ワインにまつわる今月のトピック:バレンタイン・デーのワインについて

勇気ある司祭の殉教日

立春を迎え、春が近いことを知らせる2月。14日はバレンタイン・デーだ。この特別な日の起源は13世紀初め。ローマ皇帝クラウディウスは、兵士たちの士気を弱めさせないために結婚を禁じたが、それに抗議して秘密裏に兵士たちの結婚を助けたヴァレンティノという司祭がいた。この司祭が処刑された日が2月14日。以降、人々はヴァレンティノ司祭を「恋人たちの守護聖人」として祭るようになった。殉教日を聖バレンタイン・デーと呼ぶようになり、「愛を告白する日」として祝っている。

媚薬とみなされていたチョコレート

祝い方も様々だが、女性から男性にチョコレートを贈るというのは、日本独特の祝い方のようだ。米国、フランス、英国、イタリア、スペイン等では、男性から女性に赤いバラの花束やカード、宝石、チョコレートを贈るのが伝統的な祝い方だ。また、それらの国々には、義理チョコやホワイト・デーも存在しない。
そもそもバレンタイン・デーにチョコレートを贈るという習わしの発祥は英国。キャドバリー社が1868年に発売した贈答用のチョコレート・ボックスや、ハート型のバレンタイン・キャンディボックスが人気を博したためとも言われているが、もともとチョコレートには、欲望を刺激し、愛する人をロマンチックにさせる物質が含まれていると言われ、アステカの時代(1428年頃~1521年)から媚薬と見なされてきた。チョコレートが贈り物として選ばれたのは理にかなっていたというわけだ。

ラブストーリーに縁りのある1本

少し話が横道にそれるが、日本で放送されているNHK朝の連続テレビ小説『ばけばけ』をご存じだろうか。このドラマは、明治時代の松江を舞台にした、小泉セツと八雲(ラフカディオ・ハーン)とのほのぼのとしたラブストーリがもとになっている。随筆家、批評家、そして怪談作家(「耳なし芳一」が有名)の小泉八雲は、日本文化を海外に紹介し、また日本に西洋文化を伝えた人物として知られるが、この八雲の子孫が開発したスパークリング・ワインがサセックス州ルウィスLewesにある。このワインを造るワイナリーはブレイキー・ボトムBreaky Bottom(www.breakybottom.co.ukで、創立者はピーター・ホール氏。同氏の父の母親のお母さん、つまりひいおばあさんのミニー・シャーロット・ハーンさんMinnie Sharlot Hearnは小泉八雲の腹違いの妹。つまり、ピーター氏にとって小泉八雲は祖母の伯父にあたる。ブドウ園名の「ブレイキー」とは灌木の茂みのことで、「ボトム」は乾燥した石灰質のヴァレー(流域)という意味だ。フランスのシャンパーニュ地域と似た石灰質土壌で、シャンパーニュと同様の醸造法で造っている。小泉セツと八雲のロマンスにちなんで、ブレイキー・ボトム、キュヴェ、サー・アンドリュー・デイヴィスBreaky Bottom Cuvee Sir Andrew Davis Brut Traditional Method 2016を、バレンタイン・デーに楽しんでみるのも一案だ。10年寝かせたこのワインは、非常に複雑で濃縮したバランスの取れた優れもの。英王室ご用達のコーニー&バロウCorney & Barrowにて、購入することができる(43ポンド、www.corneyandbarrow.com)。

愛を祝うためのワイン

赤いバラを飾ったテーブルに合うワインとして、フランス語で「愛」を意味するアムールという言葉がワイン名につく、シャンパーニュ・ブリュット・アムール・ドゥ・ドゥーツChampagne Brut Amour de Deutz 2010もご紹介しておきたい。白ブドウ品種のシャルドネだけから造られたBlanc de Blancs(白から造られた白という意味)で159ポンド。ヘドニズムHedonismで購入可能だ(https://hedonism.co.uk)。

この他、非発泡性の白ワインでは、ラベルに大きく「Love Story」と書かれたサルトリ・ピノ・グリッジョSartori Pinot Grigio ‘Love Story’=写真=も良いだろう。ロミオとジュリエットの舞台、イタリアのヴェローナ産(15ポンド、https://winestoreeccleston.co.uk)。洋ナシと花の香りを呈すソフトですがすがしい辛口で、料理に合わせやすい。
さらに、赤ワインなら、ワイン名が大きなハートの中に書かれる、ボルドー産の第3級格付けを冠すシャトー・カロン・セギュール2022 Château Calon Ségur, St Estèphe, Bordeaux 2022(ベリー・ブラザーズBerry Brothersにて127ポンド、www.bbr.com)、そしてそのセカンド・ラベル・ワインのマルキ・ドゥ・カロン・セギュールMarquis de Calon Ségur 2018(ニューヨークワインズNY Winesにて46.95ポンド、https://nywines.co.uk)。また,手ごろなものには、フランス、ボージョレ産サン・タモーレ・レ・ピエール Saint-Amour - Les Pierres(「Saint Amour」とは愛の聖人という意味。ハリソンズ・ワインHarrisons wineにて17ポンド、www.harrisonswines.co.uk)がある。2人の特別な夜に、肉料理と合わせてみてはいかがだろう。

 

週刊ジャーニー No.1431(2026年2月12日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。

e-mail:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
ロンドンおすすめレストラン
面白すぎる英国ジョーク
なるほど英国Q&A
ロンドン近郊トラベルガイド
ロンドン最新トレンド
面白すぎる英国史
面白すぎる英国の偉人
ロンドンでアフタヌーンティー