朽ち果てる名もなき建造物たち
伝統を重んじ、古いものを後世に伝えることに並々ならぬ情熱を注ぐ英国。その代表的な団体として、「ナショナル・トラスト(National Trust)」の名をご存知の方も多いだろう。同団体は、歴史的建造物や庭園、美しい自然景観を英国の財産として残すことを目的に、対象物を購入し、または寄贈を受けて、保護するとともに一般に公開する活動を行っている。 今回紹介したいランドマーク・トラストは、ナショナル・トラストの活動に密接に関わってきたひとりのメンバーのシンプルなアイディアによって、およそ50年前に創設された。元政治家で慈善活動家のジョン・スミス卿(1923~2007年)がその人物である。

ランドマーク・トラスト創設者のジョン・スミス卿(Sir John Smith)は、同団体の活動の傍ら、1980年から1995年まではナショナル・トラストの副会長も務めた。それらの功績が認められ「Sir」の称号を授与されている。© The Landmark Trust 子供の頃より建築に造詣の深かったスミスは、1952年からナショナル・トラストの中心メンバーのひとりとして、保護すべき建造物を協議し、寄付を募る活動に携わっていた。英国内の歴史的建造物の置かれた現状を知るにつれ、ナショナル・トラストの活動が意義深いものであることを改めて実感する一方で、同時に心にひっかかるものも感じていた。 ナショナル・トラストが取り扱うのは、日本でもよく知られる景勝地の湖水地方や、世界遺産に登録されるレベルの城や大聖堂、修道院など、価値が多くの人に認められた国家的遺産を中心としている。名の知れた建造物に多くの寄付が寄せられるのは、当然といえば当然のことだ。しかし、それ以外の建造物はどうだろうか…。スミスの目に映っていたのは、派手さはなくとも深い歴史を秘めているものや、小さくても構造上特徴的な建造物が見捨てられているという現実だった。

ハンプトン・コート宮殿を上空から撮影したもの。矢印の示す場所が宿泊施設「フィッシュ・コート」と「ジョージアン・ハウス」。© The Landmark Trust
今でこそ、使われなくなったり、廃墟と化したりしつつある、優れた建造物を修復するテレビ番組が放送され、名もない建造物でも注目を大きく集めるチャンスが与えられている。ところが50年前は違っていた。世間の関心は、有名なもの、大規模なもののみに向けられていたのだ。彼の心には、「ナショナル・トラストや国の保護が追いつかない、小さくとも歴史的な建造物にも手を差し伸べる必要がある」という思いが募っていった。 ナショナル・トラストでの経験がきっかけとなり、スミスと妻のクリスティアンによって1965年にランドマーク・トラストが誕生した。活動の狙いとして明確に2点が打ち出された。 ①規模に関わらず歴史的建造物に救いの手を差し伸べること。 ②その場所をホリデー・ハウスとして貸し出すこと。 宿泊可能としたのには、「社会の関心が、小さな建造物へと向けられる契機となる活動を行いたい」というスミスの強い意思も込められている。鑑賞するだけではなく、泊まることで滞在者はより深く建物の魅力に触れることができるのだ。さらに収益は維持・管理にも活かされる斬新なアイディアだった。
友人や家族など大勢で泊まっては
由緒ある場所なのだから、宿泊費もばかにならないのでは? と思われがちだが、意外とそうでもない。「フィッシュ・コート」の場合、最大6名まで滞在可能で、4泊749ポンド~(6人で割ればひとり1泊31.21ポンド~)。「ジョージアン・ハウス」の方は、最大8名まで滞在可能で、4泊769ポンド~(8人で割ればひとり1泊24.03ポンド~)と、さほど高くないことがわかる(ただしバンク・ホリデーやスクール・ホリデー、クリスマスなど、時期によっては値段が跳ね上がるので注意)。収益は、建物の維持に充てられるので、滞在することで、建物を救う手助けになると考えれば安いとも思えるかもしれない。ぜひ大勢で訪れて、有意義な時間を過ごしてほしい。
ただ、人気が高いため早めの予約が必須。宮殿内の2件ともに、来年3月頃まで満室とのこと(2013年12月16日現在)。予約状況などは、ランドマーク・トラストのウェブサイト(www.landmarktrust.org.uk)で確認することができるが、例えば、昨年に修復を終えオープンした、ウォーリックシャーの「Astley Castle」=写真=は、2015年まで予約で埋まっているほどの混みようだ。泊まると決めたら早めに計画を立てられることをお勧めする。


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