
■ 第264話 ■通信3社「やっぱりね」の共通点
▶1835年、フランスにアヴァスという通信社が誕生した。創業者はシャルル=ルイ・アヴァス。ユダヤ系フランス人だ。アヴァス通信社にベルンハルト・ヴォルフとイズラエル・ビア・ヨザファットという2人のドイツ語翻訳スタッフがいた。2人はアヴァスを退社。ヴォルフは1849年にドイツでヴォルフ電報局を創立。ヨザファットはポール・ジュリアス・ロイターと名を変え1851年にロイター通信を立ち上げ拠点をロンドンに移した。2人ともユダヤ系ドイツ人だった。3人のユダヤ人が始めた3つの通信社。激しく激突するかに見えたがなぜか綺麗に棲み分けが進む。世界は一つ屋根の下にいた3人のユダヤ人が創業した通信3社の大きな網に包(くる)まれていくことになる。偶然ですか? まさかね。
▶大航海時代初期、ポルトガルとスペインは世界地図に線を2本引き「ここから先はスペイン、こっち側はポルトガル」と2国で勝手に世界を2分割した。どっちにしても利益が転がり込むローマ教皇はこれを追認。日本は勝手にポルトガル領とされた。イエズス会のザビエルが真の目的を隠し、笑顔で布教にやって来るのにはそういった背景がある。日本で採用されている世界史の教科書は今も変わらずザビエルを立派な宣教師として教えているのだろうか。カトリックの世界では聖人でも、日本から見りゃ植民地化の切り込み隊長。しかしそれと似たようなことが今度は通信の世界で起こった。アヴァスはフランス、スペイン、イタリア、地中海東部沿岸地域。ヴォルフはドイツ、ロシア、北欧、スラヴ諸国。そしてロイターは大英帝国と非ヨーロッパ圏を割り当てられた。今度はユダヤ系通信3社によって世界が3分割された。非ヨーロッパ圏である日本はロイターの縄張りとなった。ロイターは日本では「ロイテル電」と呼ばれた。日本の新聞各社はこぞってロイテルと契約を交わした。都合よく取捨選択したり味付けしたりと、彼らのフィルターを通された情報を当時の日本の新聞社は大枚叩いて買った。極東はロイターにとってドル箱となった。

▶明治5年(1872年)、日本初の海底ケーブルが陸揚げされ、長崎が上海、そしてウラジオストクと繋がった。海底ケーブルを敷設したのは「大北電信会社」というデンマークの企業。長崎電信局に勤務していた同社デンマーク人の技術スタッフ3~4人の中にちゃっかりロイターから派遣された男が混ざり、行き交う情報に目を通していた。海外から日本に入って来る秘匿性の高い情報も、日本から出て行く機密情報も、全てこのロイターの通信員が目を通していたと考えるのが普通だ。
▶19世紀の終わり頃になるとアメリカから新たな勢力が勃興してきて通信は4大勢力となった。AP通信だ。APはニューヨークを拠点とする5つの新聞社が共同出資して1846年に立ち上がった通信社だ。3対1の対立関係にも見えるが19世紀末には既に大方の、とくにニューヨークの新聞は事実上ユダヤ系アメリカ人の支配下にあったことを考えると3社が4社になっただけかもしれない。1933年にナチス・ドイツが政権を握るとヴォルフ電報局は他社と統合されて消滅。アヴァス通信社は1940年にフランスがドイツに降伏したことで消滅。終戦直前にフランスAFP通信となりロイター、APと共に新たな3大通信社の一角を担うこととなっていく、ってな辺りで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1386(2025年3月27日)掲載
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