
■ 第93話 ■インテリざんす
▼マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドが重要視したのが“インテリジェンス”、つまり諜報活動だ。彼は5人の息子をロンドン、パリ、ウィーン、ナポリ、そして地元フランクフルトに配置し、きめ細かに情報交換させた。神聖ローマ帝国の飛脚問屋から成り上がり、皇帝保護のもと郵便制度を世襲独占していたタクシス家を抱き込み、ヨーロッパ中に張り巡らされた郵便網を自在に活用した。早馬を走らせ、時に伝書鳩も使った。さらにドーバー・カレー間にロスチャイルド家専用の高速艇を走らせ、正確な情報を誰よりも早くやり取りできる体制を整えていた。欧州主要5都市で銀行業を営む5人の息子たちはそれぞれ数ヵ国語をマスターしていた。彼らが交わす極秘の書簡はそれら多言語にヘブライ語も混用されていたため、仮に何者かに傍受されたとしても解読は困難を極めた。凄まじい徹底ぶりだ。
▼この、私的な通信網が最大の威力を発揮したのがナポレオン戦争の最終章となるワーテルローの戦いだ。1815年6月18日、初代ウェリントン公(アーサー・ウェルズリー)率いる英、蘭、普(プロシア)などの連合軍はブリュッセル近郊のワーテルローでフランス軍と激突。連合国が勝利した。その知らせはロスチャイルド家専用通信ネットワークを使ってたちまちロンドンにいる3男、ネイサンの元に届けられた。英国債は間違いなく高騰する。ところが勝利の知らせを受け取ったネイサンは悲痛な表情を浮かべ「ウェリントン公、敗れたり」と大嘘ぶっこいた上、大量に保有していた英国債の投げ売りを開始した。市場関係者や投資家たちは「我が国が負けた? まじか?」と驚き「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」とネイサンに倣って我先にと英国債を投げ売った。国債は大暴落した。底値となった頃、ネイサンは密かに英国債をごっそり買い戻した。しばらくすると市場関係者の元に連合軍勝利の報がもたらされた。勝敗が決してから既に48時間が経過していた。事情を知らない人々は「なんや、勝っとるやないか。ネイサン間違っとるで。え~い、なんでもええから買いや、買い~」と叫びながら狂ったように英国債を買い求めた。英国債はたちまち暴騰した。ネイサンは底値で買い集めた国債をウッシッシと高値で処分した。ナポレオン戦争の前後でネイサンの資産は7万倍に膨れ上がったと言われている。誰よりも早く正確な情報を手に入れる通信網を最大限に駆使することでロスチャイルドは天文学的な富を手に入れた。わずか数時間の空白が、その後の世界史を大きく変えていくことになる。しかしこれはまだロスチャイルド家大暗躍物語の序章に過ぎない。
▼ロスチャイルド家が築いた通信網が英王室や有力貴族の間でも「安全で早い」と評判になり、郵便物を委託する者が続出した。ロスチャイルド家は時にこれらの書簡をこっそり開封し、中身を確かめてから先方に届けた。国家を動かす大物たちはほぼ丸裸にされていた。いや~ん、エッチ。戦争に勝ったとは言え英国が注ぎ込んだ戦費も膨大だったが、それを支えたのもロスチャイルドだった。浪費家で巨額の負債を抱えていた放蕩皇太子(ジョージ4世)も、後に首相となるウェリントン公もネイサンから財政援助を受けていた。時の権力者とズブズブの関係になることに成功したネイサンはこれ以降、英政財界に巨大な影響力を及ぼしていく。しかしこの時、ネイサンの眼はさらに巨大な利権へと向けられていた。エグいストーリーだが、ほぼほぼ史実らしい。茫然としながら次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。
※参考文献:林千勝著「ザ・ロスチャイ ルド」他
週刊ジャーニー No.1213(2021年11月4日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む


















セール情報をいち早くGET!今週のお買得★食料品『TKトレーディング』