
●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部
■ 英国のイメージとして、よく挙げられる近衛兵。ふわふわとした黒い毛皮の帽子と赤い制服がトレードマークの彼らは、英陸軍の近衛師団に所属し、君主の護衛を日夜担っている。チャールズ国王の公式誕生日を祝う式典「Trooping the Colour(トゥルーピング・ザ・カラー)」が迫った今号では、王室を守る近衛兵に迫ってみたい。
英陸軍(British Amy)の中でも精鋭部隊で編成される近衛師団(Household Division)。近衛師団は近衛歩兵隊(Foot Guards)と近衛騎兵隊(Household Cavalry)で形成され、黒い毛皮(熊)の帽子と赤い制服で知られているのは、前者の近衛歩兵隊である。
近衛歩兵は、その成り立ちからグレナディア・ガーズ(Grenadier Guards)、スコッツ・ガーズ(Scots Guards)、ウェルシュ・ガーズ(Welsh Guards)、アイリッシュ・ガーズ(Irish Guards)、コールドストリーム・ガーズ(Coldstream Guards)の5連隊に分かれており、それぞれ帽子の羽根飾りや制服の襟章などが異なる。また、馬に騎乗する近衛騎兵もライフガーズ(Life Guards)とブルーズ&ロイヤルズ(Blues and Royals)の2連隊があり、それぞれ制服とヘルメットの房飾り(馬の尻尾)の色が異なっている(詳細は下記参照)。
華やかなエリート集団であることは創設当時から変わりないが、昔は制服や軍馬を自費で用意しなければならず、「良家の子息」でなければ近衛師団に入ることは難しかった。さらに、外国からの国賓を迎える際の警護も担うため、長身(6フィート/約182センチ以上)で容姿が整っていることも必須条件であった。ただ現在は身長制限はなく、制服も陸軍の予算でまかなわれているという。
そんな「選ばれし衛兵たち」の卓越した訓練の成果と規律、協調性、そして君主への忠誠心を披露する場が、300年近く続く壮麗な儀式「トゥルーピング・ザ・カラー」だ。近衛師団と王立騎馬砲兵隊の兵士1350人とその楽団員300人が一堂に会して国王の誕生日を祝い、君主と軍隊の深い絆を誇示する重要な機会なのである。
英国の伝統行事として広く知られ、そのパレードは観光客に絶大な人気を誇る「衛兵交替式(Changing of The Guard)」以上に壮観。王室メンバーも出席し、英空軍によるフライパス(儀礼飛行)も行われる予定だ。「にわか知識」が少しあるだけで、きっと今年のトゥルーピング・ザ・カラー(6月14日開催)は、いつもより楽しめるはず! ぜひ参考にしていただきたい。
近衛歩兵隊/Foot Guards
■ バッキンガム宮殿やセント・ジェームズ宮殿は原則として、以下の5連隊が交替で警護している(たまに英連邦の他国部隊が「ゲスト」として警護にあたることもある)。一見、どの連隊も同じように見えるが、実は赤い制服の襟章やボタンの配置が微妙に異なっている。なかでも最も見分けやすいのが、帽子(ベアスキン)に着けられた羽根飾りの位置と色。とくに冬は灰色のコートを着用するので、羽根飾りでしか判断がしずらくなっている。

グレナディア・ガーズ
Grenadier Guards
襟章:手榴弾
帽子の羽根飾り:白/左側
1656年、清教徒革命でヨーロッパへ亡命中のチャールズ2世の護衛隊として創設。1815年にウォータールーの戦いでフランス・ナポレオン軍の手榴弾連隊を破ったことを讃え、「手榴弾兵(Grenadier)」の名称がついた。

スコッツ・ガーズ
Scots Guards
襟章:あざみ(スコットランド国花)
帽子の羽根飾り:なし
1642年、チャールズ1世により創設。1650年にチャールズ2世がスコットランド王位に就いたときに護衛隊となったが、王がヨーロッパへ亡命した後は解散。1660年の王政復古で再編成された。

ウェルシュ・ガーズ
Welsh Guards
襟章:リーク(ウェールズ国花)
帽子の羽根飾り:白・緑・白/左側
第1次世界大戦中の1915年、ジョージ5世により創設された最も新しい連隊。同隊の結成は、ウェールズ国民の長年の念願だった。羽根飾りは白・緑・白の3段重ねになっている。

アイリッシュ・ガーズ
Irish Guards
襟章:シャムロック(北アイルランド国花)
帽子の羽根飾り:青/右側
1900年、ヴィクトリア女王が南アフリカでの戦いにおけるアイルランド兵部隊の武勲を讃えて創設。羽根飾りはシャムロックと同じ緑色にしたかったが、すでに別の部隊が使用していたために断念。

コールドストリーム・ガーズ
Coldstream Guards
襟章:バラ(イングランド国花・ガーター勲章の星)
制帽の羽根飾り:赤/右側
1650年、清教徒革命期に議会派のクロムウェル政権下で創設。スコットランドとの国境近くの町コールドストリームに駐屯していたが、王政復古後はチャールズ2世の護衛隊になった。
衛兵交替式 (Changing of The Guard)が開催されない日は… Captain's Inspectionを観よう!
月・水・金曜の午前11時から、バッキンガム宮殿前で行われる衛兵交替式。その交替式が開催されない火・木曜は、午後3時から「Captain's Inspection(将校検閲)」があるのをご存知だろうか?バッキンガム宮殿前で護衛中の近衛歩兵の交替式で、将校による「身だしなみチェック」が1名ずつ行われる。軍楽隊による演奏パフォーマンスもあり。
近衛騎兵隊/Household Cavalry
■ 近衛騎兵隊の本部であるホース・ガーズ・パレードは、以下の2連隊が交替で警護している。高い乗馬技術を誇り、オリンピック馬術競技のメダリストも多数輩出。王室メンバーの馬術指導は近衛騎兵隊の将校が行うため、王族との縁も深い。余談だが、ダイアナ元妃の不倫相手だったジェームズ・ヒューイット将校も、彼女の馬術指導を担当したことからロマンスに発展した。

ライフ・ガーズ
Life Guards
制服:赤
ヘルメットの房飾り:白
騎乗時には胸甲を着用。清教徒革命でヨーロッパへ亡命中のチャールズ2世の護衛騎馬隊として創設された。陸軍における「連隊序列第1位」の連隊としても知られる精鋭。

ブルーズ&ロイヤルズ
Blues and Royals
制服:紺
ヘルメットの房飾り:赤
騎乗時には胸甲を着用。1650年、清教徒革命期に議会派のクロムウェルが創設。王政復古後に結成された王党派の騎馬隊「ロイヤルズ」と1821年に新編成された「ブルーズ」が統合した。
ヴィクトリア女王激怒!100年間の懲罰4 o'clock Inspection

発端は1894年、同所を訪れたヴィクトリア女王が、居眠りや泥酔、賭博をする衛兵を見て激怒。その後100年間、真剣に職務に取り組んでいるかを毎日確認するよう命じたという。1994年に期限を迎えたが、エリザベス女王は無期限の継続を命じ、今日まで続いている。
騎馬砲兵隊/Royal Horse Artillery
■ 多数の馬で砲台を牽引する騎馬砲兵。陸軍に所属する王立騎馬砲兵隊の中でも、式典や衛兵任務を行ったり、エリザベス女王の葬儀といった国葬で、棺を乗せた砲台を引く独自の任務を担う国王中隊(King's Troop)がいる。


Trooping the Colourの楽しみ方ガイド

Q1 トゥルーピング・ザ・カラーってどんな式典?

トゥルーピング・ザ・カラーとは、軍旗掲揚パレードのこと。連隊の編成時に君主から与えられる軍旗(Colour)は各隊の誇りであり、戦場においては重要な「目印」でもあった。代々受け継がれたその軍旗を掲げながら国王の前を行進し、彼らの忠誠を示すのが、この式典の目的となる。近衛歩兵隊の全5連隊が隊列を組むが、毎年「主役」は変わり、軍旗を掲げる栄誉を得られるのは主役の連隊のみ。ちなみに、式典に参加するのは18~25歳の新兵が中心で、軍旗を掲げて先頭で行進するのは主役の連隊の最年少の将校となる(写真右)。
Q2 初めて開催されたのはいつ?
軍旗を奉呈する儀式は、王政復古で即位したチャールズ2世が「威厳」を示すため、自身の誕生日に祝賀パレードを企画したのが始まり。その後、1748年にジョージ2世が天候が比較的落ち着いている(晴天の確立が高い)6月の第2土曜を「君主の公式誕生日」と決め、1760年にジョージ3世がその公式誕生日にトゥルーピング・ザ・カラーを毎年開催することを定めた。
Q3 今年はどこの連隊が主役?
今年軍旗を掲げる歩兵連隊は、コールドストリーム・ガーズ。ベアスキンに赤い羽根飾りをつけた歩兵連隊が主役となる。
Q4 見学のベストスポットは?

軍楽隊や歩兵隊を間近で見たい人は、ウェリントン兵舎から出発し、ホース・ガーズ・パレードへ向かって行進する様子を眺められるバードケージ・ウォークがおすすめ。一方、騎馬隊をしっかり見たい人は、ハイドパーク兵舎から出発し、ウェリントンアーチを通り抜けて、コンスティテューション・ヒルを進んでいく道筋がベストだろう。だがやはり一番華やかなのは、全隊が合流し王室メンバーも馬車で通るザ・マル。7日(土)にはリハーサルが行われるので、それを見るのもいいかも。
王室メンバーのここに注目!
チャールズ国王は馬車 or 騎馬?

歴代君主は近衛師団の総司令官(Colonel-in-Chief)を務めるため、トゥルーピング・ザ・カラーでは軍服を身にまとうことが多い。エリザベス女王も何度か軍服を着用し、騎馬でパレードを行っている。チャールズ国王も2023年までは騎馬だったが、昨年は馬車。果たして今年は?
王室の主要メンバーは、各近衛連隊の名誉大佐!
代々の皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)はウェルシュ・ガーズの名誉大佐を務めるため、ウィリアム皇太子は2023年からウェルシュ・ガーズ連隊の軍服で参加(写真左)。エディンバラ公のエドワード王子はスコッツ・ガーズ、アン王女は騎馬兵のブルーズ&ロイヤルズの名誉大佐(写真右)。


当日のパレードルート
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週刊ジャーニー No.1396(2025年6月5日)掲載


















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