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■ 第155話 ■スペア不在でチューダー大混乱

▶ハリー王子が生まれた1984年9月、チャールズ皇太子(現チャールズ3世)はダイアナ元妃に「素晴らしい。君は私に後継者とスペアを与えてくれた。私の役目はこれで終わりだ」と告げたという。事実だとしたらヒドイお話。男子後継者とその予備を作ることは君主の重要な責務。6人の妻を娶ったヘンリー8世はスペア作りに失敗。何とか後継者エドワードだけは残してヘンリーは逝った。最初の妻の子メアリーと2番目の妻の子エリザベスは、2人とも王位継承権を剥奪され庶子とされた。ところがエドワード皇太子にスペアなし。ヘンリーは死ぬ前に急きょメアリーとエリザベスを庶子から嫡子に戻した。エドワードに何かあればイングランド史上初の女王が誕生する。候補No 1はメアリー。メアリーに子ができなければエリザベスがNo 2。しかしメアリーは強烈なカトリック教徒。エリザベスは大逆罪で処刑された先妻の子。どっちが君主となってもひと悶着起きることは避けられない。

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▶スペア不在で先行きに不安を抱えたチューダー朝。そこに絵に描いたような大悪党が登場する。ノーサンバランド公という大貴族。エドワードが疑惑の死を遂げる直前、自身の6男ギルフォードを急ぎヘンリー8世の姪の娘、ジェーン・グレイと結婚させた。そしてエドワードが病に伏すと「メアリーが女王になったらイングランドがカトリックに戻っちゃう。ヤバいよ、ヤバいよ~」「エリザベスはお父さんを暗殺しようとした悪い女の娘。ヤバいよ、ヤバいよ~」と刷り込み、ヘンリー8世の遺書を無視してエドワードに後継者を指名するよう促した。エドワードは「後継者はジェーンらが将来産むであろう男子」としていたが死の間際、ジェーンの名前の右肩に「and her」と加筆。これによって「ジェーンが将来産むであろう男子、または彼女自身でもオッケー」という意味に変わった。ノーサンバランド公の狙いはここにあった。エドワード6世が死んでジェーンが女王となればノーサンバランド公は女王の義父。絶大な権力を握ることになるウッシッシ大作戦。シェークスピアですら書くのを躊躇するレベルの劇画的大陰謀事件。

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「レディ・ジェーン・グレイの処刑」ですが、何か?

▶メアリーがヘンリー8世の遺書通りに即位しちゃうのを防ぐためエドワード6世死去のニュースは3日間秘匿された。死去翌日、ノーサンバランド公はメアリー捕縛に動いたが間一髪で逃げられた。さらに翌日、ジェーンを自邸に呼び出し「次の女王は君だ」と告げた。「え~、なんで私?」と嫌がるジェーンを説得し、翌日ロンドン塔に連れて行き、6男ギルフォードと並べて新女王即位を国民にアピール。さらに自ら軍を率いてメアリー征討に向かったが、国民の支持を得たメアリー軍の返り討ちに遭い、即位から9日間で陰謀は破綻した。

▶ノーサンバランド公は大逆罪で処刑。ジェーンやギルフォードも死刑判決を受けたがメアリーは血縁者ジェーンの処刑を躊躇。ところがメアリーの即位を嫌悪する反カトリック勢力の反乱が勃発。2人を生かしておいては更なる混乱を招くとの周囲の判断から後日、2人とも首を刎ねられた。ジェーン16歳、ギルフォード17歳だった。これが数年前「怖い絵展」で有名になった「9日間の女王、ジェーン・グレイの悲劇」の大筋だ。スペアとは有事の際の代役。有事がなければ地味な役割。しかしそのスペアがいなかったためチューダー朝は大混乱に陥ったという一例をさっくり語ったところで次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1275(2023年1月26日)掲載

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