
◆◆◆《第930回》◆◆◆
ハリー王子の帰国
アメリカに居住していたハリー王子がイギリスへ帰って来ることになった。本人が正式に発表したわけではないが、タブロイド紙がすっぱ抜き、BBCも大きく報じた。これは「一時帰国」ではなく、メガン妃と二人の子供を伴って、イギリスに生活拠点を移す本格的な帰国である。
ハリー王子が王族の職務を辞退(要するに放棄である)し、「北米とイギリスを行き来しながら生活する」と宣言したのは二〇二〇年二月だった。彼は祖母のエリザベス女王や父親のチャールズ皇太子(当時)に相談することなく、そのような決断をした。この時、王室は「ハリー王子夫妻のHRH(殿下及び妃殿下)の称号を取り消す」と言明したが、メガン妃は今もたびたびこの称号を使っているらしい。
その後、ハリー王子夫妻はアメリカのテレビ番組に出演し、イギリスのメディアをきびしく批判しただけでなく、メガン妃が英王室でいじめや人種差別を受けたことを滔々と語った。ハリー王子は二〇二三年一月、『スペア』というタイトルの自伝を出版した。彼はその中で「私は兄に何かあった時のための『スペア(予備)』に過ぎなかった」と自嘲的に述べるとともに、王室の人々を公然と批判した。
この本は世界各国で翻訳され、三百万部を超える大ベストセラーとなった。出版社との契約料と巨額の印税はハリー王子のふところを潤したが、プライべートな事柄を暴露されたウイリアム王子は激怒し、兄弟の仲は険悪になった。
メガン妃はハリウッドに復帰し、映像ストリーミングサービスのNetflixに出演したり、「As ever」のブランドで洋服やワインや宝石を販売したりしているが、ビジネスは必ずしもうまくいってない。最近ではNetflixが夫妻との包括契約を単発契約に切り換えたほか、「As ever」のパートナーからも撤退した。つまりハリー王子夫妻の財政は決して安泰とは言えないのだ。
報道によれば、カリフォルニアにある豪邸のローンの支払い、使用人の給料、ポルトガルの別荘の維持費などで、王子夫妻の支出は毎年六百万ドルに及ぶという。それを上回るほどの収入が無い上に、訴訟費用の負担ものしかかっている。ハリー王子がエルトン・ジョンやエリザベス・ハーレイらとともに、プライバシーの侵害でアソシエイト・ニューズ・ペーパーズを訴えた裁判に負けたのだ。その結果、七人の原告は新聞社側に九五四万ポンドの裁判費用を支払わなくてはならない。この金額はさらに増える可能性があり、七人が協同で負担するにしても、ハリー王子にとっては痛手になる。

ハリー王子は昨年九月、単独でイギリスに一時帰国し、十八ヵ月ぶりに父親のチャールズ国王と対面した。さらに今年七月、メガン妃と二人の子供を連れて帰国し、国王夫妻と対面した。王子一家が国王夫妻と会ったのは四年ぶりである。当初、ハリー王子は政府が警護をしてくれないことを理由に、「家族は連れて来ない」と言っていたが、結局は一家で来英して国王夫妻と会った。その約四十日後、イギリスへの本格的な帰国が明らかになった。二人の子供(アーチー王子とリリベット王女)の学校も決まっているというから、かなり前から準備していたに違いない。
ハリー王子は父親のチャールズ国王が元気なうちに王室との和解を果たし、王族の一員として復帰するつもりなのではなかろうか。そうだとすればずいぶん虫のいい話である。王室内部のことを暴露して金儲けをしていながら、その後のビジネスがうまくいかないからイギリスに戻るというのか。兄のウイリアム皇太子がそれを受け入れるとは思えない。
ハリー王子が今年七月に国王と対面した直後に調査機関の「YouGov」が行なった世論調査によると、国民のハリー王子に対する好感度は三十三%だった。これはウイリアム皇太子の七十六%、キャサリン皇太子妃の七十四%、チャールズ国王の六十八%に比べ、著しく低い。そこに率直な国民の感情が表れている。
ところでハリー王子一家を警護する場合、その費用は年間五百万ポンドにのぼるといわれる。先日、公費で警護するかどうか聞かれたバーナム首相は「それはプライベートな問題だ」と答えた。突き放したような言い方だが、真意はどうなのか。国会議員の一部には「警護は必要だ」という声もある。そのことを含め、ハリー王子一家をめぐり、これからいろいろな騒動が起きるのだろう。その結果、「王室不要」を言い出す若者たちがまた増えるかも知れない。
週刊ジャーニー No.1460(2026年9月3日)掲載
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。










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