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■ 第26話 ■大英博物館の大スキャンダル

▼ドイツ人美術史家ヨハン・ヴィンケルマンはその著書でギリシャ文明を「アフリカやアジアの影響を受けず、偉大なギリシャ人によって成し遂げられた純粋で高度な白い文明」と絶賛した。大嘘だ。しかし世界で優位に立つための歴史的根拠を探していたヨーロッパは、嘘と知りつつこの虚言に飛びついた。さらにヴィクトリア女王が結婚式で着た白いドレスは「純粋で汚れのない色」としてヨーロッパで大人気となった。1840年のことだ。同年、イギリスは清国相手に「義なき戦争」を始めた。悪名高きアヘン戦争だ。イギリスは純粋で汚れなき白どころか諸外国を力でねじ伏せ、富をチューチュー吸い上げる真っ黒な帝国だった。にもかかわらずヨーロッパは「白人が独自に辿り着いた偉大な白い文明の地」みたいなことにしちゃった。少なくともヨーロッパ人の間では。

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▼大英博物館内に「エルギン・マーブル」と名付けられた大理石の彫刻群が展示される一室がある。これは駐トルコ大使だったスコットランド出身の貴族、エルギン伯トーマス・ブルースが19世紀初めにギリシャのパルテノン神殿から強引に引き剥がして持ち帰ったものだ。当時のギリシャはオスマン帝国の支配下にあった。イスラム教オスマンは神殿に興味を示さず火薬庫として使っていた。その後、ヴェネチア共和国が攻撃、神殿は爆破され炎上した。エルギン伯が目にしたのは破壊・放置された無残なパルテノン神殿だった。「ヨーロッパ文明発祥地ギリシャの歴史的遺産がさらに荒廃することを危惧し、時の支配者トルコの許可を得た上でイギリスに緊急避難させた」というのがエルギン伯の言い分だ。パルテノンの彫刻群はイギリスで人気を博したが、識者たちから「略奪だ」と激しい非難を受けた。1816年、エルギン伯は彫刻群を英政府に寄贈、その後、大英博物館に収蔵された。さんざん非難してエルギン伯から巻き上げたけどギリシャには返さない。それがイギリスだ。

▼1938年、大英博物館地下の一室でとんでもないことが起こっていた。付着した汚れの他、爆破・炎上によってついた煤(すす)、そして残っていた色の痕跡を削り落とす作業が黙々と行われたのである。「ヨーロッパ文明は白でなきゃ」という概念にとらわれた剛腕美術商ジョゼフ・デュヴィーン卿の指示だった。初めは石鹸とブラシだけが用いられたが、卿は「白さが足りない。もっと白く」と檄を飛ばした。次に銅製のヘラやワイヤーブラシなどが用いられ、ついにオリジナルの顔料は他の汚れ共々永久に削り取られた。作業は芸術員やスタッフが知らない所で密かに進められていたがやがて発覚。この出来事は「大英博物館クリーニング(洗浄)スキャンダル」として大々的に報じられることとなる。

▼白人とは白っぽい肌を持つ有色人種だ。従って非白人だけを「有色人種」と呼ぶのは明らかな誤りだ。そして「ヨーロッパはギリシャ発祥の白い文明だ」という主張は全くのでっち上げで捏造だ。これらの点からも白人が非白人を差別して良い根拠はどこにもないし、あるはずもない。なのに差別は一向になくならない。世の中は真に不条理だ。熱くなったまま次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1146(2020年7月16日)掲載

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