいかない場合は、調停人(mediator)を交えて話し合って、それでも解決できなかったら裁判です。お互いの言い分を主張して、最終的に裁判官が決めるんです。Cさんは調停人を使いました?
C
うちは子どもがいなかったので、家だけでしたが、話し合いができる状態じゃなかったから、双方に弁護士をつけてすぐ裁判になりました。
B
うちも家について話し合いました。基本的に、夫婦間で財産や不動産を分与しなくてはならないので、持ち家がある場合は、家を売ってそのお金を分けるのが一般的ですね。家以外の財産についても、結婚期間中に旦那さんが投資、相続、貯蓄などで得た資産や年金は、奥さんが受け取ることもできるので、お金持ちが離婚でもめるのはこういう理由ですよね。
C
私も弁護士さんから年金をもらうという選択肢もあると言われました。だけど、「年金となると、将来的にまた彼に関わらないといけないよ」とアドバイスされ、私も関わらへんのが一番やと思ったので、年金を請求しない代わりに家の分配額を多めにする形になりました。
B
これらが認められたら、あとは仮離婚を経て、離婚成立。私はのろのろやっていたので、結局2年ほどかかりました。しっかりやれば1ヵ月くらいでできたと思います。
C
私は裁判になったので、申請から成立まで2年かかりましたね。

― 手続き自体は簡単でしょうか?

B
専門用語は出てくるけど、できないわけではないですよ。でも法律のことなので、理解せずにやるのはよくないから、弁護士に依頼したほうがいいかも。高くつくのが嫌で、夫婦間で協力して手続きを進める話も聞きます。
C
DIY離婚ですね。申請代のほかに弁護士代、さらに裁判になったらその費用も。バカにならない額ですよ。
B
うちは裁判まで行かず、弁護士に交渉と申請を依頼しただけなので、そこまではかからなかったのですが、当時は、所得によって弁護士代や調停人代が免除になったり割安になったりするリーガルエイドというサポートが受けられたんです。私はそのおかげで安く済みました。
C
うちはDVだったということもあって、リーガルエイドの対象になり、割引を受けました。それでも弁護士代だけで数千ポンドはしたと思います。
A
それでBさんのお友達はDIY離婚をされたんですね。
B
そうそう。私の友達は、申請書も子どもの養育についても自分達で記入して、裁判所に出してオッケーでした。
A
それで数千ポンドが節約できるんだったらいいですね。

緩いイギリス役所のおかげ!?

― Aさんは日本で手続きですか?

A
日本で知り合って日本で結婚したので、もともとが日本の婚姻なんです。なので離婚手続きも日本。日本での手続き後、イギリスでも届け出ようとしたのですが、実は抜けすぎなイギリスのお役所仕事のおかげで、ものすごい手間が省けたんです。
BC
(笑)
A
というのは、結婚のときに日本の区役所に婚姻届を出して、それを東京のイギリス領事館に持っていき、婚姻証明書を出してもらいました。それを持っていたからこそ、婚姻によるレジデントビザが下りました。なのに、日本で離婚手続きをして、証明書を持ってイギリスに戻って窓口に行ったら、「あなた結婚してませんよ」って(笑)。
B
イギリスでは結婚してないことになってたんですね。ビザもあったのに。
A
パスポートだって彼の苗字なのに! 当時はコンピューターで簡単にデータがやりとりできる時代ではなかったからかな…。「これイギリス領事館で発行してもらった婚姻証明書ですよ」って念を押しましたが、「記録にないんで」って(笑)。なので、こっちでの手続きは不要だったんです。日本では、離婚届を書いてはんこを押したら終わり(笑)。

5年間の国際別居を経て離婚を決断したAさん。英国の緩いお役所仕事のおかげで、手続きが簡単に済んだと話す。

― 親権や財産分与はどうでしたか?

A
その点も全然もめませんでした。彼も自分に支払い能力がないのがわかっていたので、「ごめん」みたいな。私も何も要求してません。

― 離婚後、苗字は旧姓に?

A
名前は結婚の時に夫の苗字に変えていたので、旧姓に戻しました。やっぱりそういうケースは多いみたいで、大使館の方が対応してくださって、パスポート上は、苗字と名前の間に元夫の苗字をカタカナで括弧でくくって書くことになりました。日本の戸籍上は旧姓なんですけどね。
C
私も結婚のときにそのチョイスを言われました。でも旧姓のままにしたんですよね。彼の苗字は、こっちでニックネーム的に使ったくらいです。なのでパスポートの手続きは不要でしたが、変えてしまった銀行口座の名前などは戻す手続きをしました。
B
私は旧姓に戻す気満々だったのですが、親から「子供と別の苗字になるのはちょっと…」と言われました。イギリスにはそういう親子がたくさんいるじゃないですか。
A
親の苗字と子供の苗字が違っても誰も気にしないですよね。
B
日本人的にはそこが気になったらしく、変えないでほしいって言われちゃって。それくらいは親の言う通りにしようと思って、そのままなんです。

今では友達に?

― 元パートナーとの関係は?

A
飲み過ぎ吸いすぎで10年ほど前に他界しました。最期の5年間くらいは東京からイギリスに戻って来て、さほど遠くないところに住んでたのですが、友情までには戻らなかったですね。
B
険悪な状態で別れましたが、今は友好的です。離婚後、彼のほうが先に彼女ができたんです。こっちの心配をよそになんで私より先に! ってちょっとムカっとしたんですけど(笑)。でも安心した面もあって。そのうち私にもパートナーができて、お互い友好的な関係が築けるようになりました。何かあったときに相談し合うこともできるから、よかったなと思います。
C
私は一切かかわりないです。そもそも元夫は私に連絡できないですしね。今のパートナーが元夫について「どんな人やったん?」って聞いてきて、彼がFacebook上で探していたことがあります。日本に対する悪口が書かれていたみたいですけど…。
B
えー探したくない!

― Cさんの顔写真が投稿されることはないですよね。

C
それをやったら捕まるので、その辺は安心。あのとき、強制命令を出してもらって本当によかったです。実は離婚後も事件があって、当時、私が参加していたビジネス支援プログラムの主催者に連絡して、私をメンバーにいれないよう伝えたらしいんです。どうやら彼は強制命令が失効したと勘違いしていたようで、私はすぐ警察に連絡して、厳重注意してもらいました。

ポジティブな人生のリセット

― 離婚前に抱いた不安と離婚後の気持ち、比べるとどうですか?

A
私は別居が長かったので何もかわらないですね。バリバリ働いて、メゾネットのフラットを買いました。
C
頼もしい。私は最初の方はビジネスと生活とを必死に頑張って、今はもう不安はないですね。
B
私は親に対して申し訳ない気持ちと、人生に失敗したというルーザー感がありました。でも周りの励ましのおかげで「離婚=失敗ではない」と思えるようになりました。私にとって離婚は、人生における選択の中でベストなものだったと今でも思ってます。
A
そうね。立て直そうと続けていくのもありだけど、この人とは無理と思ったら、離婚もポジティブな選択肢だと思いますね。自分にも家族にも、子どもにとっても。日本の方が離婚はしづらいとは思いますけど。
B
離婚するのは大変だし、エネルギーもいるし、手続き的にも気持ち的にも面倒くさいし。でももし悩んでいる人がいるなら、「人生のリセット」として考えると、そういう選択肢もありだと思う。
C
そうですね。長い目でみたときに、幸せじゃないことを続けていくことの方が大変だと思うんですよ。不幸を背負って生きていくって嫌じゃないですか。それなら、数年苦しい思いをしてでも、リセットするというのはいいと思います。

― 今後、再婚はあると思いますか?

A
私は考えてないですね。子どもたちが独立して、しばらくひとりで暮らしていましたが、今は新しいパートナーと一緒に別の家を買いました。お互い離婚経験があるので、改めて結婚はせず、弁護士に「トラストディード(trust deed)」というのを作ってもらって、別れた場合の資産分与をあらかじめ決めました。後々トラブルにならないようにね。
B
私は結婚してもいいです。周りで離婚した人は、「絶対したくない」って言うんですけどね。
C
私も結婚してもいいと思ってます。
B
性懲りもないけどね。
C
そう、でも結婚ってやっぱりいいところもあるから。こんな結果になってしまったけど、結婚したときは、一生一緒にいようっていう気持ちで結婚してますよね。そのコミットメントってすごいことだと思うんです。だから、パートナーシップでいるより、約束したいなって。

週刊ジャーニー No.1089(2019年6月6日)掲載

「英国人夫との国際離婚」前・後編は、今回で終了となります。次回の座談会も、ぜひご期待下さい!
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