gudaguda_title.jpg

■ 第16話 ■
ロックダウンブリテン

▼4月29日、英政府は新型コロナウイルスに感染して病院で死亡した人の数に自宅や介護施設で亡くなった人を加えた。これによって英国内での死者数は2万6,097人となり、フランスやスペインを抜いて世界で3番目に犠牲者の多い国となった。英政府が採用した、あえて軽めに感染させて免疫を獲得させるという「集団感染」戦略。それが誤りだったかどうかは分からないが、少なくとも英国は戦略の修正を余儀なくされた。4月末になってようやくヒースローなどの国際空港で、入国する人たちに2週間の自主隔離の指示を出し始めたというが、いくら何でも遅過ぎないか?

▼英国は歴史上、何度も伝染病や感染症に襲われた。14世紀に流行したペスト(黒死病)が最も有名だ。この時はイングランド人口の3分の1が失われ、農民が激減しことで大混乱となり一揆が起きた。その後もペストは何度もヨーロッパを襲ったが、ペスト以外にも色々な感染症が流行した。チューダー朝のスーパースター、ヘンリー8世を見てもまさに流行り病から逃げ回る人生だった。ロンドン東部のグリニッジ宮殿で生まれるとさらに南東にあるエルサム宮殿に移され、そこで幼少期を過ごした。ヘンリー8世にはアーサーという5つ上の兄がいたが、15歳の時に発汗病(sweating sickness)という恐ろしい流行り病にかかって死んだ。のちにヘンリーの2番目の妻となるアン・ブリンも恋人時代にこの病にかかって死にかけた。ヘンリー自身は22歳の時に天然痘に、30歳の時にマラリアに罹患した。英国のような北国でマラリア? んなアホなと思う人も多いだろうけど、当時のイングランドは沼地が多く、病原体の媒介となる蚊がワッサワッサいたんだとか。

▼英国の宮殿といえばバッキンガムパレスを思い浮かべる人が多いだろうけど、ヘンリーの生きた時代にこの宮殿は存在しない。その代わり先述のエルサムやリッチモンド、ハンプトンコートにノンサッチ、オートランズなどテムズ河畔を中心にあちこちに大小の宮殿があった。糞尿垂れ流しのロンドン(シティ)は伝染病の百貨店みたいなきったない所だったため、高貴な方々は皆シティの外に居を構えていた。宮廷内でヤバイ咳をする人が出るとヘンリーはすぐに馬を用意させて他の宮殿にスタコラ逃げたんだとか。つまり郊外に点在した宮殿は感染症流行時の避難所的な役割も果たしていたということだ。

▼102年前にはスペイン風邪が世界中で流行し、英国だけでも23万人近くが命を落とした。人類は過去から多くを学ぶチャンスが山ほどあったのに今回のパンデミックへの備えが十分だったとは言えそうにない。そしてその代償はあまりにも巨大だ。もはや本稿のお役目が何だったのかすら思い出せないまま次号につづく。チャンネルはそのままだぜ。

私が作ったヘンリー8世のユーチューブ動画「怪物ヘンリー8世の作られ方」を観るが良い。だって、暇でしょ。

週刊ジャーニー No.1136(2020年5月7日)掲載