
■ 第92話 ■一つ屋根の下、からの~
▼ロスチャイルド家の基礎となるマイヤー・アムシェル・ロスチャイルド(1744~1812)の物語はフランクフルト市内にあったゲットー(ユダヤ人用の強制居住区)から始まる。ユダヤ人に苗字は許されず、各種の制約がついてまわった。マイヤー・アムシェルは番号の代わりに赤い盾の表札が掛けられた家に住んでいた。ドイツ語で赤はロート、盾はシルト。つまりロートシルトとは屋号であり、赤盾の家に住むマイヤー・アムシェルということになる。ロートシルトは英語ではロスチャイルド、フランス語ではロチルドになる。マイヤー・アムシェル一家は財を成すとより大きなグリューネシルト(緑の盾)の家に移り住んだ。
▼フランクフルトのユダヤ人がゲットーの外に店を構えることは許されておらず、マイヤー・アムシェルは王侯貴族相手に古銭をカタログ販売するところから始める。やがて有力な選帝侯に取り立てられて御用商人の銀行家となる。1760年代のことだ。マイヤー・アムシェルには10人の子がいた。そのうち男子5人をヨーロッパの大都市に送り込み、それぞれ銀行業を営ませた。ロンドンには3男のネイサンが送り込まれた。ユダヤ人は祖国を追われて以来、ヨーロッパ各地で差別や憎悪の対象となり、財産を没収されたり虐殺されたりと過酷な歴史を辿って来た。そのため、マイヤー・アムシェルは5人の子たちをヨーロッパ各地に散らし、リスクの分散を図ると同時に兄弟間の連携を強化した。ロスチャイルド家が大躍進するのはナポレオン戦争以降のことだが、今回はロスチャイルド発祥の地とも言えるフランクフルトのことを知ったかぶりする。だってフランクフルトで大躍進の狼煙(のろし)を上げたロスチャイルドが、幕末から明治にかけての日本に恐ろしいほど濃密に関わっていたことを知ってしまったんだもの。
▼マイヤー・アムシェルがフランクフルトで始めたロートシルト銀行に1人の若いユダヤ人が見習いとして入社してきた。名をオーガスト・ベルモントと言う。ベルモントは24歳の時にアメリカでのロスチャイルド家の利益を守るために渡米。その後、ロスチャイルドの代理人として為替や鉄道、不動産を扱う会社を起業し、同家に巨万の富をもたらした。米国の政治にも積極的に参加した。35歳の時、キャロラインという女性と結婚した。彼女の父はマシュー・ペリーと言い米海軍提督だった。その3年後、ペリー提督は黒船4隻を率いて来日。「オラオラ、開国せんかい」と大砲で幕府を脅した。ペリー来航は米捕鯨船乗員の保護、食料や薪の調達が目的だったと習ったが、背後にロスチャイルドがいたとなると話は別だ。目的は他にあったと見るべきだろう。
▼フランクフルトのゲットー。同じ緑の盾の家にシフ家が入居していた。1904年、日露戦争が勃発。高橋是清が渡英し戦費調達を試みたが目標の半分しか集まらなかった。ロシアとも通じていたロスチャイルドは表では支援を拒絶した。ところがそこに突然、ジェイコブ・シフ(米国籍)という銀行家が現れた。かつてロスチャイルド家と一つ屋根の下で暮らしていたシフ家の子孫で、渡米後はロスチャイルドの代理人となった。シフは日本が希望していた公債の残り半分を引き受けた。軍資金を得た日本はロシアを破った。明治天皇は感謝し、シフに勲一等旭日大授賞を贈った。幕末、そして明治の騒乱や戦争でフランクフルトにいたロスチャイルド家絡みのユダヤ人たちが複雑な役柄を演じていた。口アングリのまま次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。
週刊ジャーニー No.1212(2021年10月28日)掲載
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