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■ 第69話 ■日本の虫よ、英国を救え

▼コンクリートやレンガなどの建材を破壊し、英国で社会問題化しているジャパニーズ・ノットウィードJapanese knotweed。日本ではイタドリと呼ばれるタデ科の植物がなぜ英国ではジャパニーズ・ノットウィードと呼ばれるようになったのか。それはイタドリが1880頃に日本から持ち込まれたからだ(1840年頃とする説もある)。日本からイタドリをヨーロッパに持ち込んだのはかの有名な医師、シーボルトだ。フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796-1866)。ドイツ人だったがうまいことやって出島のオランダ商館付き医師となり、1823年に日本に潜り込んだ。医療活動等を行いながら動植物のサンプルを蒐集した。伊能忠敬が完成させた日本地図を海外に持ち出そうとしてバレ、国外追放となった。スパイだったとする説もある。日本が開国すると許されて日本に戻り、再び動植物のサンプルをヨーロッパに持ち帰った。その中に可憐な白い花を咲かせるイタドリが含まれていた。イタドリはヨーロッパでも観賞用として人気を博し拡散した。ビクトリア朝の英国は世界中で悪事を働いている最中だった。プラントハンターと呼ばれる人たちが世界各地に赴き、植物サンプルを英国に持ち帰り育成が試された。その受け入れ先がキュー・ガーデンだった。そんな中、シーボルトが英国にイタドリを持ち込んだと言われている。英国でもイタドリは人気となり、たちまち全土に拡散してやがて帰化植物となった。英国はわざわざこの厄介者を自国に招じ入れた。コロナ集団免疫の失敗と似ている。

▼イタドリを単純に厄介者とするのはイタドリに気の毒だ。なぜならイタドリは日本では貴重な食材であり、便秘や生理不順に効果を発揮する漢方薬でもある。英国で見られる建造物を破壊するような被害の報告はほぼ聞かない。一体なぜか。天敵(natural enemy)の存在だ。日本にはイタドリマダラキジラミ(Aphalara itadori)というカメムシ目キジラミ科の昆虫がいて、イタドリの汁を吸い尽くして枯らす。無敵に思えるイタドリだが、体長わずか2ミリの昆虫になす術なく骨の髄までしゃぶられる。シーボルトはイタドリとキジラミをセットで持ち帰るべきだった。

シーボルトですが、何か? とりあえず、ごめんね。

▼日英の専門家が共同でこのイタドリマダラキジラミの生態の研究をした。そこでこの昆虫がイタドリ以外の植物を食べないこと、従って他の植物の生態系を破壊しないこと、さらに1年のうちに何度か世代交代をし、幼虫か成虫の状態で越冬する様子を確認した。英国はこのイタドリマダラキジラミを導入し、140年前に先行来英して英国を困らせているイタドリの子孫たちと対決させる。2016年夏には南ウェールズで数千のキジラミが野に放たれ、検証が始まっている。

▼今すぐ英国全土でやりゃいいじゃんと思う人もいるだろう。しかしこのキジラミが日本同様、他の植物を食い散らかさないか事前に調査する必要がある。さらには英国全土での闘いに挑むため、彼らを爆発的に増やす必要がある。19世紀末、日本から持ち込まれた可憐なイタドリが英国では怪物となった。21世紀になり、今度はその怪物を退治するために全長2ミリの小さな戦士たちが遥か日本から運び込まれた。近い将来、我々は「ジャパニーズ・ノットウィード根絶」のニュースに触れるかもしれない。楽しみだ。しかし戦いに勝利して食うもんがなくなったら、大量のイタドリマダラキジラミはどうなるんだ? 妄想するとちょっとコワイ。怖いから考えるのやめて次週に続くぜ。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1189(2021年5月20日)掲載

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