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■ 第68話 ■全英を襲う日本の茎

▼5月5日付のデイリーメール紙(電子版)にまた、心ざわつく単語が躍った。Japanese knotweed。テレビのニュース番組でも突然キャスターが「今年はこのエリアでジャパニーズ・ノットウィードが繁殖中。要注意」なんて言うもんだからまた日本で何か事件でもあったのかと恐るおそる画面を見ると、そこには雑草と困り顔の人が映っているだけ。デイリーメールの記事はこの春、このジャパニーズ・ノットウィードが大繁殖している地域を紹介する注意喚起の記事だった。で、なんだ? このジャパニーズ・ノットウィードってのは?

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▼ジャパニーズ・ノットウィードとはタデ科の多年草植物だ。山や野原、土手など日当たりの良い所でワサワサ育ち、春にかけて若芽をつけ、夏から秋にかけて白い花を咲かせて花粉を拡散する。東アジアが原産とされ、日本では北海道から奄美大島まで広く生い茂っている。日本名は「イタドリ」。若葉を揉んで傷口につけると「痛みが取れる」が語源になっているらしく、古くから漢方薬として使われていた。春先の新芽はアスパラのようにスクッと育ち、地方によっては「スカンポ」「イタズリ」と呼ばれ山菜の一種として食されている。炒め物にもいいらしい。また、月経不順や便秘の薬としても使われるという。中国では「虎杖」と表記される。これは軽くて丈夫なイタドリの茎が杖として使われたためで、茎の節が虎の模様に見えるところからその名がついたと言われる。なんだ、有益な植物じゃないか。ところがこのイタドリ、国際自然保護連合が「世界の侵略的外来最悪種100選」に指定する雑草で、英国で最も嫌われている植物だ。

▼イタドリの何がヤバいのか。まずはその繁殖力にある。イタドリは春になると赤いアスパラ状の新芽を出す。5月から7月にかけて急速成長し1日に10センチ以上背丈が伸び、最終的には地上3メートルほどに成長する。夏に可憐な白い花を咲かせて繁殖活動に勤しむ。問題は根でも葉でも花でもない。地下茎(ちかけい)だ。この地下茎は地面下3メートルほどまで元気よく伸び、冬に地上部分が枯れても生き延びて越冬し、春になると再び新芽を出す。しかも強靭でコンクリートやモルタル、レンガの中に入り込んで破壊。排水溝を塞いで家屋に深刻な被害をもたらす。

英国で最も嫌われているジャパニーズ・ノットウィードですが、何か?

▼英国では自宅や近所の庭などにイタドリがあると不動産価値が10%以上下落すると言われ、英国全体で200億ポンドの不動産価値が損なわれていると言われる。近隣にイタドリがあることを事前に報告せずに家を売却した場合、記載義務違反で買い主に訴えられた上に不動産価値の補償をさせられることもある。通常の除草剤は効かず、地面を深く掘り返して地下茎に強力な薬品を直接注入するなど、素人では対処できないレベル。そのため英国には白アリ並みにイタドリ駆除を専門とする業者がいくつも存在する。2018年にスウォンジー大学が様々な方法を用いてイタドリの繁殖を制御しようと試みたが、辿り着いたのは「制御不能」という答えだったという。2015年、英政府はイタドリ撲滅のために15億ポンド(約2250億円)の予算を投じる決定をした。

▼一体なぜイタドリが英国ではジャパニーズ・ノットウィードと呼ばれるようになったのか。なぜ日本ではこのイタドリによる被害がほとんど報告されていないのか。そして遂に英国をイタドリ地獄から救うかもしれない救世主が登場するのだが、それもまた日本発のアレらしい。と、勿体つけたところで次週に続くぜ。

週刊ジャーニー No.1188(2021年5月13日)掲載

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