
■ 第143話 ■NASAがやったスゴイ実験
▶地球に衝突し、瞬く間に恐竜を絶滅させた隕石のことを書いているまさにその時、ちょっと興奮するニュースが飛び込んできた。NASA(米航空宇宙局)は9月26日、「ダート」と呼ばれる無人探査機を、地球から1100万キロ離れた宇宙空間に浮かぶ直径160メートルほどの小惑星に激突させた。それから2週間ほど経過した10月11日、NASAは実験が成功だったと発表した。一体何が成功だったの?
▶恐竜を絶滅に追いやった巨大隕石が地球に衝突した時の様子を、もう少し詳しく語ってみる。およそ6,600万年前、直径10キロほどの小惑星が秒速20キロでメキシコのユカタン半島に衝突した。要はエベレストより一回り大きい岩のかたまりが時速7万2千キロで地球に激突したってことだ。衝突時のエネルギーはTNT火薬100兆トン分。1トンの凄さが分からないから100兆トンと言われてもピンと来ないけど爆裂にヤバそうな数字だ。海底に深さ160キロの巨大な穴が開き、溶岩と超高温ガスの噴出口が出来た。衝突地点から1000キロ以内は火球に吞み込まれ、生物は即死。衝突を目撃できる場所にいた者も命はなかった。地球裏側でも地表温度は250℃に達した。
▶火焔や熱風地獄を生き延びた生物にさらなる災いが迫る。衝突の衝撃で大気圏に巻き上げられた大量の岩石が流星のように地上に降り注いだ。その後、高さ300メートルの巨大津波が世界中の海岸線を襲った。塵や煤が太陽光を遮断し、大気を一気に冷却した。隕石が落下した場所もまた最悪だった。ユカタン半島周辺の地層は硫黄を多く含んでいた。大気中に巻き上げられた大量の硫黄はやがて酸性雨となって大地を酸性化させた。次から次と続く隕石地獄。その結果、地球上生物の75%が失われ白亜紀末の大量絶滅を引き起こした。生き残ったのは地中、水中、洞窟などに隠棲していた両生類や小型爬虫類、昆虫、魚類やわずかな鳥類に植物の種子、そして我々の祖先、小型哺乳類などだった。支配者的存在だった恐竜が姿を消し、人類が君臨する道筋が開かれた瞬間だ。ユカタン半島に堕ちた隕石によって出来たクレーターはこれまでに発見されたものの中で3番目に大きい。一つはアフリカで、もう一つはカナダに堕ちた。と…言うことはいつか4番目があるんじゃないの?次に巨大隕石が堕ちて来たら人類も滅亡するの?想像しただけで失禁ジョジョジョが止まらない。
▶ここで冒頭のNASAだ。無人探査機「ダート」はいつか地球と衝突する小惑星が現れた時、地球の遥か遠くで探査機を小惑星に衝突させて軌道を変えられないかというSF小説ばりの実験だ。今回は地球から1100万キロ離れた直径160メートルの小惑星に冷蔵庫サイズの探査機を衝突させ、小惑星を十数メートル動かすことに成功した。地球から遥か遠いところで軌道を数メートルでも変えられれば、地球への衝突は避けられる可能性が高い。まさに映画「アルマゲドン」を彷彿とさせる地球防衛のための壮大な実験パート1。ダートが衝突した小惑星はユカタン半島に堕ちたものと比べたらハムスターの鼻クソくらい小さい。メディアの扱いも大きくないけど、人類にとっては巨大で偉大な一歩だったと筆者は一人、感動している。とりあえずNASAとダートに乾杯だ。今週も無事、飲む理由を見つけたところで次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。
週刊ジャーニー No.1263(2022年10月27日)掲載
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