クリスマスの定番バレエ  くるみ割り人形でフェスティブ気分に!

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

■ クリスマスのワクワク感がいっぱい詰まった、冬の定番バレエ「くるみ割り人形(The Nutcracker)」。バレエやクラシック音楽にあまり詳しくなくても、ステージを観ているだけでフェスティブ気分が盛り上がる、子どもも楽しめる華やかで賑やかな作品だ。今年も残すところ、あと1ヵ月。「くるみ割り人形」を観て、2025年をハッピーな気持ちで締めくくろう!

 

街中のウィンドー・ディスプレイやクリスマス・ツリーの飾り、クリスマス・カードのイラストなど、クリスマス・シーズンになると登場する「くるみ割り人形」。物語は、魔術師のドロッセルマイヤーが開発した「ネズミ捕り」によって、次々と仲間が捕らえられていくことに激怒したネズミの女王が、彼の甥(ハンス・ピーター)をくるみ割り人形に変身させてしまう場面からスタート。ハンス・ピーターが人間に戻るためには、人形に変えられた彼を深く愛してくれる少女が必要…。ドロッセルマイヤーは招待されたクリスマス・パーティーで、その家の少女クララにくるみ割り人形を贈る――という、まるで「美女と野獣」のようなストーリーになっている。

深夜、ドロッセルマイヤーによって魔法の世界に導かれたクララは、ネズミの王とおもちゃの兵隊たちの戦いに遭遇。クララの手助けによって兵隊たちが勝つと、参戦していたくるみ割り人形の魔法が解けて、ハンス・ピーターが現れる。2人は手を取り合い、雪の国やお菓子の国を仲良く旅していく(英ロイヤル・バレエ団によるピーター・ライト版/演出によって物語は若干異なる)。

 「くるみ割り人形」は、名作「三銃士」「モンテ・クリスト伯」などで知られるフランスの作家アレクサンドル・デュマが、1844年にドイツの童話をもとに翻訳・再編成した物語だ。ロシアの作曲家チャイコフスキーが曲を創作し、1892年12月にバレエ作品としてサンクト・ペテルブルクで初演。しかし、ステージに出ずっぱりのクララは子どもが演じ、主演のバレリーナ(金平糖の精)は第2幕まで登場しないという「異例」の演出は、大衆受けしなかった。

失敗作となった「くるみ割り人形」の全幕がロシア以外で初上演されたのは、1934年の英国。ロンドンでは一転して大成功を収め、その後、様々な演出家によるバージョンが誕生しながらも、「『くるみ割り人形』を観なければクリスマスが来ない」と言われるまでに英国に馴染んでいった。

現実と夢の世界、現在と未来を温かく繋ぎ、優しい余韻を残して終わる「くるみ割り人形」は、「白鳥の湖」「眠れる森の美女」と共にチャイコフスキー作曲の「3大バレエ」と呼ばれている。クリスマスの夢と魔法が詰まったファンタジックな舞台を、ぜひ今年は楽しんでいただきたい。

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そもそも「くるみ割り人形」って何?

ドイツの童話が原作であることからわかるように、くるみ割り人形はドイツの伝統的な工芸品。ドイツとチェコの国境近くのエルツ山地にある村が発祥地とされており、硬いくるみの殻を割るために使う木製の直立型人形である。あごを開閉させてくるみを噛ませ、背中のレバーを押し下げて割る仕組みになっているものが多い。国王や兵士を模した人形が主流なのは、庶民が「歯が立たない」相手に困難なくるみ割りの労働を代行させ、密かに鬱憤を晴らしていたからだとか。

ちなみにドイツでは、くるみ割り人形は家族と家に幸運と守護をもたらすと言われている。

主な登場人物は?

クララ:主人公の少女
フリッツ:クララの弟
ドロッセルマイヤー:魔術師のおじさん
くるみ割り人形 :変身させられたドロッセルマイヤーの甥(ハンス・ピーター)
ネズミの王:ネズミたちのボス
金平糖の精:お菓子の国の女王
王子:お菓子の国の王子

ねずみと兵隊、なぜ戦うの?

クリスマス・パーティーが終わった日の深夜、大挙して押し寄せた「残りもの」を狙う、ネズミの王が率いるネズミ軍団。家を守ろうと、おもちゃの兵隊たちが必死に迎え撃つ中、くるみ割り人形も兵隊側で参戦する。ところが劣勢であるのを目撃したクララは、「あるもの」を投げてネズミたちの気を引き、その隙にくるみ割り人形が戦いを勝利に導いた。

さて、クララが投げた「あるもの」とは? ぜひ劇場で確認しよう!

©KCBalletMedia

「金平糖の精」は誤訳⁉

「くるみ割り人形」に出てくる、お菓子の国の女王「金平糖の精」。実は、この演目の主役はクララではなく金平糖の精で、クララは活躍が期待される若手バレリーナ、金平糖の精は主演の人気バレリーナが演じるのが一般的。

日本では「金平糖の精」と呼ばれているが、原作のフランス語では「La Fée Dragée(ドラジェの精)」。ドラジェは砂糖でコーティングされたアーモンド(写真)で、フランスでは結婚などのお祝いで贈られるもの。日本にないお菓子なので、翻訳者が「金平糖」に変えたと思われる。ちなみに、英国では「Sugar Plum Fairy(シュガープラムの精)」と呼ばれている。

チャイコフスキーは不満足だった?

1890年に初演したバレエ「眠れる森の美女」が大好評だったチャイコフスキーは、劇場支配人から次回作として「くるみ割り人形」の作曲を依頼された。しかし、チャイコフスキーはこの物語をあまり気に入っておらず、渋々ながら承諾。そんな気持ちで取り組んだせいか作曲は難航し、さらにバレエの振付師からも「厳しい制限」を与えられたため、作曲を楽しむことができなかったという。結局、1892年の初演は散々な評価で、人生でもっとも最悪な出来の作品と位置づけている。

チャイコフスキーは翌1893年、53歳でコレラにて病死しており、彼にとって「くるみ割り人形」は失敗作のまま終わってしまった。

「金平糖の精」とクララのモデルって?

© Gabriel Saldana
 6人きょうだいだったチャイコフスキーは、2歳下の妹アレグザンドラと特に仲が良く、彼女が結婚してウクライナに移住しても、彼女のもとを度々訪れていた。ところが「くるみ割り人形」の作曲中に、その最愛の妹が死去。彼の中に思い浮かんだのは、幼い頃に家族で過ごした幸せなクリスマス。プレゼントをもらって喜ぶ幼い妹と、元気な母親の姿だったに違いない(母親はチャイコフスキーが14歳のときにコレラで亡くなっている)。

クララは幼い妹、そしてクララが尊敬し憧れる金平糖の精は大人になった妹をモデルにしていると伝えられている。


くるみ割り人形
2025年の公演情報 in LONDON

Royal Ballet and Opera
The Nutcracker

昨年のクリスマス・シーズンは、「シンデレラ」を上演したロイヤル・バレエ団。2年ぶりの「くるみ割り人形」は、残念ながらほぼ全日ソールドアウト。劇場で鑑賞するには、リターンチケットを狙うしかない。映画館でライブ映像を楽しめる「Live in Cinema」もおすすめ。

2026年1月5日まで
Bow Street, London WC2E 9DD 
【最寄り駅】Covent Garden
www.rbo.org.uk

London Coliseum
Nutcracker
© Photography by ASH

イングリッシュ・ナショナル・バレエ団による、毎年恒例の「くるみ割り人形」。ロイヤル・バレエ団とは少しストーリーが異なり、ドロッセルマイヤーのスイーツショップで買い物をするところから、物語は始まる。見比べてみるのもいいかも。

12月11日~2026年1月11日
St Martin's Lane, London WC2N 4ES 
【最寄り駅】Charing Cross / Leicester Square
https://londoncoliseum.org

Royal Albert Hall
The Nutcracker

バーミンガム・ロイヤル・バレエ団による、毎年恒例のロイヤル・アルバート・ホール特別公演。ロイヤル・アルバート・ホールだから楽しめる豪華な演出には、圧倒されること間違いなし。

12月29日~31日
Kensington Gore, London SW7 2AP 
【最寄り駅】South Kensington
www.royalalberthall.com

St. Martin's Theatre
The Nutcracker

世界最長のロングラン記録を更新中の舞台「マウストラップ」が上演されているセント・マーティンズ劇場で、クリスマス・シーズンだけ現代版「くるみ割り人形」を上演。今年度のローレンス・オリヴィエ賞にもノミネートされている。

12月10日~2026年1月4日
West Street, London WC2H 9NZ 
【最寄り駅】Covent Garden / Leicester Square
https://stmartinstheatre.co.uk

JEMCA
Kyo Service
J Moriyama
ジャパンサービス
らいすワインショップ
Atelier Theory
奈美デンタルクリニック
Toptour
 

週刊ジャーニー No.1421(2025年11月27日)掲載