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■ 第22話 ■
関西の人々に告ぐ2

▼前号ではイギリス生まれのウスターソースを「関西のご当地ソース」と思い込んでいるお茶目な関西人が多いと褒めちぎり、沢山の敵を作った。今号ではさらに追い打ちを掛けて全関西を敵にまわす。もう2度と関西の地を踏めなくなるどころかテムズに沈められるかもしれないと思うと背筋凍って失禁する。

▼もう20年以上も前のことだ。かつてロンドンの中心地、ピカデリーサーカスに日本のデパート「そごう」があった。地上階の一角にお寿司を出す洒落たカフェがあった。店長や板前さんたちと親しくなり、ランチ時によく通って美味しい寿司をいただいた。ある日、隣のテーブルに関西から来たと思われる品の良いマダム4人がいた。50歳中頃だろうか。食事を終えてしばらくすると、リーダー格の女性が皆に「コーヒー飲まへん?」と聞いた。みな「飲も、飲も」と答えた。行動力溢れるリーダーは「ちょっと、お兄さん」と流ちょうな日本語で言いながら勢いよく右手を挙げウエイターを呼んだ。立派な体躯をしたマイク・タイソン似の男性がやって来た。リーダーは挙げた右手の指4本をピンと立てて言った。「ホット、よっつ」。その瞬間、私は口元に運んでいた鉄火巻きを誤って鼻の穴に突っ込み、ワサビにむせた。

▼タイソンは一瞬戸惑った表情を見せたが冷静に尋ね返した。「Hot what (熱い、何ですか)?」。マダムは「ホット」、つまり「熱い」しか英語で言っていない。従ってタイソンの質問は極めて妥当だった。しかしリーダーは「ホット」を繰り返した。タイソンは困り顔で尋ねた。「Hot...coffee?」。私は鼻の穴からワサビを取り出しつつタイソンの類まれな洞察力に感心した。リーダーは日本語で「そそ。4つね」と言い、注文は無事通った。昨今はラテだのペチーノだのコーヒーの種類が俄然増えたからどうなっているのか分からないが、少なくともこの当時、関西では熱いコーヒーのことを「ホット」と呼ぶのが普通だったらしい。だったらアイスコーヒーは? 熱い紅茶は? もはやイギリスより関西の方が外国に感じる。

▼何やかんやでマダムたちは「ホット」の一言と指4本でコーヒーを無事にゲットした。すげーぞ、関西弁の突破力。感心していた次の瞬間、さらに信じられない光景が目の前で繰り広げられた。3人のマダムが尊敬の念に瞳をキラキラと輝かせリーダーを褒め散らかした。「いや~田中さん、英語ペラペラや」「かっこええわぁ」。私は赤貝のニギリを鼻の奥の方まで押し込んでいた。リーダーも満足そうに言った。「私なぁ、英検4級持ってるやんか」。鼻の穴からぶら下がった赤貝の身がユラユラと揺れていた。

▼これを書いた私は愛する関西の友人をほぼ失う。それどころか差別主義者と呼ばれ、袋叩きにあうかもしれない。しかし私は真実を追求する自称社会派ハードボイルド系ジャーナリストである。赤貝ユラユラはちょっと盛ったけど今回の件はどこまでもドキュメンタリーである。本稿の主旨を逸脱し過ぎ、元に戻れなくなっちゃってから久しいが、例え友だち去って一人ぼっちになってもグダグダは続く。チャンネルはそのままでっせー。

週刊ジャーニー No.1142(2020年6月18日)掲載

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