Photo by Max Letek

●征くシリーズ●取材・執筆/本誌編集部

世界最大規模の植物園として知られるロンドンの「キュー王立植物園」。
市民の憩いの場所として親しまれているこの植物園の見どころをご紹介しよう。

テムズ河に沿って広がる緑豊かなキュー・ガーデン。この一帯は、中世初期にはキュー・ガーデンの南側にあるリッチモンドとともに、鹿狩りの場所として王侯貴族たちのお気に入りの場所だった。庭園として手入れされるようになったのは17世紀後半で、この地に住んでいた貴族が先駆け。一家のガーデニングに対する情熱は相当なもので、当時の記録に「まるで取り憑かれているようだ」と記されるほどであったという。
この地域と王室との本格的なつながりは、 1718年にリッチモンド・ロッジ(1772年に解体)に父王ジョージ1世との確執を抱えていたジョージ2世(当時、皇太子)とその妻キャロライン妃が、セント・ジェームズ・パレスから移り住んできたことから始まったと言える。ガーデニングを愛したキャロライン妃は理想の庭園造りに没頭。専門家のアドバイスを頼りに広大な敷地の庭園を作り上げていった。
この地が植物園となる過程で最も重要な役割を果たしたのは、ジョージ3世の母であるオーガスタ皇太子妃だ。オーガスタ妃は夫フレデリックに先立たれた後、寂しさを埋めるかのように夫が進めていた庭園の整備を続行。1759年には植物園として広く認知されるようになり、現在ではキュー・ガーデンの公式な始まりはこの年とされている。その後、オーガスタ妃は、現在にも残るオランジェリーやパゴダといった建造物の建築にも力を入れ、1768年までに集められた植物は2700種類以上にもなったという。

キュー・ガーデン内にあるジョージ3世一家が過ごした館「キュー・パレス」。ロイヤルファミリーの家としては最小規模(新型コロナの影響で閉鎖中)。

1772年、オーガスタ妃の亡き後、キュー・ガーデンを引き継いだのがジョージ3世だ。農民王として国民から慕われたジョージ3世はキュー・パレス(当時の名称はダッチ・ハウス)を住まいとし、キュー・ガーデンの改修・整備にいそしんだ。
歴代の王に引き継がれ、改修・拡大を続けていたキュー・ガーデンだが、ヴィクトリア女王が即位した際に王室の手を離れることになり、キュー・ガーデンは維持費の捻出問題に直面してしまう。また、一般市民からは庭園を公共のものにするべきだという意見があがっていた。そこで、議会はキュー・パレスなどの一部を除き、庭園を国立植物園とすることを決定。1840年に「キュー王立植物園Royal Botanic Gardens, Kew」が誕生し、一般公開されたのである。その後はヴィクトリア女王の後援のもと、絶滅に瀕している品種の研究や保護に力を入れ、植物学・環境問題の分野で世界的にも重要な役割を果たすようになり、その姿勢は今も変わらない。
緑豊かな憩いの場所としてだけではなく、夏には野外音楽コンサートが催されたり、冬にはクリスマス仕様に変身したりするなど、1年を通じて楽しめる、それがキュー・ガーデン だ。

キュー・ガーデン 初めてガイド 
広すぎて どこに行ったらいいか わからない! という人へ

キュー・ガーデンを 象徴する温室
Palm House

Photo by Jeff Eden, RBG Kew

1844〜48年に当時の造船技術を用いて建てられた温室。足を踏み入れると空気が肌にまとわりつくような高温多湿の熱帯雨林の環境が再現され、絶滅の危機に瀕する植物も数多く育てられている。

砂漠から熱帯まで。サボテン好き必見!
Princess of Wales Conservatory

© RBG Kew

ジョージ3世の母、オーガスタ皇太子妃(プリンセス・オブ・ウェールズ)に敬意を表して名付けられ、ダイアナ元妃によって1987年にオープンを果たした温室。サボテンや食虫植物など、10の異なる気候に生息する植物が展示されている。

2018年に再オープンした、世界最大級の温室
Temperate House

Photo by Gareth Gardner © RBG Kew

パーム・ハウス=右頁=と同様にキュー・ガーデンの象徴として知られ、ヴィクトリア調のデザインがエレガントな温室。改修工事を経て2018年に再オープンした。世界各地の温帯に生息する植物が集められ、地球温暖化や生物多様性の損失によって希少となっている植物を鑑賞することができる。

日本が恋しくなったら…
Japanese Landscape

Photo by Jade Beckett © RBG Kew

ここは日本? という錯覚に陥りそうな日本式庭園。灯籠や枯山水があるほか、京都・西本願寺にある唐門のレプリカ、「勅使門(ちょくしもん)」=写真=もある。またガーデン内の西側には日本の家を再現した藁葺き屋根の「民家(Minka House)」があるが、現在は新型コロナの影響で閉鎖中。

木々の生命力を感じる(左)
Arboretum
蜂の巣の中を体験!?(右)
The Hive

© RBG Kew(左)
Photo by Jeff Eden, RBG Kew(右)

敷地内の南側3分の2に広がる樹木園(arboretum)。およそ2000種、1万4000本ほどの木が大地に根を張っている。季節によって異なる表情を見せるこの木々に囲まれ、のんびり散歩をするのも楽しみ方のひとつ。(左)

2015年に設置された、高さ17メートルにおよぶアート・インスタレーション。キュー・ガーデンいちの写真スポット! 蜂がどのようにコミュニケーションを図るのか、生態の秘密に触れられる仕掛けもあり。(右)

絵画800点が壁を埋め尽くす
Marianne North Gallery

© RBG Kew

旅行家で植物画家のマリアンヌ・ノースの絵画が壁にぎっしりと展示される、圧巻のギャラリー(現在、閉鎖中)。

巨大な葉が印象的!
Waterlily House

© RBG Kew

ヴィクトリア朝の園芸家を魅了した睡蓮のための温室(1852年完成)。天井からぶら下がるヒョウタンは秋に見頃を迎える。

Travel Information 2020年8月10日現在

Kew Gardens
Kew, Richmond, London, TW9 3AE
www.kew.org
事前予約制(人数制限あり)、温室など屋内ではマスク着用必須


左:ベルガモット・フレーバーのチョコ(3.50ポンド)、下:モクレンと洋梨の香りの石鹸(6ポンド)

ギフトショップには植物をテーマにした オリジナル・グッズが勢ぞろい! お土産にももってこい。

開園時間
月〜金 午前10時〜午後7時、
土日 午前8時〜午後8時

アクセス
キュー・ガーデン駅から入場門のひとつヴィクトリア・ゲートまで徒歩5分ほど

チケット
4〜15歳 5.50ポンド、16〜24歳 9ポンド〜、 25歳以上 17.50ポンド〜、65歳以上15.50ポンド〜

週刊ジャーニー No.1150(2020年8月13日)掲載