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■ 第40話 ■
九州の人々に告ぐ

▼「黒人の命は大切」運動が世界で盛り上がりをみせたため本来、全然関係ない本稿までしばし暗黒の黒人奴隷史に没頭しちまった。脱線ついでだ。少し前に「関西人に告ぐ」を語ったので今回は九州人に熱く語りかけよう。

▼私は北海道の生まれだ。今では味噌が有名らしいが、私の小さい頃、ラーメンといえば醤油だった。18歳から東京で暮らすようになった。そこでも主流は醤油だった。駅構内にある立ち食いの店でもラーメンと言えば醤油。1980年代前半、まだラーメンブーム到来前夜だったが、味噌や塩ラーメンも徐々にそのステータスを高めつつあった。そんな時、友人から新宿歌舞伎町の近くにとても美味い熊本ラーメンの店があると聞かされた。そう、「桂花ラーメン」だ。この時まで、九州に独自のラーメンがあることすら知らなかった。この「桂花」で初めて豚骨ラーメンを知った。旨さに衝撃が走った。生まれてから20年間、遭遇したことのない種類のスープだった。どちらもラーメンを名乗るが、今でも豚骨ラーメンは醤油や味噌、塩ラーメンと全く別カテゴリーの食いものと思っている。だって負けるの、イヤだもの。

▼6年ほど前、九州を訪れた。本場の豚骨ラーメンを堪能しまくった。その途中、ウイリアム・アダムス(三浦按針)の墓参りのため長崎県の平戸に行くことにした。佐世保から2時間ほど路線バスに揺られて行ったのだが、バスの出発まで少し時間があった。そこでバスターミナルのそばにあった小さなお食事処に入った。店の外ではためく「ラーメン」の赤い幟(のぼり)に魅かれた。豚骨ラーメンばかり食べていたのであっさりした醤油ラーメンが恋しくなった。おばちゃんがオーダーを取りに来たので迷わずラーメンを注文した。5分後「おまちどおさん」の声と共に目の前にラーメンが置かれた。豚骨だった。細い目が皿のようにまん丸になった。おいおいおばちゃん、頼んだのはラーメンだぜ。ラーメンって言ったら醤油。日本の共通認識だろうぜ。ここは外国か? と憤るものの小心者なので黙って美味しくいただいた。

▼ロンドンに戻り、福岡出身のK君にその話をした。するとK君は不思議そうな表情で「当たり前ばい」と言った。私は「それじゃ九州で醤油ラーメンを食べたい時は何て言えばいいんだ?」と尋ねた。「醤油ラーメンばい」。そのまんまだった。「ホット」の一言だけでコーヒーをゲットする大阪の異国感も半端ないが、九州もなかなか異国だった。なんせラーメンを注文すると醤油、味噌、塩といった主軸3兄弟を全力で無視ぶっこいて私がまだ正式にラーメンと認めていない豚骨スープ麺を臆することなく堂々と出して来る。外国だ。

▼これを九州の人が読むとおそらく「何が問題になっとっと?」とK君同様キョトンになるのだろう。しかし彼らがもし北海道に行く機会があったらきっと私と似たような体験をする。今の北海道で「ラーメン」とだけ頼んだら一体何味のラーメンが出て来るのか、もはや私ですら見当がつかない。しかし豚骨ラーメンだけは天地がひっくり返っても出て来ない。その時、キョトンとする九州人に言ってやりたい。「何が問題になっとっと?」。今回は九州全域を敵に回してやったぜ。チャンネルはそのままばい。よかば~い、よかば~い。

週刊ジャーニー No.1160(2020年10月22日)掲載

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