ワインにまつわる今月のトピック:日本のワイン事情 その6

古くから山ぶどうで飲み物を造ってきた土地

引き続き日本のワイン産地についてお届けしたい。今月は山形県を取り上げる。同県は、山梨、長野、北海道に続いて日本第4位のワイン産地となっているが、ワイナリー数は14と少ない。
西北部は日本海に面し、東側には奥羽山脈が南北に走り、それと並行して県央部に出羽丘陵、月山、朝日山地が連なり、森林面積が県の72%を占めるという山形県では山ぶどうが多く自生し、それらを使った自家製の飲み物が古くから愛飲されていたようだ。本格的なワイン生産は山梨より10年ほど遅く、ぶどう栽培は主に内陸部の村山地方(蔵王連峰の麓、上山市を中心とする地域)と置賜(「おきたま」又は「おいたま」と読む)地方に集中している。置賜は県の南側に位置し、新潟県、福島県、宮城県と接した米沢市、長井市、南陽市、高畠町、川西町、小国町、白鷹町、飯豊町の3市5町で構成 されている。14のワイナリーのうち、村山地方に6つ、置賜地方に6つが位置している。
1970年代以降、山形県ではヨーロッパ系品種の栽培が始まったが、従来から農家によって生産されてきたデラウェアやマスカット・ベーリーAなどの伝統的品種は生食用にだけでなくワイン生産にも使われている。デラウェアはこれまで生食用が主流だったため無核(種無し)だったが、ワインには有核(種有り)のデラウェアが使われている。

牛肉に合う飲み物を所望され始まったワインへの挑戦

さて、山形県内の代表的なワイナリーを紹介する。まず、明治25年にぶどう酒醸造業に着手し、順境不誇、悲境不屈を代々の家訓とする東北地方最古の酒井ワイナリー。その地方を訪れた英国人が牛肉に合うワインを求めたことから、ワイン造りを本格的に始めたという逸話が残っている。家族経営の小さなワイナリーで、現在の当主は20代目。濾過器無ろ過・無清澄・無殺菌にこだわったワイン造りに精心している。代表的なワインは、2018年に初めてリリースした雨狸(あめだぬき)。このワインは、雨霊沢(うるいざわ)と狸沢(むじなざわ)の2区画の自社畑で化学肥料・殺虫剤・除草剤などを一切使用せずに育てたぶどうを使っている。それらの区画には、欧州系の数種類のぶどう品種を含むさまざまな品種が混植されており、混醸により造られたワインを樽で1年間熟成させている。タンニンは中程度で、ブルーベリー、熟した赤色系果実、土の香り、甘草、黒コショウといった複雑な香りを呈すバランスのとれた風格ある赤ワインだ。

寒冷地であることをいかしたワイン造り

© Apple2000

次に、月山(がっさん)ワイン。山形県鶴岡市旧朝日村にある月山ワイン山ぶどう研究所にて、地元産のぶどうを原料とし、旧国道のトンネルを利用したユニークな貯蔵庫で多くの地ワインを熟成させている。豊かな自然に恵まれた地域で、ワインという名前も知られていなかった昔から、地元の人々や修験者たちが野生の山ぶどうを使った飲み物を愛飲していたとされている。昭和40年代後半に、北海道での山ぶどう系のワイン製造の影響を受けた朝日村農協が、ワインに関しては無知というハンデを克服し、苦労の末に免許を獲得、昭和54年から自生する山ぶどう使ってのワイン造りを始めた。山ぶどうを使っての品種改良など、試行錯誤の末、現在では70ほどの農家が山ぶどうの栽培を行なっている。ここでは、山ぶどうのほか、ヤマ・ソービニオン(山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニョンの交配品種)=写真、甲州、セイベル9110も栽培している。現在、月山ワインでは山ぶどうだけではなく、ヤマ・ソービニオンや甲州などの品種からもワインを造っており、寒冷地特有の酸味や冷涼感を特徴としている。国内外のワインコンクールでも金賞等を受賞している。
さらに、置賜地方高畠町に本社を置く高畠ワイナリーは、1990年創業の東北を代表するワイナリー。高い醸造技術、高品質なブドウを使って、甘口から辛口のシャルドネやフルボディタイプの赤ワインまで幅広いジャンルで醸造し、出荷量では東北1位。「Decanter World Wine Award」でも受賞し、評価が高い。一方、920年に創業されたタケダワイナリーは、山形の中央部、朝日村に位置し、自然農法を取り入れたワイン造りが特徴。いずれも山形の地質と気候を熟知したうえで、独自のワイン造りに励んでいる。

週刊ジャーニー No.1410(2025年9月11日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。

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