
ワインにまつわる今月のトピック:山火事と猛暑に立ち向かうワイン産業
フランスのワイン産業を震撼させた山火事
今年7月、フランスのジロンド県は史上最悪規模の大火災に見舞われた。世界で最も有名なワイン産地ボルドーは、このジロンド県にすっぽり入る地域で、春期の雨量が少なく土地が乾いていたこともあり山火事が拡大。「フランスが直面した最大の危機」と表現されるほど、この環境災害は深刻でボルドーを脅かした。この火災によって焼滅したシャトー(ブドウ畑/醸造所/貯蔵庫/居住建物を含む)はなかったものの、ワイン・ツーリズムが停滞し、今後のワイン産業にもたらす打撃が懸念されている。
フランスだけでなく、アメリカ合衆国の高級ワイン産地、カリフォルニア州でも、山火事が起きている。ブドウ産業に大きな影響を与えた2025年の大火事に続き、今年8月にもまた大規模な山火事が発生。さらには、オーストラリア、アルゼンチンのワイン産地も大火災に見舞われている。
脅威となる煙

こうした火災がもたらす影響は、ワイン・ツーリズムだけでなく、ワイン自体にも及ぶことは言うまでもないだろう。最も懸念されるのは「スモーク・テイントSmoke Taint(汚染)」だ。ブドウの成長時期にもよるが、火災による煙は、ブドウ果皮に付着しワインの風味に影響を与えるだけでなく、ブドウの樹や根にも含まれることによって、その影響は長年にわたると考えられている。ただし、今回のボルドーにおける火災は、熱気と水分不足によりブドウの樹自体が成長停止の状態にあったために、生理学的にみて煙の影響は受けていないとの見解もあり、意見は分かれているのが実情だ。
猛暑も大敵
今年、ワイン産業が直面した問題は山火事だけではない。5月下旬からスペインやフランスが熱波に襲われ、6月からは英国を含むヨーロッパ各地が猛暑に見舞われた。こうした地球温暖化による影響はブドウの成熟を早め、糖度を過剰に高める。そのため、ワインのアルコール度が上がり、新鮮な果実香より熟した果実の風味が強まり、いわゆるフル=ボディのワインが増える。加えて、夜間の気温が下がりにくくなることでフレッシュな酸味が減少し、猛暑や強い日差しによってブドウの色合いが悪くなる一方、雨量の減少や干ばつによって収穫量が減るといった様々な深刻な影響が出る。
より柔軟に対応できるニュー・ワールドのワイン
今後予想される、地中温暖化による問題に対して、ブドウ栽培法や醸造法が法で規制されていないニュー・ワールド(主にアメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、チリ、アルゼンチンなど)と異なり、それらが法で厳しく規制されているオールド・ワールド(主にフランス、イタリア、スペイン、ドイツ、ポルトガル、オーストリア、ギリシャなど)では、その対処法に限界があり、難しい対応を迫られている。
例えば、ニュー・ワールド(北半球の場合)では、ブドウ畑を北や、北向き斜面に移したりするほか、標高の高い場所への移動、新ブドウ品種の導入、ブドウ栽培方法/醸造方法の変更といった、打つ手が複数ある。また、適度な灌がいを行ったり、鳥防止ネットを使用したり、ブドウの垣根をビニールで覆って雨や強い日照を防ぐシートを設置したりするなど、状況に合わせて対処することが可能だ。
伝統を守るために奮闘が続くオールド・ワールドのワイン

オールド・ワールドでは、ブドウ栽培地域/使用できるブドウ品種/ブドウ栽培方法/ワイン醸造法などがすべて厳格に法で規制されている。灌がいは3年未満の若いブドウ樹にしか行うことが認められず、ネットやシートなども設置することはできない。もし、そうしたことを行った場合には、AOC(統制名称ワイン)を名乗ることができなくなり、テーブルワインとして売らなければならず価格が下がる。従って、できることは限られている。とはいえ、オールド・ワールドのワイン生産者達が手をこまねいているわけではない。収穫時期を前倒しにしたり、使用認可ブドウ品種やクローンを追加したりするほか、ブドウの垣根を高めて地面からの照り返しを弱めたり、葉繁でブドウ果実を覆って日照から隠したり、土壌の水分を保つために樹間に雑草を植えたりして、工夫を重ねている。さらには未熟なブドウを加えて醸造するなど、伝統的なワインを存続させるべく、たゆまぬ努力を続けている。苦境にあるワイン産業の従事者すべてを心から応援したい。
週刊ジャーニー No.1461(2026年9月10日)掲載











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