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●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部
■ 幽霊が出る家や建物は、それだけ歴史や故人の思い入れがあるとされて価値が上がるなど、むしろ好まれる傾向がある英国。まもなくハロウィンを迎える今号では、ウエストエンドの劇場に潜む幽霊たちを紹介する。
灰色の男 The Man in Grey Theatre Royal Drury Lane / 【出現場所】3階席の4列目付近
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1663年にオープンしたコベントガーデンにあるドゥルリーレーン劇場は、移転せずに同じ場所で上演を続けている劇場としては英国最古。そのため、王族のロマンスやスキャンダル、火事、殺人に至るまで様々な歴史が刻まれており、500以上もの幽霊が棲んでいるという。
なかでも最も有名なのが、1797年に最初の目撃証言が残されている「灰色のコートを着た男」。気に入った演目のマチネ(昼)公演にだけ姿を見せ、グランドサークル(3階席)の4列目付近を横切って、向かいの壁の中へと消えていく。実は19世紀の改装工事の際に、その壁の裏側に謎の「隠し小部屋」があるのが発見されている。小部屋内には肋骨にナイフが刺さったままの遺骨が、灰色のぼろ布で包まれた状態で隠されており、この殺害されたと思われる人物が幽霊の正体だろう。演劇好きだったのか、「灰色の男」が現れた演目は成功するのだとか。
ほかにも、粗相した衣装の「臭い消し」に大量のラベンダーオイルを使っていた俳優の幽霊がラベンダーの香りを充満させたり、埋葬時に首を切り離すことを希望したパントマイムのピエロ役者の生首が、演技が下手な俳優の前に現れたりするという。
ハーバート・ビアボーム・ツリー Herbert Beerbohm Tree His Majesty’s Theatre / 【出現場所】ステージ右手ボックス席
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人気ミュージカル「オペラ座の怪人」の40年近いロングラン公演場所として知られる、ヒズ・マジェスティ劇場。ここには演目通り、ロンドン版の「怪人」が棲んでいる。その正体は、俳優で同劇場のマネージャーも務めていたハーバート・ビアボーム・ツリー氏(1852~1917)=写真。ステージから見て右手のボックス席から、しばしば公演を観ているという。ボックス席の温度が急に下がり、専用ドアが勝手に開いたり閉じたりし出したら、彼が現れた合図だ。
ただ、パリ・オペラ座にある「怪人専用ボックス席」もステージ右手の同じ位置にあるので、「やらせ?」と真偽を少々疑ってしまうが、ツリー氏の幽霊の目撃証言は「オペラ座の怪人」初演前の1970年代から寄せられていたそうだ。
Haymarket, London SW1Y 4QL
最寄り駅:Piccadilly Circus / Charing Cross
https://lwtheatres.co.uk
ウィリアム・テリス William Terriss Adelphi Theatre / 【出現場所】楽屋や楽屋口周辺
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1806年に開業したストランド沿いに建つアデルフィ劇場に現れるのは、ヴィクトリア朝時代に数々のシェイクスピア劇で人気を博した、正統派のイケメン俳優のウィリアム・テリス氏(1847~97)。彼はクリスマスが迫った12月16日夜、主演していた公演「シークレット・サービス」のために、劇場裏の楽屋口(ステージドア)=写真=から建物内へ入ろうとしたところ、待ち伏せしていた俳優仲間のリチャード・アーチャー・プリンスに刺された。脇役しか得られずにくすぶっていたプリンス氏はアルコール依存症がひどく、テリス氏によって舞台を下ろされ、無職となっており、数日前には2人が口論する姿が目撃されていた。
テリス氏は、共演していた14歳下の女優(愛人だった)の腕に抱かれながら息を引き取ったが、最期の瞬間に「私は戻ってくる(I shall come back.)」とつぶやいたという。それ以降、彼が楽屋口を入っていく姿を見かけるほか、楽屋のドアがノックされたり、劇場内で奇妙な出来事が頻発したりするとのことだ。
410 Strand, London WC2R 0NS
最寄り駅:Covent Garden / Charing Cross
https://lwtheatres.co.uk
エレノア・クーパー Eleanor Cooper Dominion Theatre / 【出現場所】客席
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トッテナム・コート・ロード駅近くのドミニオン劇場がある場所は、かつて有名なビール醸造地帯で、大きな醸造所が建っていた。1814年のある日、醸造所に置いてあった3550ものビール樽が、なぜか一斉に破裂。建物はビールの大波によってあっという間に倒壊し、逃げ遅れた従業員8人が死亡する大事故が起きた。犠牲者のうちの1人、まだ14歳の少女だったエレノア・クーパー嬢は、倒れてきた壁につぶされてビールで溺死していた。
その醸造所跡地に建設された同劇場では、クーパー嬢だと思われる少女の笑い声が聴こえたという噂が続出。とくに客席で演劇を見ているときに、耳元でクスクス笑う声がするという。
268-269 Tottenham Court Rd, London W1T 7AQ
最寄り駅:Tottenham Court Road
https://nederlander.co.uk/dominion
ジョン・ボールドウィン・バックストーン John Baldwin Buckstone Theatre Royal Haymarket / 【出現場所】劇場内各所
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ヒズ・マジェスティ劇場の向かいに建つ、ヘイマーケット劇場。ここに現れるのは、俳優で同劇場のマネージャーも務めたジョン・ボールドウィン・バックストーン氏(1802~ 79)=写真。作家のチャールズ・ディケンズの友人でもあった彼は、ヘイマーケット劇場で上演される何百ものステージの脚本や演出を手掛け、演劇と劇場を深く愛していたという。
ベージュ色のコートにツイル地のズボンを身にまとったバックストーン氏の姿は、劇場内のあちこちで多くの俳優や劇場スタッフが目にしており、吹き抜けの階段やロイヤル・ボックス席などによく現れる。だが、彼は非常に「友好的」な幽霊として知られているので、見かけてもまったく恐怖を感じないという。ジュディ・デンチやパトリック・スチュワートら、名立たる名優たちも目撃したことを語っている。
Haymarket, London SW1Y 4HT
最寄り駅:Piccadilly Circus / Charing Cross
https://trh.co.uk
ヴァイオレット・メルノッテ Violet Melnotte Duke of York’s Theatre / 【出現場所】客席
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1892年にオープンしたデューク・オブ・ヨーク劇場に現れるのは、女優で同劇場オーナーでもあったヴァイオレット・メルノッテ夫人(1855~1935)=写真。彼女は上演初日に観客に混ざり、公演を鑑賞しているという。
これだけならよくある幽霊話なのだが、この劇場で最も有名な怪談は「呪われたジャケット」。1940年代に上演された「The Queen Came By」に出演した女優が、着用したボレロ・スタイルのジャケットが身体をぎゅうぎゅうに締めつけ、演技中に絞め殺されそうになったと訴えた。「気のせいだ」と周囲は取り合わなかったが、ジャケットを着た女優全員が同じことを言うため、降霊会を開いた結果、このジャケットはかつて溺死した女性が身に着けていたものであったことが判明した。
104 St Martin's Ln, London WC2N 4BG
最寄り駅:Leicester Square / Charing Cross
www.thedukeofyorks.com
「幽霊」よりも「人間」の方が怖い! 連続殺人犯のエキシビション
Serial Killer: The Exhibition
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「Most Controversial Exhbition」として今話題になっている、世界の猟奇的な連続殺人犯たちを取り上げたエキシビションが、ウォータールー駅のグラフィティで覆われた旧鉄道跡の地下トンネル「The Vaults」で開催されている。
登場するのは、17人の青少年を自宅で絞殺した「ミルウォーキーの食人鬼」ことジェフリー・ダーマー (1960~94年/米国)、30人以上の若い女性を誘拐・殺害したセオドア・バンディ(1946~89年/米国)、33人の少年を地下室で殺害した「キラー・クラウン(殺人ピエロ)」ことジョン・ゲイシー(1942~94年/米国)など、かなり歪んだ精神を持っていたと思われる凶悪犯たち。科学的、歴史的、教育的観点から彼らの人生や性格を分析し、事件に至った動機や心理を探り、また警察による捜査技術がどう進化してきたかを検証する展覧会となっている。
連続殺人犯たちの所持品や事件で使われた物品などが1000点以上も展示され、誘拐や遺体の輸送に使われた車、分解した遺体を保存していた冷凍庫まで並んでいるというから驚愕だ。ヘッドセットを装着して、再現された血まみれの犯罪現場を実体験する場面もあり、興味本位で気軽に行ったら後悔するかもしれない。また、会場前まで「偵察」に行ったところ、「やんちゃ」そうな若者の姿も多く、あまり1人で訪れるのはおすすめしない雰囲気だ。行くなら昼間の明るい時間帯、キレイめファッションNG、そして数人で。色々な意味で怖いエキシビションであることは間違いない。
Serial Killer: The Exhibition - London
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The Vaults
Leake St, London SE1 7NN
チケット:£21~
所要時間:90~120分
※対象年齢は14歳以上
https://serialkillerexhibit.com/london
週刊ジャーニー No.1363(2024年10月10日)掲載