
■ どこまでも続く手つかずの牧草地に連なる古い石垣、草を食む白い体に黒い顔のスウェールデイル・シープ、一見穏やかな渓谷に隠れるように点在する奇怪な洞窟や豪快な滝、伝統的で可愛らしい村、そして豊かな文化遺産と新鮮なローカル・フード…。今回は、英国らしい魅力満載のヨークシャーデイルズ国立公園を征くことにしたい。
●征くシリーズ●取材・執筆/ネイサン弘子・本誌編集部
ノース・ヨークシャーからカンブリアにかけて連なるペナイン山脈。その中央にまたがるのが「ヨークシャーデイルズ国立公園(Yorkshire Dales National Park)」だ。その名の響きから英国人が想像するのは、緑色に染まった牧歌的な牧草地が広がる長閑な「イングランドの原風景」だという。だが残念ながら、隣接する湖水地方と比べると、旅先としてヨークシャーデイルズには何があるのか、広大な国立公園のどこを訪れたらいいのか、イマイチ知られていない。そこで今回は、縁あってヨークシャーデイルズに何度も足を運び、その魅力にすっかり魅せられた筆者が、具体的な見所をご紹介しよう。
「デイル(Dale)」とは「渓谷」を意味し、特にヨークシャーデイルズ付近の谷を指す。20以上の渓谷はそれぞれ独特の特徴があり、一度の旅行ではすべてをまわりきれない。緑地に点在する村々から出発するハイキング・コースを行くのが一般的で、小高い丘を登ったり、水遊びをしながら川沿いを散策したり、石灰石の荒々しい崖や洞窟に圧倒されたりと、多くの旅人がハイキングを最大の目的として同地を訪れる。
かつて鉛の採掘と羊毛産業で栄えたこの地には、鉛鉱山の跡地や農場の歴史的建造物(Traditional Farm Buildings)」に指定されている石造りの小屋が残されており、ハイキングの途中にそれらの跡地で休憩しつつ、羊を眺めながら当時の繁栄ぶりを想像してみるのもいいだろう。さらに太古の昔、浅い海の底であったというデイルズ一帯の川沿いの石には、虫や貝、魚やサンゴなどの化石を見つけることもできる。
そして、もう一つの大きな楽しみは美食。ハイキングで疲れたら、デイルズの大自然で育った家畜から作られる肉料理や乳製品を、ぜひパブやカフェで堪能してみてほしい。特に人気クレイアニメ「ウォレスとグルミット」の主人公の大好物であるウェンズリーデイル・チーズは外せない。
今回紹介した場所は、国立公園のごく一部。あてどなく車や自転車を走らせるだけでも、飽きることなく時間が過ぎ、素敵な場所に出会えるだろう。長きにわたるロックダウン疲れを癒すのに最適なヨークシャーデイルズ。今夏のステイケーション先として、同所で英国の魅力を再発見してみてはいかがだろうか?
ヨークシャーデイルズの歩き方
おすすめスポットを紹介!

❶ 大迫力の岩壁、ハリポタのロケ地にもなった奇怪な石畳 Malham Cove/マラム・コーヴ

1万2000年以上前の最終氷河期に形成された、石灰岩層の崖と石畳で知られる名所。そそり立つ岸壁は大迫力で、その上部は雨水で長年浸食された石畳が連なり、映画「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1」のロケ地にもなった(写真)。マラム村をスタート地点とし、マラム・コーヴ、切り裂かれた岩場から豪快に水がほとばしる滝「Gordale Scar」、妖精伝説がある滝 「Janet's Foss」を巡るハイキングがオススメ。
❷ 鉛鉱で栄えた、歴史情緒あふれるマーケット・タウン Grassington/グラシントン

立派なタウンホールや賑やかなマーケットなど、かつて鉛鉱山や鉄道で栄えた当時の繁栄の面影が残る町で、数々のドラマや映画のロケ地にもなっている。村を出発し、1時間程度でまわれるウォーキング・コースもオススメ。また19世紀の文豪ディケンズの時代、音楽&アート、1940年代がテーマの大規模なお祭りが年3回開催されている。
❸ コーヒー色のワーフ川岸に佇む、美しい修道院跡 Bolton Abbey/ボルトン・アビー

国立公園の南端に位置する人気の観光地。緑の中に建つ儚げなその姿は、どこを切り取っても絵になる。ここからワーフ川沿いを散策する「Welly Walk」や、ピート(泥炭)で染まったコーヒー色の滝が流れ落ちる「Valley of desolation」までのウォーキング・コースを歩いてみよう。
❹ 探検気分で洞窟巡り Ingleborough Cave/イングルボロー洞窟

公開されている洞窟としては英国最長の「White Scar Cave」のほか、「Ingleborough Cave」(写真)、「Stump Cross Caverns」がある。手つかずの自然の洞窟も数多くあるが、上記3ヵ所は歩道を整備して有料公開されており、安全に見学することができる。
❺ ターナーも描いた名滝 Ingleton/イングルトン

駐車場から出発し、4~5時間かけて複数の滝や丘を歩くトレイル。苔むす崖や小川に挟まれた幽谷、突然現れる滝など、変化に富んだ景色に疲れを癒される。中でも一番大きな滝「Thornton Force」(写真)は、1億7000万年以上前からの地層を観察できる貴重な場所。画家のウィリアム・ターナーも2度訪れ、スケッチを残している。
❻ 絵葉書のような村で味わう、美食とチーズ Hawes/ホウズ

可愛らしい「チョコレート・ボックスのような村」にはオシャレなカフェやアンティーク・ショップが軒を連ねるが、一番の見所はチーズ工場「Wensleydale Creamery」。ホロホロとした口当たりでクリーミーなウェンズリーデイル・チーズをぜひ!
❼ 子ども時代を思い出して川遊び Wain Wath Force/ウェイン・ワス・フォース

まるで自然の中に再現した人工プールのような「Wain Wath Force」(写真)、円形プールを思わせる「Stainforth Force」のほか、グラシントンから「Appletreewick」までのワーフ川一帯はワイルド・スイミングの人気スポット。
Travel Information
Yorkshire Dales National Park, North Yorkshire
www.yorkshiredales.org.uk
車:ロンドンからリーズまで約3時間半。リーズからデイルズ各所までは約1~2時間。国立公園の南端の町スキップトン(Skipton)は観光拠点にしやすく、スキップトンからグラシントン(②)またはボルトン・アビー(③)まで約15分、マラム(①)まで約30分。
公共交通:ロンドン(キングズ・クロス駅)からスキップトンまでリーズ経由の電車で約3時間10分~3時間半。スキップトンよりデイルズ各所へバスまたは電車あり(参考ウェブサイト:www.dalesbus.org)。
週刊ジャーニー No.1193(2021年6月17日)掲載

















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