
■ 第159話 ■ブラディメアリー、お気の毒
▶ブラディメアリーというカクテルがある。ウォッカとトマトジュースがメインの赤いヤツ。直訳すれば「血まみれメアリー」。メアリーはメアリー1世のことを指すと言われる。このカクテルのせいでメアリーには悪い女王様のイメージが定着してしまった。肖像画も眉間に皺寄せて怒っているようでコワい。でもそれじゃあまりに気の毒。だから筆者が少しだけメアリーのイメージ回復を試みちゃう。
▶父ヘンリー8世が男子の世継ぎ欲しさにメアリーの母親キャサリンとの婚姻を無効化した。ローマ教皇はヘンリーを破門。ヘンリーは国教会を創設し自らトップの座に就いた。母は宮廷から追放され、メアリーは王位継承順1位から庶民に転落。さらに父の愛人で2番目の妻アン・ブリンが産んだ腹違いの妹エリザベスの侍女とされた。ヘンリーとアンに「両親の婚姻は無効と認めろ」と理不尽に迫られたが断固拒否。国教会への改宗にも応じなかった。7世紀にキリスト教が伝わって以来イングランドはずっとカトリック国だった。ヘンリーが男の世継ぎ欲しさにキャサリン王妃を棄てたことに国民の反発も大きかった。キャサリンが死んだとき多くの国民が涙した。だって彼女こそが正統なイングランド王妃。えっと、ここまででメアリーに悪いとこ、ありますかね?
▶母親がカトリック守護国スペインの王女だったこともありメアリーもまた熱烈なカトリック信者だった。国教徒だった弟のエドワード6世が15歳で死ぬとようやくメアリーに出番が回って来た。悪い大人に騙されて突然女王の座を横取りした親戚の子ジェーン・グレイを9日間で打倒するとメアリー1世として即位した。その後、悪い大人は処刑された。ジェーン夫妻にも死刑判決が下ったがまだ十代だし、親戚だし、ということでメアリーは2人の死刑を執行しなかった。いい人じゃ~ん。
▶メアリーはイングランドのカトリック回帰を目指した。さらに後にスペイン王となるフェリペ2世との婚約を発表。「それじゃスペインの属国になっちゃうじゃん」と危惧した勢力が妹エリザベスを女王にすべく反乱を起こした。すぐに鎮圧されたがメアリーは「国教徒、なんかヤベェ」と軌道修正。仕方なくジェーン夫妻も処刑。その後、国教徒たちを捕らえては300人ほどを火あぶりにした。わずかこの数行のためにメアリーは「血まみれメアリー」と呼ばれるようになった。もっと「血まみれ」な悪い奴、世の中に山ほどいるのに~。
▶メアリー1世は38歳で結婚した。相手は11歳下のフェリペ2世。メアリーは処女だった。若くてイケメンのフェリペにのめり込んだが、フェリペはメアリーに興味なし。イングランドに寄り付かなかった。世継ぎが欲しいメアリー。愛しいあなたはいない。思いが強過ぎて想像妊娠までした。即位から5年、メアリーは子を成さず卵巣腫瘍で死んだ。大嫌いだった妹エリザベスを渋々後継者に指名したのは死の前日。そして女王となったエリザベスは結婚せず、チューダー朝消滅。ヘンリー8世の姉マーガレットが嫁いでいたスコットランドのスチュアート朝に引き継がれていく。即位までは立ちはだかる困難と闘う反骨の女闘士。即位後は世継ぎ残しに焦るヒステリックで意地悪なオバアになっちゃった印象のメアリー。いつの時代も王室は世継ぎ、スペア問題でスッタモンダの繰り返し。ハリー王子夫妻が置かれた立場なんか全然いい方だぜってなこって次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。
週刊ジャーニー No.1281(2023年3月9日)掲載
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