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■ 第13話 ■
ジェンナーさん、ウシさん、ありがとう

▼「牛がかかる天然痘」と言われる牛痘は人にも感染する。感染した牛は重症化するけど人はなぜか軽症で済む。そして農村部では「一度牛痘に感染した人は、天然痘を発症しない」という根拠なき言い伝えがあった。医師エドワード・ジェンナーは牛痘に感染することでできる免疫が天然痘にも効果があるのではないかと疑い、研究を重ねた。

▼1796年、乳しぼりをしていた女性が牛痘に感染した。ジェンナーは女性の膿疱に溜まった液体を取り出し、使用人の息子(8)の腕に接種した。現代なら大問題になるヤバイ実験だ。少年の腕には膿疱が出、わずかに発熱したがやがて快復した。2週間後、今度は天然痘を少年に接種した。少年は発症しなかった。さらに別の子たちを使ってヤバイ実験を繰り返し同様の結果を得た。総仕上げに牛痘に感染した牝牛の膿疱(のうほう)から液体を採取。それを人に直接接種することでも同じ免疫が獲得できることが分かった。こうして牛痘から得た種痘が天然痘の免疫となることを立証。ジェンナーは実験結果をまとめて論文にし、王立協会に出版を依頼した。ところが…。

▼王立協会はジェンナーの論文を「不完全」として送り返した。今から200年以上も前のこと。獣の体液を人の体内に入れるなど、人々が受け入れられる基盤ができていなかった。「牛痘種痘をすると牛になる」と拒絶反応を示す人も多かった。ジェンナーは論文を自費で出版した。

▼その後、ジェンナーが唱えた牛痘の免疫獲得のやり方を試すも、やり方を間違えて失敗した医師たちから天然痘予防の失敗報告が届くなどして王立協会は大いに揺れた。しかし最終的にジェンナーの方法は広く認知され、その後世界へと広まっていった。そして1980年、WHOは天然痘の根絶を宣言した。

ミルクに肉に骨に皮、そして免疫まで。いつもお世話になってます。
© Keith Weller USDA

▼新型コロナウイルス。イタリアやスペイン、そしてアメリカでの死者数は既に中国を抜いた。ワクチンの完成が待たれる中、一部メディアが結核の免疫であるBCGの接種をやめた欧州各国の死者数が多いことを指摘。今もBCG接種を実施しているポルトガルでの死者数が少ないことにも着目。オランダやアメリカでBCGを利用した治験が始まったと聞く。都市伝説のように扱う専門家やメディアも多い。ジェンナーの時のように時間を無駄にして欲しくない。あらゆる可能性に目を向けて欲しい。松下幸之助氏が生きていたらきっと言う。「やってみなはれ」。

▼ちなみにワクチンは英語でvaccineと書く。語源はラテン語のvaccaで「牝牛」を意味する言葉だ。もちろんジェンナーの功績が元になっている。人類はジェンナーにも牛たちにも感謝しなくてはならない。焼き肉食う前に一言「ありがとう」。そんなん言うわけないけど、牛から始まったワクチン第一号誕生の物語。知っておいて損はないかもね。

週刊ジャーニー No.1133(2020年4月16日)掲載

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