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■ 第12話 ■
ウシが人類を救う⁉

▼新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大のため、食品や生活必需品の入手困難な日々が続いている。イギリスの食事が美味いかまずいかはしばし脇に置いておき、ちょっとだけ脱線して世界初のワクチンが誕生するまでの秘話を薄っぺら~く語っちゃう。許してね。

▼イングランド、グロスターシャー西のはずれにある小さな村バークレイ。1749年、この町の牧師宅で1人の男の子が産声を上げた。エドワード・ジェンナーの誕生だ。12歳の時に同郷の医師のもとに弟子入りし9年間、医学を学んだ。その後、単身ロンドンに赴き、高名なハンター外科医のもとで修業。王立協会の会員にも推薦された。そのままロンドンで医師としての仕事を見つければそれなりの出世も望め、財を成したかもしれない。ところがジェンナーは帰郷し、バークレイで開業医となった。ジェンナー、24歳の時の決断だった。

エドワード・ジェンナー(1749 ~1823)
© Wellcome Collection

▼バークレイはコッツウォルズ西の外れにある酪農が盛んな田舎だった。ジェンナーが修業の身であった時、イギリス全土で天然痘(smallpox)が流行した。その際、乳しぼりの女たちが「私は牛痘に感染したことがあるから天然痘にかからないのよ」と語っていたことがずっと気になっていた。医学的な裏付けはなく都市伝説のような内容だった。ところがジェンナーが知る限り、確かに乳しぼりの仕事に携わる人で天然痘の症状を発症した人に出会ったことがなかった。ジェンナーは開業後、本業の傍らでこの伝説めいた話の真偽を確かめるための研究に没頭した。

▼天然痘とは太古の昔からあったとされる感染症で天然痘ウイルスを病原体とする。紀元前1100年頃に没したとされるエジプトのラムセス5世のミイラにも天然痘の痕跡が認められるという。人に対して非常に強い感染力を持ち、全身に膿疱(のうほう)を生じさせる。致死率が非常に高く、運よく生還したとしても「あばた」と呼ばれる醜い痕が残った。天然痘の原型となるウイルスはラクダから人へと移り、それが変異したものと言われている。

▼天然痘が免疫性を持つことはアラブの世界では紀元前から知られていて人痘法が実践されていた。これは天然痘にかかった患者の膿を乾燥させて毒性を弱め、それを健康な人に接種。意図的に軽度の発症を起こさせて免疫を獲得するという荒っぽいやり方だった。この方法は18世紀にはイギリスを始め、ヨーロッパの、特に富裕層の間で広まった。しかし中には重度の天然痘を発症して死亡する人が出るなど安全性に問題があった。研究を進めるうちにジェンナーは牛の天然痘と言われる牛痘に着目するようになった。「もしかしたらこの牛痘が人を救うかもしれない…」。ジェンナーは実験の準備を始めた。次号につづく。チャンネルはそのままだよ。

週刊ジャーニー No.1132(2020年4月9日)掲載

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