© Royal Collection Enterprises Limited 2025 / Royal Collection Trust

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

■ 「旧王宮」であり、バッキンガム宮殿よりも遥かに長い歴史を誇るにもかかわらず、あまり知られていないセント・ジェームズ宮殿。今号では、チャールズ国王の即位以降、初めて一般公開されるようになった同宮殿を紹介したい。

高齢となったエリザベス女王の公務縮小や夫のフィリップ殿下の公務引退を受け、即位前から「改革」を少しずつ進めてきたチャールズ国王。その中のひとつが、セント・ジェームズ宮殿の一般公開だ。

ロンドンにおける最初の正式な君主公邸は「ウェストミンスター宮殿」だが、500年近く続いた同王宮は1529年の火災により焼失。当時の国王ヘンリー8世は、反逆者とした重臣トマス・ウルジー枢機卿から取り上げた広大な私邸「ホワイトホール宮殿」を2代目の王宮とした。ちょうどその頃、ヘンリーはのちに2人目の王妃となるアン・ブリンを熱心に口説いている最中であり、やがてアンは妊娠。2人は1533年に結婚し、新妻とやがて生まれてくる世継ぎが健やかに過ごせるプライベートな住居として建造したのが、セント・ジェームズ宮殿であった。

しかし、誕生したのは女児で(のちのエリザベス1世)、その後も流産、死産が続いたアンは、3年後の1536年に姦通罪で処刑。セント・ジェームズ宮殿が完成したのもこの年で、彼女が足を踏み入れることはなかった。

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その後、王族の私邸として使われていた同宮殿が脚光を浴びるようになったのは、150年以上が経った1698年。ホワイトホール宮殿が火災で焼失し、「3代目の王宮」となることに決まったからだ。以降、派手好きなジョージ4世が煌びやかな新王宮の建設を命じ、完成した現在の「バッキンガム宮殿」にヴィクトリア女王が移る1837年まで、セント・ジェームズ宮殿は代々の君主が暮らす要所だったのである。

今はバッキンガム宮殿の陰に隠れがちだが、現在も王宮としての重要な役割を担っており、歴史的には王室所有物件の中でも最上位にあたる。そのため、新君主の即位宣言と最初の署名はセント・ジェームズ宮殿で行われ、2022年9月10日にチャールズ国王の即位が世界に宣言されたのも、ここのバルコニーからである。また、ウィリアム皇太子夫妻の長男ジョージ王子と次男ルイ王子の洗礼も宮殿内の礼拝堂で執り行われており、現在も国王の妹アン王女らが生活している。

ヘンリー8世が妻アン・ブリンのために建造してから500年ほどが過ぎた2022年春、チャールズ国王(当時は皇太子)は史上初となる同所の一般公開を決断。わずか数日だけの期間限定で、チケットは一瞬で完売してしまった。翌年も同様に数日だけ公開という2年間の試験運用期間を経て、今年は4~5月の約2ヵ月と大幅に日程が拡大された。とは言っても、今回もすでにチケットは完売してしまっている。90分のガイドツアーのみで、1人85ポンドと決して安くはないが、歴史好きならその価値はある。来年以降も春に限定公開される予定なので、気になる人はぜひ足を運んでほしい。


The Grand Staircase/大階段

© Royal Collection Enterprises Limited 2025 / Royal Collection Trust Photo by Will Pryce

エントランスの突き当りにある大階段。左右に伸びた階段は、「玉座の間」と「王室礼拝堂」へそれぞれ行くことができる。ヴィクトリア女王の時代は、この大階段を含む多くの部屋がウィリアム・モリスの花や植物柄だったが、息子のエドワード7世が白、赤、金色のフランス様式に変えた。

The Tapestry Room/ タペストリー・ルーム

© Royal Collection Enterprises Limited 2025 / Royal Collection Trust Photo by Will Pryce

ウィリアム・モリスによるデザインだが、左端の暖炉は建設当初のもので、ヘンリー8世とアン・ブリンのイニシャル「H」と「A」が「愛の印」として絡み合った意匠になっている。ちなみに、ヴィクトリア女王の孫であったフィリップ殿下の祖母は、この部屋で生まれた。

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The Entrée Room/前室

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「玉座の間」へと続く前室。17世紀のアン女王の時代に、セント・ポール大聖堂の設計などで知られる建築家クリストファー・レンがデザインした。2011年11月16日、ウィリアム王子&ケイト・ミドルトンが婚約を発表したのはこの部屋。

The Throne Room/玉座の間

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2022年9月8日のエリザベス女王の崩御にともない、同10日にチャールズ国王が即位の署名を行った部屋。この部屋には、派手に着飾ったジョージ4世の戴冠式の肖像画が飾られている。彼の戴冠式は歴代君主の中で最も高額な式典となり、この記録をいまだ破った人はいないという。

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セント・ジェームズ宮殿 3つの豆知識

① チャールズ国王の即位が発表されたバルコニーはここ!

ガイドツアー用の入口はマールバラ・ロード沿いにあるが、そのマールバラ・ロードに面している広場「フライアリー・コート」が、君主の即位宣言を最初に発表する場所である。
君主が崩御すると、その24時間以内にセント・ジェームズ宮殿に即位評議会のメンバーが招集される。即位継承儀式のパート1として、まずはピクチャー・ギャラリーで君主の崩御と新君主の即位が宣言される(これには新君主は出席しない)。そしてパート2として、玉座の間にて新君主が即位宣言文を読み上げ、書類に署名する。これが終わると、ガーター主席紋章官らがバルコニーに姿を現し、新君主の即位を宣言。フライアリー・コートに整列した近衛兵らが新しい治世を祝う。2022年9月10日の様子は、以下からどうぞ。

② チャペルの祭壇の下に、メアリー1世の心臓が埋葬されている!

ヘンリー8世の娘メアリー1世は卵巣腫瘍により、1558年11月17日にセント・ジェームズ宮殿で息を引き取った。遺体は防腐処理を施された後、礼拝堂に1ヵ月ほど安置され、12月14日にウェストミンスター寺院に埋葬された。この防腐処理の際に取り出された心臓が、礼拝堂の祭壇下にあると伝えられており、数年前にX線検査を行ったところ、祭壇の下に木箱が見つかっている。

③ ヘンリー8世の足跡がある!

建造当初、宮殿の正面エントランスであったゲートを通り抜け、王室礼拝堂へと向かうアーチの下部に、人の足跡が刻まれている。これはヘンリー8世のものだと伝えられており、下馬する位置の目安となっていたという。しかし残念ながら、ツアーではこのアーチを通ることはできなかった。足跡の写真は、王室のXで確認できる。

Travel Information ※2025年5月6日現在

St James's Palace
セント・ジェームズ宮殿

Marlborough Rd, London SW1A 1BQ
www.rct.uk/visit/st-jamess-palace

見学はガイドツアーのみ
【開催期間】 2025年は4~5月
※2026年も開催予定。ツアー参加希望者は、公式サイトでE-Newsletter(www.rct.uk/about-royal-collection-trust/enewsletter)の登録をすること。開催日が決まり次第、メールで連絡が届く。一般発売を待たずに、ニュースレター登録会員の前売り発売期間で完売してしまうので、気合を入れてチケットを入手しよう。
【料金】 £85
【所要時間】 90分


週刊ジャーニー No.1392(2025年5月8日)掲載