
■ 第95話 ■あの銀行が、手に入ったの~‼
▼1825年、ラテンアメリカ発の恐慌がヨーロッパを襲った。産業革命を経て大規模な機械化に成功したイギリスだったが、マシーンの導入は生産性を向上させ過ぎ、綿製品がダブついた。足りなきゃ値は上がるけど、余れば当然値は下がる。これでヨーロッパの投資家たちは大損し、連鎖で恐慌になっちゃったってことらしい。投資家たちは一斉に銀行に預けていた金(ゴールド)を引き出し始めた。この時代、金が枯れれば銀行は立ちいかなくなる。イングランド銀行とて例外ではなかった。そこを突いたのがこっそり金を集めていたロスチャイルド家当主のネイサンだった。前号でも語ったようにネイサンは、ある時はイングランド銀行から巧みに金を引き出して窮地に追い込み、またある時は裏から金を融通して感謝された。そんな中で少しずつ株をかき集め、やがて通貨発行権を持つイングランド銀行を手中に収めた。余談だがゴールドとマネー、どちらも漢字で「金」なのは実に紛らわしい。ここで言う金は全てゴールド、金塊ね。
▼イングランド銀行を手に入れたが、ネイサンの野望はここが終着駅ではない。この時、イギリスには通貨発行権を与えられた銀行がまだまだ幾つも存在していた。ネイサンの究極の狙いは通貨発行権を独占し、全銀行の頂点に立つことにあった。ネイサンは後に自ら催したパーティーの席上で「大英帝国の玉座にどんな操り人形が座っていようが構わない。だって通貨供給を管理する者がこの国を支配するんだも~ん」とうそぶいたという。時の英王はジョージ4世だったが、皇太子時代の彼は謹厳実直だった父王と違い、浪費と放蕩に明け暮れ、酒と女に溺れる実に羨ましい超ド級のドラ王子だった。議会と父王から莫大な資金援助を受けていたがそれでは全然足りなかった。足りない分はどうした? だいじょうぶ。そばにネイサンという頼もしいATMが控えていた。借金漬けで1人では身動き一つ取れなくなったジョージ4世がロスチャイルド家のマリオネットに成り下がっていたというのはあながち大袈裟な表現ではなさそうだ。
▼この時、ネイサンの視線は他国の通貨にも向けられていた。彼は金を支配することで世界中の通貨を支配できると考え、金の保有量で銀行券の流通量が決まる金本位制を見据えて貪欲に金を貯め込んでいた。しつこいけど金はゴールド。1836年にネイサンが亡くなるとロンドン家は長男のライオネルが引き継いだ。後に「覇王」と呼ばれることになるこのライオネルの時代、ロスチャイルド家はさらなる発展を遂げる。1844年、時の首相ロバート・ピールは議会で「イングランド銀行条例」を可決させた。ライオネルの子飼いだった、後に首相となるユダヤ人、ベンジャミン・ディズレーリの仲介によるものだった。この条例は金に保証された銀行券をイングランド銀行に独占的に発行させ、その他の銀行の新規銀行券発行を禁じ、さらに銀の流通を制限するという内容だった。この瞬間、イングランド銀行は民間でありながら英国の「中央銀行」となった。ほとんどの議員はこれが何を意味するのか気づかなかった。ましてや庶民の間では誰がコインを造ろうが札を刷ろうがどうでもいいことだった。ライオネルは肩を震わせ「うっしっし」と喜んだ。世界に先駆けてロスチャイルド家に通貨を支配されたのは7つの海を支配した大英帝国だったということになる。そして彼らの触手は大西洋を挟んだあの大国に向けられていく。自分で自分の眉に唾しながら次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。
※参考文献:林千勝著「ザ・ロスチャイ ルド」他
週刊ジャーニー No.1215(2021年11月18日)掲載
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