
■ 第156話 ■勝つまで下着、替えません
▶ハリー王子の自伝「スペア」出版から話が脱線。16世紀のイングランドに舞い戻って来てしまった当欄。王家にとって「スペア」はいつの時代も大変だったみたいよと言いたかっただけなんだけど、いつの間にか「スペア」出来ずに終了したチューダー朝の話になっちまった。エドワード6世、ジェーン・グレイが死んだ今、順番的にはメアリー1世だが、メアリーを語ろうとすると彼女のファミリーヒストリーは避けられない。よって今週もまた、鼻持ちならない知ったかぶりをするんだぜ。
▶メアリーはキャサリン・オブ・アラゴンとヘンリー8世の間に生まれた初めての嫡子だ。ヘンリー6人の妻のうち3人がキャサリンだった。そのため区別する意味で「アラゴンのキャサリン」と呼ばれる。アラゴンとは現在のスペインにあった王国。キャサリンのお母さんはアラゴンの王女イザベル1世。お父さんはカスティーリャ国王のフェルナンド2世。この2人が政略結婚してスペインとなり、力を合わせてイベリア半島からイスラム勢力を駆逐、いわゆるレコンキスタ(国土回復)を成し遂げた。時のローマ教皇はイスラム勢撃退を「よくやった!」と称賛し、2人に「カトリック両国」の称号を授けた。イザベルは姉さん女房で強烈なキャラクターの女傑だった。コロンブス探検旅行に資金援助したのもこの人。

▶レコンキスタの際、イスラム勢最後の砦となったグラナダ攻略にあたり、勝利願掛けのため3年間下着を替えなかったという嘘クサい伝説が残る。この逸話のせいで茶色がかった灰色のことを「イザベル色(灰黄色)」というらしい。勝利の日までお百度参りするとか好きな食べものを断つとかは聞いたことあるけど、下着替えないってどういう願掛け? 大学受験の願掛けで母親に「合格するまでお母さんは下着替えません」って言われたら子は死ぬ気で頑張るか、グレて回転寿司行って湯飲みペロペロするかのどちらかだ。さらにこのイザベル、ローマ教皇から褒められちゃったこともあり「狂信的」がつくほどのカトリック信奉者になっちゃった。その勢いで、キリスト教に改宗してイベリア半島に居残ったイスラムやユダヤ教徒、新教徒にも厳しくあたった。悪名高い異端審問を開き、改宗したといいながら陰でこっそり多宗教を信仰している者をあぶり出し、財産没収や追放はまだいい方。多くを火あぶりで処刑した。
▶ヘンリー8世の最初の妻となるキャサリン(カタリナ)はこの女傑の4女だ。キャサリンにはファナという姉がいた。ファナが嫁いだのが神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の息子。間に生まれた子がのちにローマ皇帝カール5世となり、さらにカール5世の子がスペイン王フェリペ2世となる。従ってカール5世はキャサリン・オブ・アラゴンの甥。ヘンリー8世はとんでもなく強大なパワーとネットワークを持つファミリーの娘に手を出した。上手くいけば最高の姻戚関係だったが、男子を産まないという理由でキャサリンを棄てた。離婚にも色々あるがヘンリー8世とキャサリンの離婚とはイングランドが大国スペイン、ローマ教皇、神聖ローマ帝国をまとめて敵に回すとんでもなくヤバい離婚だった。王位継承順位1位だったのにゴミのように棄てられた上、母親とも引き裂かれたメアリー。この時以降の「恨」がメアリーを「ブラッディ・メアリー」に育てていくことになるってところで次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。
週刊ジャーニー No.1277(2023年2月9日)掲載
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