18世紀当時の邸宅内の様子を拝見!
映画 「プライドと偏見」

これまでに幾度となく映像化されてきた、英女流作家の最高峰ジェーン・オースティン(1775~1817)の長編小説「高慢と偏見」(Pride and Prejudice)。プライドが高すぎて「愛している」と認められない男、偏見が邪魔をしてその愛に応えられない女。女性に財産の相続権がなく、女性にとって結婚がすべてだった18世紀の上流社会。イングランドのカントリー・サイドを舞台に、すれ違う男女の結婚までの道のりをえがいた本作は、2005年にも映画化され、大ヒットを記録した(邦題『プライドと偏見』)。女性主人公エリザベス・ベネットをはつらつと演じたキーラ・ナイトレイがアカデミー主演女優賞にノミネートされたほか、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞にもノミネートされた。グルームブリッジ・プレースは、上流階級だが裕福とはいえない家庭の5人姉妹の次女・エリザベスと家族が暮らす屋敷として使用された。
同邸は映画の中で全編にわたって登場し、大きなかまどのある台所や、電気のなかった時代に、青い壁に燭台が設えられたダイニングは、撮影用のセットではなく、邸宅のオリジナル部分。剥がれそうな壁紙、崩れてしまいそうな漆喰などが見られるシーンもある。さらに、映画には邸宅のまわりに広がる自然の中で撮影された牧歌的なシーンも散りばめられている。朝もやの中、エリザベスの家へと向かう男性主人公のダーシー、夕日色に染められた光り輝く牧草地を歩くエリザベス。この絵画のような光景に、350年前も今も変わりがないのが英国らしいところ。
監督のジョー・ライトは、18世紀当時の英国のリアルな姿を追求しようと画策し、グルームブリッジ・プレースに白羽の矢を立てた。17世紀当時のままの姿で使用され続けていたグルームブリッジ・プレースは、18世紀が舞台の「プライドと偏見」の、これ以上ないロケ地となったのだ。
他にも、1982年公開のミステリー映画、「The Draughtsman’s Contract」(邦題『英国式庭園殺人事件』)のロケ地として、邸宅と庭園が使用されており、この映画もグルームブリッジ・プレースの特長が活きる、17世紀が舞台となっている。

 

コナン・ドイルが愛した
庭園と幽霊

晩年、心霊学に傾倒し、心霊主義の普及に尽力した小説家コナン・ドイル=写真=は、その存在を強く信じていたとされ、妖精や霊に関する著作を数作発表した。「The Edge of the Unknown」(邦題『コナン・ドイルの心霊ミステリー』)の中で、グルームブリッジ・プレースで遭遇したという霊について言及している。
ある時ドイルが友人夫婦をグルームブリッジ・プレースに案内していると、友人が「奇妙な服装をした男が我々のすぐ側を歩いている」と、霊の存在に気づく。その後霊はドイルたちが立ち寄ったパブ、クラウン・インからドイルの自宅にまでついてきて、ついには友人の体に憑依し、ドイルの目の前で自らのことを語りはじめたと書いている。霊はグルームブリッジで働いていた馬丁で、邸宅の堀に落ちて亡くなったと説明。ドイルは目の前で起こったというその体験を、興奮気味に著書に記している。
ドイルは降霊会に参加するだけでなく、お気に入りの庭園であるドランクン・ガーデンで多くの時間を過ごし、静かに小説、シャーロック・ホームズのシリーズの構想を練ることもあったという。
シャーロック・ホームズ・シリーズ「恐怖の谷」(The Valley of Fear)に登場するマナー・ハウス、バールストン・マナー(Birlstone Manor)と庭園は、グルームブリッジ・プレースをモデルにしており、小説中で「The Drunken Garden」を次のようにえがいた。「私は家の横にある古い庭園を散策した。奇妙な形に刈り込まれた古いイチイの木が庭を囲い、その中には美しい芝生が広がっていた。このどこまでも平和な雰囲気の中にいれば、手足を伸ばした血まみれの死体が転がっていた薄暗い書斎のことを忘れてしまうか、ただの悪夢に過ぎなかったと思えた」。
■ドイルと同じ心霊主義者で親交のあったグルームブリッジの住人が、降霊会をしばしば開き、ドイルもそれに参加していたという。この地は、心霊学に没頭しすぎて周囲から変人扱いされるようになってしまっていたドイルにとって、安息の地であったのかもしれない。

 

鉄道遺産
スパ・バレー・レイルウェイ

 蒸気機関車を発明し、世界で初めて鉄道を実用化した鉄道大国英国には、鉄道遺産(Heritage Railway)が100以上存在する。
グルームブリッジの村を通過する「スパ・バレー・レイルウェイ」もそうした鉄道遺産のひとつ。かつてロンドンとイングランド南部の海岸線を結ぶロンドン、ブライトン・アンド・サウス・コースト・レイルウェイ(London, Brighton and South Coast Railways)の支線として1852年に開業したが、1985年に廃線となった。
タンブリッジ・ウェルズ・ウエスト(Tunbridge Wells West)、ハイ・ロックス(High Rocks)、グルームブリッジ(Groombridge)、エリッジ(Eridge)の4駅、8キロを約35分で結ぶ。規模の小さい素朴な保存鉄道だが、ロンドン中心部からのアクセスが良いので、観光客でもロンドンから気軽に出掛けられる。2014年は夏から秋にかけて、テレビで人気のペッパ・ピッグ、ファイヤー・マン・サム、マイク・ザ・ナイトをテーマにしたイベントや、大人気のトーマス・トレインがやってくるイベントも開催される。グルームブリッジ・プレースのゲートからグルームブリッジ・ビレッジにある駅までは、徒歩で約15分。
運行期間 毎年3月中旬~11月初旬(2014年は11月2日までの毎週末とスクール・ホリデー期間中の平日)。12月にはサンタ・スペシャル特別列車が走る予定。イベントの詳細はウェブでご確認を。
www.spavalleyrailway.co.uk