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◆◆◆《第932回》◆◆◆
潜入取材

九月三日の夜、私はチャンネル4のニュースを見て驚いた。右翼政党、リフォームUKに対する潜入取材を詳細に放送していたからである。潜入というからにはむろん秘密に撮影されたものだ。潜入したのはイギリスのジャーナリストの組織「気候変動報道センター」が設立した「ヴァーベイティム」という調査報道機関である。一方、リフォームUKの窓口になったのはファラージ党首の側近、ダン・ジュークス氏だった。
「ヴァーベイティム」のジャーナリストはアメリカの富豪の息子(イギリス在住という設定)に扮し、「父親がアメリカから送金して来る五十万ポンドをリフォームUKに献金したい」と持ちかけた。イギリスの法律では外国人からの献金は禁じられているが、ジュークス氏は「イギリスを拠点にしている息子からの献金ということにすれば問題ない」と応じ、「これまでもそのような処理をしている」と説明した。
富豪の親子を本物と信じ込んだジュークス氏はファラージ党首との会食の場を設けた。「アメリカにいる父親がイギリスにいる息子に送金し、それを献金する」という言う親子(俳優とジャーナリストが扮している)に対し、ファラージ氏は上機嫌で「お二人とも有難う」と感謝の言葉を述べた。秘密裏に撮影されたその場面もテレビで放映された。
潜入取材では別の問題も生じた。リフォームUKの政策担当者、ジェイムス・オア氏が富豪の息子に扮したジャーナリストに、「調査会社に世論調査を委託する資金の提供者が必要だ」と告げ、協力を依頼した。世論調査はJLパートナーズという調査会社に委託され、その費用の三万二千五百ポンドはアメリカの富豪の父親(偽物だが)が支払った。
三度にわたる世論調査の内容はメディアでも報道されたが、JLパートナーズは費用の負担者を敢えて秘密にした。同社は現在、透明性に関する規則に違反した疑いで業界団体の調査を受けている。
一連の覆面取材の内容をチャンネル4が放送したのは、「ヴァーベイティム」の潜入取材を正当なものと判断したからだ。しかもチャンネル4は、リフォームUKの党大会が開催される二日前にこのニュースを流した。同党を慌てさせる意図があったことは間違いない。

実際、この潜入取材の内容が公になったことはリフォームUKにとって痛手だった。放送のあった翌日(党大会の前日)、リフォームUKは潜入取材に騙されたダン・ジュークス氏とジェイムス・オア氏の役職を停止した。両氏とも党内で実権を振るう上級幹部だが、違法性を疑われる対応をテレビで放送されては言い訳も出来ない。
それでなくてもリフォームUKは今、過去の献金に関して窮地に立っている。ファラージ党首が二〇二四年初めにタイ在住の暗号資産を運用する富豪、クリストファー・ハーボン氏から受け取った五百万ポンドを国会に申告していなかったのだ。ファラージ氏は同年七月の総選挙で下院議員になった。議会の規則は選挙直前の一年間に得た全ての資金源を明らかにするように求めている。
ファラージ氏は「受け取った五百万ポンドは政治資金ではなく、個人的な贈り物だった」と釈明しているが、議会の規範担当監察官は調査を開始することを決定した。ファラージ氏は一旦下院議員を辞任した後、同じ選挙区の補選に立候補して当選し、「選挙区の有権者は私が間違っていないという判断を下した」と強弁したが、そうした猿芝居に何の意味もない。彼が議員であり続ける限り、献金の内容は追及される。
ファラージ氏はアメリカのトランプ大統領同様、暗号資産の普及と地位向上を後押ししている。当然、暗号資産長者とも親密な関係にある。リフォームUKは今年の第一四半期、彼らから九百万ドルの献金を受けた。その内の四百万ドルは件のハーボン氏からで、五百万ドルは香港在住の暗号資産企業家、ベン・デロ氏からだった。デロ氏は二〇二二年にアメリカの銀行秘密法違反で有罪になったが昨年、トランプ大統領から恩赦を受けた人物である。
チャンネル4が放送した潜入取材の内容は、違法性が疑われるリフォームUKの資金の集め方を白日のもとに晒した。一時は二大政党を上回っていた同党の支持率にも陰りが見え、最近はバーナム首相が率いる労働党と同水準になった。
ファラージ氏が献金にまつわる疑惑を払拭して政権奪取に突き進むのか、それともバーナム首相が労働党の失地回復に成功するのか。今後の動向に注目したい。

週刊ジャーニー No.1462(2026年9月17日)掲載

くろだいぬひこ
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。
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