ワインにまつわる今月のトピック:日本のワイン事情 その2

日本で最も長いワイン造りの歴史を誇る山梨

引き続き日本のワイン事情についてお届けしたい。先月号(4月10日号)でお伝えした通り、国産ブドウのみを原料として作られたワインは、日本における総生産量の5分の1にも満たないが、ワイナリー数は順調に伸びている。2024年1月1日の時点で493あり、その主な産地は山梨県(89ワイナリー)、長野県(75ワイナリー)、北海道(64ワイナリー)の3地域で全体の約半数を占めていることも説明した。今月号ではまず山梨県のワイン産地をご紹介する。
山梨県は日本で最もワイナリー数が多く、ワイン生産量も日本ワインの年間生産量の約26%を占め、ブドウ栽培面積は約400ヘクタールで日本最大。ワイン造りの歴史も古く、甲府でワイン造りが始まったのは1870年代のこと。1877年には、日本初の民間ワイナリー「大日本山梨葡萄酒会社」が高野正誠(たかの・まさのり)と土屋龍憲(たつのり)をフランスに派遣し、ブドウ栽培とワイン醸造を学ばせた。この2人の帰国後、県内でのワイン造りが本格化した。

果樹栽培に適した土地と盆地気候を備えた地

ベーリーAのぶどう棚=山梨県勝沼。

ブドウ栽培が盛んな甲府盆地は、昼夜および夏と冬の気温差が大きく、雨が少ない盆地気候が特徴。土壌は、基本的には砂礫混じりの粘土層で稲作にはあまり適さないが、ブドウなど果樹栽培には最適な土地となっている。ワイン造りの大半は甲府盆地周辺地域で行われており、代表的なブドウ品種は、白ワイン用の「甲州ぶどう」と、赤ワイン用の「マスカット・ベーリーA種」。甲州ぶどうを原料とする甲州ワインは、辛口が主流で、フレッシュな味わいや和の柑橘系の香りを呈することで知られる。この品種の原産地は明確ではないものの、起源は南コーカサス地域で、シルクロードを通して中国に伝わり、東アジアのぶどう品種と自然に交配が進み、日本に伝わったと考えられている。県内の各ワイナリーでは、それぞれこだわりの甲州ワインを製造しており、主流のすっきりした辛口ワインのほかに、中甘口や甘口のワイン、グレープフルーツなどの柑橘系の風味を呈するワイン、樽風味を取り入れたワイン、スパークリング・ワイン、果皮と一緒に醸造するオレンジ・ワインやグリ(灰色)のワインなど様々な個性に富んだワインも生産されている。近年では、この2ぶどう品種に加え、ヨーロッパ系のシャルドネ種、メルロ種、カベルネ・ソーヴィニョン種の栽培も盛んに行なわれている。

山梨を代表する優れたワイナリー

主なワイナリーとしてまず挙げられるのが中央葡萄酒。1923年創業の勝沼を代表するワイナリーの一つ。世界に通用するワイン造りを目指し、甲州ぶどうを世界に認知させた立役者としても有名。甲州ぶどう、優秀なシャルドネ、メルロなどからワインを造っている。さらに、次のようなワイナリーがあるので、機会があれば、これらのワイナリーから生み出されるワインを楽しんでいただきたい。

● 機山洋酒工業…家族経営の小さなワイナリー。原料は全て地元産で、地域に根差したワインを目指し、丁寧なワイン造りを行っている。
● ダイヤモンド酒造…家族経営のワイナリー。現当主は3代目の雨宮氏。大学卒業後、ボルドー大学や、ブルゴーニュの生産者の元でワイン醸造を学んだ。
● くらむぼんワイン…1913年創業の老舗。2007年から基本的に無肥料、不耕起、不除草、化学農薬も殺虫剤も不使用の自然栽培を実施。
● 奥野田葡萄酒…現当主は、東京農業大学で微生物学を修めた。ワイン造りは質の高いブドウからという考えから、高品質なブドウを栽培し、ミネラル感のあるワイン造りが実践されている。
● Kisvinワイナリー…カリフォルニアやブルゴーニュで修行を積んだ斎藤女史が醸造責任者。品質の高さが評価され、都内の星付きレストランやホテル、国際線ファーストクラスで採用されている。世界的にも注目の集まるワイナリー。
● シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー…1877年に現在のメルシャンの礎となる、日本初の民間ワイン醸造所「大日本山梨葡萄酒会社」が設立され、戦後1949年、「メルシャン」ブランドが誕生。
● シャトー酒折ワイナリー…1991年設立。最新のワイン製造技術を用い、各国から導入した設備を完備。ワイナリーは甲府盆地を見渡す高台にあり、ワイナリーツアーの受け入れもある。
● サントリー 登美の丘ワイナリー…サントリーの運営で、約150ヘクタールの広大な敷地を持つ。1909年にブドウ栽培を始め、ワイナリーの丘からは富士山が見え、眼下には甲府盆地が広がる絶景が楽しめる。
● ドメーヌ・デ・テンゲイジ…2016年創業、2017年にワイナリーをオープンした、新しい造り手。自社農園では、全てヨーロッパ系品種を栽培。

週刊ジャーニー No.1392(2025年5月8日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。

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