町を歩けばルーベンスにあたる!?
ロンドンのセント・パンクラス駅からユーロスターに乗り、ブリュッセル南駅に到着。電光掲示板でアントワープ中央駅行きの列車の時刻と出発ホームを確認し、国営ベルギー国鉄(NMBS/SNCB)のウェブサイトで購入しておいたチケットを手に電車に乗り込む。ブリュッセルからアントワープまでの所要時間は、約45分~1時間半。国内列車はIC(インターシティ=特急列車)、IR(インターリージョナル=急行列車)、L(ローカル=各駅停車)など数種類あり、発着ホームや所要時間が異なっているのでよく確認しよう。
午後2時過ぎ、アントワープに到着。まずは市庁舎のある旧市街の中心地、マルクト広場へと歩を進める。アントワープは、歩いてまわることが可能な広さだ。駅から町の中心部までは、ゆっくり歩いても30分程度。バスやトラム(路面電車)といった交通手段もあるが、できれば徒歩での散策をおすすめしたい。中央駅から真っ直ぐにのびるメインストリート「De Keyserlei」には、セレクトショップ、チョコレート店、レストランなどが軒を連ねている。また、現在も世界のダイヤモンド取引の6割以上がアントワープで行われているだけあって、ダイヤモンド専門店も多いが、思いのほか簡素な店構えに少々意表をつかれた。
18~19世紀の面影が残る「Meir通り」を抜けると、ルーベンス像がたたずむフルン広場が見えてくる。その像の背後にそびえたつのが、聖母大聖堂だ。そして大聖堂を右手に見ながら脇道を通り抜ければ、マルクト広場に到達。商人たちの富を象徴したギルドハウスや16世紀に建てられた市庁舎、英雄ブラボーの噴水などが立ち並び、中世から近世の繁栄を今に伝えている。
市庁舎近くの横道に入り、スヘルデ川へ。『フランダースの犬』を見た人は、アニメに登場する小川や運河のようなスヘルデ川との違いに驚くかもしれない。実際のスヘルデ川は、広い川幅と深さが特徴で、大型船の往来が可能なことがヨーロッパで有数の港となった一因でもある。その川沿いに建つのは13世紀の要塞で、19世紀まで監獄として使用されていたという「ステーン城」(国立海洋博物館として新オープンしたが、現在は閉館中)。
さて、アントワープといえばやはりルーベンス。「町を歩けばルーベンスにあたる」と言っても大げさではないほど、至る所で彼の偉業を感じられる。
ルーベンスは17世紀のヨーロッパで最も名声を轟かせた画家であり、「画家たちの王にして、王たちの画家」と言わしめた人物だ。8年に及ぶイタリア滞在の後にアントワープに帰郷し、自宅を兼ねた大規模な工房を建造。同地は「ルーベンスの家」として公開されている。画業のほかに外交官の役もこなし、そうした業績から英国でナイト(騎士)の位にも叙せられている。
この他にも、ルーベンスのパトロンでアントワープ市長の邸宅「ロコックスの家」、ルーベンスの墓がある「聖ヤコブ教会」、世界で初めて産業印刷が行われた工房で、ルーベンスが同所の公式下絵画家も務めたという「プランタン=モレトゥス印刷博物館」など、美術ファン垂涎の都市といえる。

アントワープ聖母大聖堂の塔とルーベンス像。
| 観光の強い味方! アントワープ・シティカード |
|
|
とうとう見た! ネロが憧れた祭壇画と対面
いよいよ『フランダースの犬』の聖地、アントワープ聖母大聖堂を目指す。
国内最大規模を誇るこの聖堂は、14世紀半ばから約170年の歳月を費やして建造された。「石のレース細工」「細金細工の傑作」と称される高さ123メートルの塔は、『アントワープの顔』といっても相違ないだろう。
中に足を踏み入れると、教師に引率された学生たちや欧米からと思われる観光客らに混ざって、日本人の姿が多いことに驚いた。30~40人ほどで構成された2つのグループが、日本人ガイドの説明を聴きながら聖堂内を巡っている。『フランダースの犬』の効果は未だ健在のようだ。
ルーベンスの絵は4点納められており、そのうちの1点「藁の上のキリスト」があるのは左奥付近。この絵の前に立ったら、そのまま顔を右方向に45度動かしてみてほしい。視線の先に、ネロが最後に仰ぎ見た祭壇画「キリスト降架」が見えることに気づくだろう。「あの絵だ!」と走り出したくなる気持ちを抑え、物語を忠実にたどるならば、まずは正面奥の主祭壇に掲げられた「聖母被昇天」へ足を進めよう。
ネロはミルク運びが終わると聖堂を訪れ、聖母マリアが天に召される様子を表現した「聖母被昇天」を眺めながら、幼い頃に亡くした母の面影をしのんでいたが、ルーベンス自身にとってもこの絵は特別な意味を持っている。「妻の死と同時期に完成した」と言えば推測できると思うが、亡くした妻への哀悼の意が込められている。
次に、その左手に据えられた祭壇画「キリストの昇架」へ。クリスマス・イヴの夜、カーテンが開いていることに気がついたネロが最初に走り寄ったのが、この十字架にかけられるキリストの絵であった。
そしてついに、正面右手にある祭壇画「キリストの降架」の前に赴く。キリストの亡骸が十字架から降ろされる場面が描かれており、生気を失いぐったりとした身体、手足やわき腹から流れ落ちる血が生々しい。天井近くのステンドグラスから淡い光が降り注ぎ、キリストを優しく照らし出している。絵の前には長椅子が並べられているので、ネロとパトラッシュが横たわったようなスペースはない。だが、この床を見ているだけで目の前の景色がにじんできてしまった…。現在の私たちは、ルーベンスの作品をこんなにも手軽に見ることができる。物語の中でも、「きっとルーベンスは、貧しい人に絵を見せたくないなんて、思わなかったはずなのに」とネロは語っているが、そんなネロの悲しみに思いを馳せ、現代に生きる我々の幸運をかみしめた。



セール情報をいち早くGET!今週のお買得★食料品『TKトレーディング』