
■ 第265話 ■トランプ関税と穀物法
▶ちょっと一回脱線するの。トランプ大統領が3月26日、米国に輸入される自動車や部品に25%の追加関税を課すとする文書に署名した。アメリカに大量の自動車を輸出している日本や韓国、EU各国がどう対応していくか興味津々だ。今起きていることは大抵過去にも似たようなことが起きている。だって、人間だもの。ってんで急遽、過去にイギリスで起きた出来事を語る。知ったかぶりは楽しいぞ。
▶1815年6月、ワーテルローの戦いがあってナポレオンが敗れた。ナポレオンは海上封鎖令を発動。征服した国々にイギリスと貿易すんなと命じた。イギリスを経済封鎖でイジメると同時にフランス製品を売る計画。しかし英国製の優秀な機械が買えなくなり困ったのはむしろ大陸側。さらに当時、イギリスは綿織物をほぼ独占。これも輸入が滞ったことでヨーロッパは困っちゃった。一方イギリスでは綿製品が輸出できなくなり価格暴落。ドイツでは逆に暴騰した。この時、イギリスで暴落していた綿製品を格安で買い漁り、綿製品不足で頭を抱えていたドイツに密輸し、高値で売って莫大な利益を得ていた連中がいた。ロスチャイルドと申します。こういうことしないと世界一の大富豪にはなれないの。
▶さて、ナポレオン戦争が終わって貿易は自由化されるはず。バンザ~イ。ところが自由化されちゃ困る人たちがいた。土地持ちの貴族や地主たちだ。だって大陸から安くて美味しい小麦が入ってきたら自分とこで作った小麦が売れなくなっちゃう。そこで彼らは「穀物法(Corn Laws)」を発動。議会を通すのは簡単だった。だって貴族はほぼ貴族院議員。庶民院にも大地主や農業資本家の議員ウジャウジャ。自分たちに利益のある法律はすぐに通っちゃう。穀物法とは要は「小麦の価格が下落しそうな時は小麦の輸入を禁止しま~す」というもの。保護貿易政策だけど得するのは土地貸出のサブスクで食う貴族や大地主、農業資本家だけ。これによって英国産小麦の高値キープ。国民は国産小麦100%のおいしくないパンを高値で買わされる羽目となった。

▶食い物の恨みはおとろしい。「俺たちゃパン買うために働いてんじゃねぇ」と都市部の住民や労働者たち激おこ。さらにパンが高いと従業員の給料を上げなきゃいけないじゃんという自己チューな理由から産業資本家も反発。1819年にはマンチェスターで約8万人の労働者が集まり、選挙法改正や穀物法撤廃などを求める集会開いて政府と激突。また、イギリスの保護貿易に大陸側も英国製品に高関税をかけるなど報復開始。製品が売れなくなったことで産業資本家たち怒髪天突く。1838年には産業資本家たちが反穀物法同盟を結成して政府と激突。物価高騰や食料不足が深刻となり労働者運動は過激化。選挙権を求めるチャーチスト運動も起きて大英帝国カオス。
▶1845年にはアイルランドでじゃがいも飢饉が発生。大量の餓死者が出た。これにはさすがの貴族や地主たちも分が悪くなり翌年、議会は遂に穀物法を廃止。貴族や地主たちが没落していくきっかけとなった。高関税は敗者だけを創り、勝者なしと言われる。トランプ大統領は高関税で自国の自動車産業を守った上、関税歳入を利用して所得税減税を目論んでいるとも聞く。しかし商売は相手の利益も尊重してナンボ。案外一番苦しむのは米国民なんじゃないの? なんて思ったところで次号に続く。チャンネルはそのままだぜ~い。
週刊ジャーニー No.1387(2025年4月3日)掲載
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