
■ 第171話 ■ユダヤ人は結束固い、は幻想
▶前号ではコロンブスがインドを目指してスペインを出発した前日、30数万人のユダヤ人が同国を追放されたと書いた。かつて祖国を追われたユダヤ人の多くが移住したためイベリア半島にはヨーロッパ最大のユダヤ人コミュニティがあった。やがてキリスト教徒がイスラム教徒を圧倒し、領土を回復していく過程でユダヤ人に禍が振り注ぐ。スペインはイベリア半島にいたイスラム教徒やユダヤ教徒らにキリスト教への改宗を迫った。ユダヤ人は2つの勢力に分断された。1つは改宗を拒み、異端審問の末に火あぶりにされたり、国外追放された人々。もう一つは要請に応じてキリスト教徒となった人たち。改宗した人たちは「コンベルソ(converso)」と呼ばれた。英語のコンバート(convert)で改宗を意味する。キリスト教徒となったコンベルソは財務能力を買われスペイン王国の中枢に食い込んで行った。改宗を拒んだユダヤ人から見たら許し難い裏切り者たち。彼らは裏切り者のコンベルソを「マラーノ」と呼んで侮蔑した。マラーノとは「豚」という意味で要は「豚野郎」だ。かつて離婚した元妻に「金髪豚野郎」と呼ばれた落語家がいたが、それとは全然関係ない。
▶ところがコンベルソと呼ばれる改宗ユダヤ人も2種類に分断された。1つは本当にキリスト教徒になったユダヤ人。もう1つは表面的にはキリスト教徒を装いながら密かにユダヤ教を信じる人たち。この隠れユダヤ人を最も嫌がったのがキリスト教徒ではなく完全にキリスト教徒に改宗したコンベルソたちだった。彼らは保身のためスペイン王に「異端審問をやって隠れユダヤ人を炙り出し、処分しましょう」と同胞を売った。筆者はこれまでスペインの過酷な異端審問はキリスト教徒がユダヤ教徒やイスラム教徒に対してやったものと信じていたが、きっかけを作ったのは完全にキリスト教徒となった元ユダヤ人だと知ってゾッとした。ユダヤ人も一枚岩ではない。

▶結局、改宗を拒んだ人や表面だけキリスト教徒となった人たちがスペインを追放された。貿易・商業・金融など金儲けのプロであるユダヤ人を追放したことでスペインはこの後、何度もデフォルト(債務不履行)騒ぎを起こし、徐々に没落していく。スペインを追われた大量のユダヤ人たち。彼らは一体どこに向かったのか。ポーランドだ。なんで? ポーランドは13世紀の終わり頃、突然侵略して来たモンゴル軍にボコボコにされ、国民の多くが殺されて人口が激減した。モンゴル軍が去ったのち、荒廃したポーランドは再興のためヨーロッパ各地で迫害されていたユダヤ人を積極的に受け入れた。人口復元のためだけではなく、ユダヤ人の財力と財務能力は復興に不可欠だった。イベリア半島を脱してヨーロッパに拡散したユダヤ人はセファルディムと呼ばれ、ドイツや東欧にいた白人系ユダヤ人のアシュケナージとは区別される。彼らはポーランドをイスラエルに代わる新国家にしようと夢見た。しかしポーランドは後にロシアやドイツなどの大国に分割され、地図上からその姿を消した。ポーランドにいたユダヤ人たちはそれぞれロシア系やドイツ系ユダヤ人となっていった。
▶新イスラエル建国。それが流浪するユダヤ人たちの悲願だった。ヨーロッパにそれを求めたがなかなか叶わない。そんな中でコロンブスが大航海に出発する。あと押しをしたのもまたコンベルソたちだった、ってなこって次号に続くぜ。チャンネルはそのままだぜ。
週刊ジャーニー No.1293(2023年6月1日)掲載
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