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■ 第1話 ■
イギリス料理がまずいだと?-その1-

▼イギリス料理はまずい、と言う人がいる。沢山いる。メッチャいる。「そんなことはない」と擁護しようもんなら(ああこの人、イギリス生活が長くなり過ぎて舌がバカになっちゃったんだな)と気の毒がられるだけなので止めている。イギリスの料理が和食や中華、スペイン料理並みにウマいと絶賛している訳ではない。人様の食べものを「まずい」と断じるのは尊大過ぎる行為だと気づいただけだ。

▼気づきとの出会いは発酵と腐敗の違いについて調べていた時のことだ。発酵も腐敗も微生物の働きによって別の物質に変化するという点では全く同質のものだ。ただし発酵は人間にとって有益なものへ、腐敗は人間にとって不都合な物質に変化する。大切なのは「人間にとって」という部分だ。人間にとって不利益をもたらす腐敗だが、その状態を好む生き物もいる。身近な例はハエだ。ハエは生ごみや動物の糞などに産卵する。卵はたちまちふ化してウジとなる。ウジはこの異臭を放つ食べ物や糞、動物の死体など、栄養をたっぷり含んだご馳走をモリモリ食べて立派なハエに成長していく。「腐ったモンやクソ食って、ハエって何が楽しくて生きてんだ?」と思うのはあまりにも不遜であり、種を未来に繋ごうと懸命に活動しているハエたちに失礼だ。ささ、今すぐに一緒に謝ろう。ごめんね。

▼中東やアフリカ、旧東ヨーロッパ諸国などを旅していて、飲み込むのに苦労する食べ物と出会ったことが何度もある。その時確かに「まずい」と思った。しかし、現地の方々はそれをうまいうまいと食べている。であればそれはまずいのではなく、私の口に合わなかっただけだ。一瞬でも「まずい」と思った私は素直に当該諸国に謝罪する。ごめんね。

Roast Beef

▼それと同じで「イギリス料理はまずい」というのも主観でしかない。現にイギリス人は嬉々としてイギリス料理を食べている。彼らが海外に行けば恋しくなるのは当然、ふるさとイギリスの味だ。彼らは朝食時、かりかりベーコンやトーストが焼ける香りに心躍らせる。しかしアジの開きが焼かれた匂いやぬか漬けの香りには意気消沈するかもしれない。「まずい」とは相手の気候風土や歴史的背景、そしてそこで独自に育まれた食文化を無視した極めて失礼な評価だ。事前にインプットされた情報が少ないから脳が混乱しているだけだ。食べ物に文句を言う前に自分の脳の処理能力を呪うべきである。

▼私はここ数年、石を投げればグルメ大国フランスに届きそうなイギリスでありながらイギリス料理がなぜこんなことになっちまったのかに興味を持ち、少しずつテキトーに鼻をほじりながら調べてきた。ただ、掘り下げてみたらみたで実に奥深い事実が際限なく湧き出て来る。イギリス料理が今のカタチになるにはしっかりした理由がある。今後、気分が乗った時だけ皆さんにその眉唾仮説をグダグダお届けしようと思う。プレッシャーに弱いタイプなので待たないで欲しい。

週刊ジャーニー No.1121(2020年1月23日)掲載

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