
■ 第284話 ■イランにやって来たあの男
▶ 19世紀にロシアとイギリスが繰り広げた「グレートゲーム」。ペルシャ湾に港を持ちたいロシアが1804年と1826年の2度にわたってペルシャ(イラン)に侵攻。イギリスはペルシャを支援。ロシアは現グルジアやアルメニアを掠め取った。1857年、今度はペルシャが内乱に揺れるアフガニスタンに攻め入った。ペルシャはアフガニスタンを古からの自国領土だと主張。イギリスにとってアフガニスタンは植民地インドを守るための大切な緩衝地帯。ペルシャに渡す訳にはいかない。ペルシャとイギリスは戦争状態に突入した。ペルシャを後方から支援する国があった。ロシアだ。「グレートゲーム」という陣取り合戦にモラルや節操などない。
▶アングロ・ペルシャ戦争はイギリスの勝利で終了した。1905年、日露戦争が終わった。そのわずか2年後、ロシアとイギリスが「英露協商」を締結し「グレートゲーム」の第一章が終了。この「英露協商」、内容がエグい。ロシアはアフガニスタンの内政に干渉せず、イギリスの主導権を認める。両国ともにチベットの独立、内政不干渉を約束、まではいい。ヒドイのはペルシャの扱い。ロシアとイギリスはペルシャを3つに分割。北はロシアのもの。南はイギリスのもの。真ん中は中立地帯とされた。ペルシャの人々は「ほとんど植民地じゃないか!」と激しく反発。しかし近代兵器をゾロリ揃えたヤクザ大国2つに挟まれたらやれることはほとんどない。「グレートゲーム」の身勝手な手打ちにペルシャでは民族主義と反帝国主義運動が芽吹いてゆく。

▶「英露協商」が結ばれるずっと前の1872年。イギリスからやってきた一人の男がペルシャ王をだまくらかして鉄道建設や鉱山採掘、通貨発行権を含む銀行設立、石油を含む天然資源開発など広範な権利を獲得した。この男、なぜペルシャ王からこれだけの利権を獲得できたのか。男はロンドンの金融界や投資家の代理人として派遣されていた。慢性的な財政難にあったペルシャは、善人面してすり寄ってくる男の真の狙いが見抜けなかった。幕末の日本と同じだ。赤子の手を捻るがごとき簡単さでペルシャ王は落ちた。ところがこの動きを察知したロシアに介入され、利権は破棄させられた。男はションボリ手ぶらでロンドンに戻っていった。この男の名を知って筆者は飛び上がり、天井に頭ぶつけてコブできた。ポール・ジュリアス・ロイター。当欄264話にも登場するドイツ系ユダヤ人でロイター通信の創業者だ。
▶ロイター通信の創業者がなぜペルシャに潜入し、財政支援をエサに同国のインフラ開発権を獲得するの? 鉄道敷設、鉱山採掘、銀行と通貨発行権、石油採掘権とくれば全てがロスチャイルドのお家芸。これだけでロイターという男が単に通信社をやりたかったユダヤ人でないことが分かる。1872年といえば日本では明治維新成ってわずか4年後。ロスチャイルドは幕府が倒れて新政権ができると日本の鉄道建設や軍艦購入に積極的に投資して日本を育てながら同時にペルシャでの利権獲得に乗り出していた。ロイターの目論見は空振りに終わったが1908年、遂にペルシャ南西部の大地から石油が吹き上がった。掘り当てたのはやはりイギリス人だった。イランで石油をめぐる本格的な抗争が始まるってな辺りで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1406(2025年8月14日)掲載
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